日本のIT業界の問題状況を縷々分析したところで、残念ながらあまり生産的な "再生" 指針が浮かび上がってくるようには思えないでいる。
その分析作業で析出される最大公約数的問題点が、<受託開発中心の体質と多重下請け構造>にあることは周知の事実であろう。加えて、これらを実現しているのが<多重派遣>の就業実態だとするならば、何をか言わんやであろう。
そして、これらがすでに何十年もの "実績" を作るかたちで慣行されてきた以上、今流行りの言葉で言えば、 "メタボリック" 症候群ではないが、一朝一夕にリビルドされるものとはとても考えられない。
ただ、変化の兆しがないわけでもなさそうである。
根深い問題状況というものは、大抵、ボトム・アップ的に問題提起され、ライティングされるというのが世の常のようである。森の大異変をいち早く察知するのが、森の住人たちの中でも昆虫や小動物たちだと見なされているように、IT業界の "斜陽" 傾向をそこはかとなく裏書きしているのは、この業界に対する "学生たちの不人気" という残念な現象だと言えるのかもしれない。
また、IT業界内の多くの企業がますます収益性を低下させ、その煽りを受けるかたちで、 "中小ソフトハウス" がますます苦境に陥っているという事実も目に入る。そこから、これまで以上に、<多重下請け構造>からの脱却が叫ばれてもいる。もう、 "耳タコ" 状態となるほどの叫びのような感触もあるが......。
こうした "悲観めいた状況" にあって、一体何に着眼し注目すればよいのか、という点が関心の焦点となる。
筆者には、かねてからソフトウェアというものへの定見(?)めいたものがあった。 "ソフトウェア、アプリなければ独り言" (c.f. "コンピュータ、ソフトなければただの箱" )とでも表現したいものであり、ソフトウェアは "アプリケーション・ニーズ" と寄り添ってこそ精彩を放つものだという確信であった。
この観点から、僭越ながら、ソフトウェア技術者のための "人事考課" や育成方法をまで提案してきた経緯もあった。(ex.『 SE Human Assessment ソフトウェア技術者のための評価と人事考課 http://www.bb.din.or.jp/~adhocrat/index.htm )
その要点は、プログラミング能力(もっと拡大解釈して、クリエィティブな能力と言ってもいい)というものは、 "内在論理" 的視点だけで把握しようとするのはムリがあり、 "外在" 的要素、たとえば対アプリケーション能力や対人関係能力などとの緊張関係によってこそ、活性化されるものではないかと、そう想定してきたのであった。
この観点での開発の "理念型" 的スタイルは、当然のことながら、開発主体の軸足というか体重が、システム技術的要素側面とアプリケーション・ニーズ要素側面の、その両面にかかるということにならざるを得ない。現実的な形態で言えば、あの "エンドユーザ・コンピューティング" の姿を思い起こすことができよう。
だが、自身ではこれが "正攻法" だと確信した観点ではあったが、<受託開発中心の体質と多重下請け構造>が一般的な業界の現実の中では、システム開発=ユーザ仕様に基づくメイキング! という通念とスタイルが跋扈し続けたわけだ。
そして、それにはそれなりの "必然的環境" があったからだと言うことは十分に可能であるに違いない。
だが、現時点での業界周辺での環境変化は、その "必然的環境" を大きく切り崩しているとは言えないであろうか。やや長い引用となるが以下の指摘と叙述に注目したいと思う。
筆者なりに言い直せば、 "How to" 視点と "What" 視点とを融合させる技術者たちに注目せよ! ということになろうか。
< 個人で作り,直接ユーザーに届けることができる時代
なぜこのような「世界を変える技術者」(「アルファギーク」たち 筆者)が続々と登場してきたのか。その背景には,オープンソース・ソフトウエアやネット上のWebサービスを組み合わせるマッシュアップを活用することで,かつては大組織でなくては作れなかった大きなソフトウエアやWebサービスを個人が作れるようになったことがある。そして,インターネットにより,流通や営業を通さず,技術者個人がダイレクトにユーザーに届けることができる。
...... 中略 ......
だがプログラマのツールとなるソフトウエアはともかく,一般ユーザーが使うソフトウエアやサービスなら,アイデアを出すのは別に技術者ではなくともいいはずだ。プロデュースする人間がプログラマにアイデアを伝えそれを実装すればよい。
そのとおり。実際に創業者のアイデアを別のプログラマが実装した例もある。しかし,Googleやはてなではプログラマが自らの手でアイデアを実装するケースが多い。なぜなのだろう。
その理由は,技術が猛スピードで進化しているから,そして,ユーザーとの対話の中で猛スピードで改良していけるものだけが生き残るからではないか。記者はそう考えている。先週には事実上不可能だったことが,今週には現実的な選択肢になる,その中で新しいものを構想していくには技術者は有利なポジションにいる。少なくとも技術に精通していることは欠かせない。そして高速でソフトウエアやサービスを進化させていくにも,プロデューサとプログラマが同一人物であることは有利だ。技術が進歩し続ける限り,そしてその進歩が急激であればあるほど,この傾向は強まるだろう。
発信し自立する技術者がSI業界も変える
...... 中略 ......
ノウハウや自作のソフトを発信することで他人をハッピーにして,同時に自分の技術力を証明する術を身に着けた技術者が増えてくれば,IT業界は変わっていくのではないかと筆者は感じている。自ら発信し自分の力を証明できる技術者は,人をコストとしてしか見ず,使い捨てにする企業にはすぐに見切りをつけるだろう。>( 高橋 信頼=ITpro 2008/04/25 http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20080424/299986/ )
...... (2008.06.02)
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