ビルの地下通路に羽ばたく "夜の蝶たち" ......

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 38年も前の事を急に思い出せ、と言われても困るものだ。
 <昭和45年の7月頃に......>と、急に問われることになったのである。といっても、警察にではない。だから、何らかの刑事事件のアリバイ調査でも、参考人関連でもない。問い合わせは、同じ官庁関係からではあるが、 "社会保険事務所" からなのである。
 この間、60歳に相成るにおよび、もらえる人はもらえるらしい「特別支給の老齢厚生年金」(自分の場合は現役で収入があるためもらえない!)の「年金請求書」の書類手続きだけは進めることになっていた。
 そのやりとりの中で、大学時代にアルバイト先で加入することになった厚生年金履歴3ヶ月分が抜け落ちていたらしいのだ。今、 "社会保険事務所" 側は、いろいろな不祥事で顰蹙(ひんしゅく)を買っているためであろうか、こうした瑣末な点についても、逐一問い合わせを行っているようなのである。

 帰宅して、郵便物で確認した当局からの問い合わせは以下のとおりであった。
<S.45.7 頃 3ヶ月間 新宿区の会社に勤務したことはありませんか? ......>
 もちろん、咄嗟にそんな古い記憶を呼び覚ますことはできなかった。
 何だ、これは? と不審に思い、とりあえずは夕食前のビールに手をつける。
 自慢ではないが、学生時代に行ったアルバイトは無数にある。まあどちらかと言えば、年金徴収なんぞとは縁のないいい加減な類がほとんどであったため、まともそうなものを記憶の中でざっとサーチしてみる。
 すると、二、三、該当しそうなものが浮かび上がり、その内、 "新宿区で" という条件によって、あー、あれか! と思い当たったのであった。
 新宿の "とあるビル" の "夜警" なのである。おそらく、即今のように物騒な時代であれば、とりあえず "夜警" といえば "3K" 中の王者のような危険な職なのでパスしたに違いなかろう。
 が、当時は、今現在と比べれば世の中の危険度も高が知れていたし、何せ、当人こそが最も危険(?)であるような血気盛んな年頃でもあった。そう言えば、1970年であるから、学園紛争の嵐はひとまず収束してしまい、ヘルメット・角材・投石騒ぎを掻い潜った者としては、怖いものなんぞは何もない(♪ ただ、あなたの優しさだけが怖かった......♪ )、来るなら来い、といった調子だったのかもしれない。
 加えて、 "夜警" というのは、危険は危険なのだろうと推定したが、通常のバイトよりも単金が良かったし、また、 "巡回" 以外の時間は "詰め所" で読書などが可能である点が魅力だと思えた。確かに、随分と充実した読書をさせてもらったとの記憶がある。

 ところで、 "そのビル" というのは、ちょいと曰く付きのビルなのであった。今回、記憶を新たにすべく、例によってネット検索をしてみたところ、偶然に下記のような記述を見つけることになった。

<新宿の区役所通りを行くと通称職安通りに突き当たる。西北ビルはその少し手前の右手にある住宅公団の10階建てのビルの名称だった。
 西北ビルとは何となく早稲田を連想させるが、それもそのはず、このビルのオーナーは早大出身の田村泰次郎氏。終戦直後のベストセラー小説「肉体の門」の作家である。
 ビルの1階から3階までは貸店舗になっており4階から上が公団住宅になっている。地下には大きな高級クラブがあった。昼間は変哲も無い通りだが、夕方になると100名近い夜の蝶たちが姿を現し、西北ビルの前は忽然と華やいだ繁華街に一変する。>(日刊ブログ新聞 ぶらっと! 「人間蒸発と西北ビルの頃」より)

 今現在、このビルがどうなっているのかは知らない。40年近くも経てば、現存している方が珍しいかもしれない。
 <区役所通り><通称職安通り>といえば、今はどうかは知らないが、当時は、その種の女性たちがウロウロしていた場所である。現に、出勤途中の夕刻、あるいは明けて帰宅しようとする道すがらで、何度も「ねぇ、お兄さんどこ行くの......」と声を掛けられたことがあったものだ。
 ところで、上述の引用文中の<地下には大きな高級クラブがあった>という箇所には、そうそう、と思わず相槌を打ってしまった。
 このビルの "夜警" は、<1階から3階までの貸店舗>と<地下の大きな高級クラブ>とが警備範囲だったのである。そして、 "夜警" の "巡回" は、<貸店舗>それぞれを、確か部屋の中までチェックしたはずだった。真っ暗な部屋の中を懐中電灯だけでチェックするのは多少気味が悪かった。確か婦人服関係の店舗もあり、マネキン人形がちらほら佇んでいる部屋なぞは緊張した。
 そして、最後に、地下に向かって、ボイラー室での空調関係の操作を済ませ、そして<高級クラブ>の地下通路をチェックしながらビルの外回りに出たと記憶している。この地下通路のチェックだけが、唯一の "役得" であったかもしれない。というのは、高級クラブのショーの舞台で "脱ぎまくった" 夜の蝶たちが、そのままの格好で地下通路に飛び出して来て、着替え室に向かうのがお定まりだったからなのである。
 この "夜警" のアルバイトを始めた時、交代メンバーの先輩がとある事を教えてくれていたのである。 "巡回" 時刻は多少ズレても構わない。けれど、地下通路のチェック時刻は、23:**近辺となるようにすべきだ! と。統計的に言って、その時刻が、 "その出来事" がほぼ毎日繰り返される時刻であったわけなのである。まさに "その出来事" は、<小説「肉体の門」の作家>田村泰次郎氏のビルを夜な夜な徘徊するしがない貧乏学生 "夜警" への、心尽くしの "大入り袋" だったのではなかろうか...... (2008.05.16)













【 SE Assessment 】 【 プロジェクトα 再挑戦者たち 】








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