"原油高騰" がいよいよ深刻さを増している。
直接的に被害を被っている者たち、業種は多いが、その操業を "燃料" に依存する "漁業" の痛手も計り知れない。
<全国一斉休漁、燃料高など窮状訴え
全国漁業協同組合連合会をはじめとする17の主要漁業団体が15日、一斉に休漁に入った。全国で約20万隻の漁船が参加した。漁業者は急激な燃油高騰で経営が圧迫されている窮状を訴えた。
島根県内では約4400隻あるすべての漁船が出港を見送った。漁船は「燃油高騰により全国一斉休漁中!」と垂れ幕を掲げた。神奈川県三浦市のみうら漁業協同組合も全700隻が休漁した。漁師の1人は「燃料代の高騰で出漁しても赤字」と憤っていた。>(日経ネット:経済ニュース 2008/07/15 )
"原油高騰" の原因が、発展新興国の実需の急増だけではなく、 "原油ファンド" などの投機マネーの動向にあることは指摘され続けてきた。政府も次のような "白書" を出したそうだ。
<一次産品価格、「投資」が3―4割押し上げ 通商白書
甘利明経済産業相は15日の閣議に2008年版の通商白書を提出した。原油、小麦、トウモロコシなど一次産品価格について、実需以外の年金基金や産油国の投資・投機資金の流入が3―4割程度押し上げていると試算した。中国やインドなど新興国の需要増だけでは価格高を「説明しきれない」と指摘、市場の透明性向上が必要との見方を示した。
高騰を続ける原油や食料の価格形成要因について、政府がまとまった分析を試みたのは初めて。......>(日経ネット:経済ニュース 2008/07/15 )
しかし、この局面もさることながら、以下のような関係筋による指摘が実に興味深かった。
<原油相場上昇、政策のスキにつけ込むマネー
商品部 竹蓋幸広(7月15日)
原油相場が青天井で上昇している。「投機悪玉論」がしきりに聞かれるが、マネーは値動きを増幅させているに過ぎない。原油が買われるのは理由があるからだ。問題は将来の供給不足懸念もさることながら、消費国に市況を冷やそうという姿勢が乏しい点にあるのではないか。マネーはそうした政策のスキにつけ込んでいるように思う。
消費国の政策で疑問に感じるのは国家備蓄放出に消極的なことだ。米国は同時テロ以降、戦略石油備蓄(SPR)の積み増しを進め、現在の在庫量は約7億バレルと過去最高水準だ。数%取り崩せば需給への影響はあるはずだし、取り崩しを示唆するだけでも市場心理への影響はあるはずだ。ブッシュ政権は備蓄積み増し停止を発表したが、放出には動こうとしない。
サウジアラビアを除く中東産油国の増産余力は乏しく、新興国の需要を抑えるのは難しい。米国や日本など先進国が原油高対策に動くべきなのに、備蓄確保にこだわり、かえって供給懸念を強めているようにみえる。
原油高の一因とされるドル安についても、米国がどこまで危機感を持っているか疑わしい。米国にとってドル安は輸入物価の上昇につながる半面、穀物や自動車の輸出促進につながる。貿易赤字縮小という側面も考えれば、ドル安をさほど深刻な危機と受け止めていないのかも知れない。
消費国の政治家からは、原油高について現状分析や責任転嫁の発言が目立つ。自ら本気で対策を示さない限り、市場になめられるばかりだ。>(日経ネット 商品コラム 2008/07/15 )
<米国や日本など先進国が原油高対策に動くべきなのに、備蓄確保にこだわり、かえって供給懸念を強めているようにみえる。>という点と、<ドル安>状況という点こそが注目に値するというのである。
この筆者(竹蓋幸広 氏)は、稿を改め<原油高騰、米国が寛容なワケ>と題するコラムも書いている。そこでは、次のように米国の姿勢を糾弾している。
<米国など消費国は増産を渋る石油輸出国機構(OPEC)を批判するが、原油高の震源地は産油国でも新興国でもなく米国だ。米連邦準備理事会(FRB)の度重なる利下げがドル安を促し、年金基金などのマネーをドル資産から原油など国際商品に呼び込んだ。......FRB議長はドル安が貿易赤字縮小につながるとの判断を示している。ガソリン高で苦戦している米自動車産業などにとって輸出面の恩恵は大きい。それ以上に見逃せないのが原油高とドル安が米国の農産業にプラス効果をもたらすことだ。......米国がドル安・原油高に寛容にみえる背景には、こんなしたたかな読みもあるのかも知れない。>(日経ネット 商品コラム 2008/07/15 )
世界経済のドクター・ストップ的危機にあって、事態の構造を凝視するクールな視点がますます強く求められていそうだ...... (2008.07.15)
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