どう考えたって、この国、日本の "労働力需給バランス" は正常な見通しを持たないようだ。ようやく、海外からの労働力を当てにし始めているようだが、もちろんそれは妥当な政策だと思われる。爆発的に増加する高齢者層、そしてその多くが福祉のケア作業を必要とするであろうことを想定するならば、年金制度や福祉コストの増大もさることながら、一体、誰がケア作業に当たるのかを考えるならば、背筋の寒い思いがする。
福祉のケア作業以外にだって、社会的に必要不可欠な労働力は多々想定させるはずであろう。海外からの労働力人口はもちろん織り込み済みなのであろうが、今ひとつ大きなブロックとして考えなければならないのが、 "シニア・パワー" だということになろう。
次のような新聞記事が目に止まった。
<EU、シニア就業率高まる・成長維持へ労働力確保
【ブリュッセル=下田敏】欧州連合(EU)で高齢労働者(55―64歳)の就業率が高まってきた。急速な少子高齢化をにらんだ各国が雇用促進策を進めたため、全体では最近5年間で38%から44%に上昇した。EUは2010年までに就業率を50%に引き上げる目標を設定。雇用延長などで労働力不足を補い、年金や医療など社会保障制度の安定性を高める方針だ。
EU加盟国は13日から首脳会議を開き、経済成長と雇用政策を協議する。欧州委員会が提出する報告書によると、高齢者の就業率は直近の06年で44%に上昇。英国や北欧、バルトなどの9カ国ではEUの数値目標である50%をすでに超えた。>(TITLE:NIKKEI DATE:2008/03/11 )
以前、TVのドキュメンタリー番組で、ヨーロッパの各国が、習熟度の高い労働力を有効活用するために、官民こぞって知恵を出し合う動きのあることに接した覚えがある。その番組は、ひとえに勤労人生で積み上げられてきた貴重な "職務ノウハウ" をむざむざと廃棄してはならない、というような空気に満ちていたかに思えた。そこには、ニュー・テクノロジーの援用だけが仕事をこなすわけではない、とする仕事への深い洞察もあったかに覚えている。
日本国内の事情がどう変化してきているのかは不勉強ながら掌握していない。同様の傾向であることを期待するが、もしそうでないとするならば、この国は、産業の持続的発展に関してあまりにも杜撰だと言うほかないのかもしれない。
一頃、 "団塊世代の大量退職" が問題視された際、同世代の仕事師たちが培って保有している "無形のノウハウ" を遅滞なく若い後継者たちに引き継がれるべきだという妥当な論調があったかと思う。
まさか、そうした百年の計にも匹敵するような課題がぞんざいにやり過ごされたはずはなかろうと思う。だが、考えてみると、この同時期に労働力人口に関して表れた特長的な事実のひとつは、 "正規社員" 比率に対する、テンプ・スタッフなどの "非・正規社員" の圧倒的比率増ではなかったか。人件費コストの構造的圧縮である。その甲斐あってか、経営収益の数字は飛躍的に増大した。
まさか、蛸が自分の足を食ってその場を凌ぐようなことはしていないだろうとは思われるが、業務上のノウハウの継承の良否は、きっと一定の時間を経た後に何らかの形で染み出してくるという筋合いのものかもしれない。
他の産業分野のことは措かざるを得ないが、事、ソフトウェア業界(IT業界)についてこの種の問題を考えてみる時、われわれの眼から見える将来展望は、決して楽観的なものとは思えないでいる。
いや、むしろこの業界は、技術、プロダクツ、人の三つ巴で、超高速で激しいスクラップ&ビルドが繰り広げられて来ただけに、ハイエンドの先端部分、前線状況にはスポット・ライトが照射されても、累々と積み重ねられてきた既存システム(レガシー・システム)はほとんど衆目を集めないかのようである。そして、突然に注目を浴びるとすれば、あの旧 "社保庁" の年金システムのような信じ難い様相となるのかもしれない。
この様相が、悲劇でしかないのは、いわゆるレガシー・システムというものは、既に担当技術者群はとっくに離散していることと、当該システムの構造や仕様に関するドキュメント類はほとんどあてにならない状態にあることだと思われる。たぶん。こうした惨憺たる状況は、年金システムに限られたものではなく、古く巨大なレガシー・システム一般に言えることではないのだろうか。
だが、もはやレガシー・システムなどというものが、加速化する現代にとってほとんど無関係となりつつあるのならば、とやかく言うこともないのかもしれない。そして、 "老兵" たちも静かに舞台から引き下がればよいことになりそうだ。
しかし、過去からの継承を希薄にさせた者たちだけでの舞台の上での開発というものは、果たしてクリエイティブであることができるのだろうか...... (2008.03.12)
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