"ユビキタス・コンピューティング" という言葉が使われるようになって久しい。
だが、かなり荒っぽいイメージしか持ち合わせてこなかった。 "いつでも、どこでもコンピューティング" というような触込みから、高々、 "モバイル・コンピュータ" の延長線上の話くらいにしか了解してこなかった。
が、昨晩、あの "TRON(The Real-time Operating system Nucleus)プロジェクト" で名を馳せた "坂村健" 教授が講演するTV番組をじっくりと観ることで、はじめてなるほどと実感できた。( NHKデジタル教育3 『楽しむ最先端科学「仮想世界と現実世界の融合を目指して」』2008年 7月 7日 [月] 午後8:00~午後11:16 [196分] )
この番組は、中学生・高校生にも "わかる" ようにと企画され、坂村健教授が、東大の小柴ホールで講演したものの録画であり、何と3時間を越える "大作" である。たとえ、理数が好きで得意だとしても中・高校生の理解力をはるかに上回る内容ではなかったかと思えた。
自分にとっても、夕食後の腹ごなしに軽く観(み)流そうとしたのだが、ちょいと重過ぎる内容であったようだ。ただ、ハイエンドのIT技術分野の実態を丁寧に鳥瞰させてくれるその番組内容は、決して飽きさせるものではなかった。とは言うものの、講義方式での話が中心であったため、久々に長時間の講義を受けたようで、幾分かの脳の疲労は否めなかった。
坂村教授の "TRON" コンピュータは確か80年代にデビューしたはずであったが、聞くところによれば、何でも米国の政治経済的な国策によって当時の世界からは正当に評価されなかったようだ。
だが、 "ユビキタス・コンピューティング" の潮流とともに、最近再び、 "Real-time OS" としての "TRON" コンピュータが脚光を浴び、 "TRON" の名は再び各所で耳にするようになったものである。
講義は、この "Real-time OS" というものが、Windows のようなOSとは異なって、スケジュール精度の高い制御が要求されるジャンル向きであるというような話から始められた。
そして、次に、 "Suica" のように無線(非接触通信)でデータをやりとりできるデバイス(RF-ID[ RFID(Radio Frequency IDentificationの略)は、ID情報を埋め込んだタグから、電磁界や電波などを用いた近距離(周波数帯によって数cm~数m)の無線通信によって情報をやりとりするもの。ICタグそのものや、パッシブタイプのICタグなど。])の仕組みに進む。これらは、メイン・テーマの "ユビキタス・コンピューティング" の環境を理解する上では必須前提であるためか、興味深く丁寧な解説がなされていた。
特に、 "Suica" のような電源を持たないコンピュータチップが、電磁波を解して微弱電流を確保しながら応答を返すという仕組みは、目から鱗が落ちるような気がしたものであった。
で、最終的に、 "ユビキタス・コンピューティング" 技術の本質は、 "Context Awareness (状況の自動認識)" にあるということが説明された。そしてそのために、現実世界のさまざまなモノや場所にコンピュータチップを組込み(タグ)、モノや場所が識別できる環境を作り、その上で仮想世界から関連する情報やサービスをリアルタイムに取得する......、という大筋のアーキテクチャが解説されていくのであった。
組込まれるコンピュータチップの数は膨大なものとなりそうだが、また、モノや場所が識別(区別)されるために付与される個別のID(数字)の数も半端な数ではなくなる。
こんな事情を想像してみた時、自分は、昨今のインターネット技術を想起せざるを得なかった。あの "Google" 検索システムのことである。世界中のサイトの情報を掌握しつつ、要請された "検索" に対して瞬時に応えを返してゆく、というあの画期的なシステムのことである。 "ユビキタス・コンピューティング" の発想は、すでに実現している "Google" 検索システムのそれとまさに重なっていそうだ、と思えたのである。
ところで、こうした技術動向に関しては、坂村教授自身も、半面での警戒心を示しておられ、「技術」のアーキテクチャと同等の、あるいはそれ以上の水準の「制度」アーキテクチャが必須であるとの釘を刺すことを忘れていなかった。
それは当然のことであろう。話は、 "監視カメラ" が街に溢れるどころではなく、モノや場所やそしてヒトの固有情報が、いわば "可視化" されるのであるから、運用 "制度" に人智が盛られないとすれば、現実世界はとんでもない世界に成り果ててしまうからである...... (2008.07.08)
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