"TLS 患者" における、"自律神経系" の "非言語的コミュニケーション" ......

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  "ALS(筋萎縮性側索硬化症)" の患者さんたちの "閉じ込め症候群(TLS [totally locked in state])" の問題に接する時、注意と関心を喚起されるのは、何と言っても患者さんたちの "yes/no という意思" の確認、患者さんたちとの "コミュニケーション" という課題であるに違いない。
 先日来触れてきたTV番組 <命をめぐる対話 "暗闇の世界"で生きられますか /NHKスペシャル 2010年3月21日(日) 午後9時00分~9時49分 NHK総合テレビ> における<照川貞喜さん>の場合も、献身的に介護されている奥さんが、五十音を読み上げたり、五十音が表示された透明板を活用したりしながら、<照川さん>の思いを一文字一文字拾い上げて "紡ぎ出して" おられた。そのご苦労は並大抵のものではない。
 しかし、<照川さん>の場合は、正確には "TLS [totally locked in state]" ではなく、頬の筋肉運動が可能であるため、それを介した "yes/no という意思" の発現が "コミュニケーション" を成立させることができる。
 だが、一切の "随意運動" が不可能となった「完全な閉じ込め状態=totally locked-in state (TLS)」の場合には、一体どのような "コミュニケーション" の可能性が残されているというのであろうか。

 ある注目すべき<報告書>は、 "テレパシー" にもすがりたい気持ちとなっているご家族や介護者の切ない思いを以下のように伝えている。

<文字盤によるコミュニケーションがとりにくくなり、一文字を拾うために時間を費やすようになると、家族や介護者は以心伝心、言わなくてもわかる、頭の中に患者の言っていることが伝わる術はないか探している。テレパシーの訓練をしたり、眼球の動きを誘導するための手かざしの手から、パワーが送れるように力(気)をこめたりなど、一見滑稽に見えることにまじめに家族も介護者も取り組んでいる。>( 小長谷百絵/川口有美子「ALS(筋萎縮性側索硬化症)のTLS(totally locked in state)にある患者との意思疎通に関する研究 ― 介護者へのインタビューから」

 現在、 "TLS [totally locked in state]" にある患者さんとの "コミュニケーション" 成立の可能性は、大きく分けて "二つの側面" で追求されているかのようである。
 その一つは、 "脳波" や "脳血流" の観測で何とか構築しようとするアプローチであり、もう一つは、不可能となった "随意神経系" を通した "言語的コミュニケーション" の代わりに、患者さんの "自律神経系" によって行われる "非言語的コミュニケーション" に耳を傾けようとするアプローチだと言えそうである。
 上記の<報告書>を紹介かたがた理解させていただくと以下のようになりそうだ。

 1. "脳波" や "脳血流" の観測によるもの
<現在TLS に対して、頭の中で何かを考えたときに発生するβ波を生体信号として、額につけたディクタで検出し、電気信号に変える脳波スイッチ「マクトス」(テクノスジャパン)や、暗算をしたりすると脳血流量が増えることに着目した「脳血流スイッチ」(日立製作所)によるyes/no を検出する装置がある。>(同上報告より)
 ※ c.f. (製品紹介サイト)閉じ込め症候群患者のための脳血流の変化を利用したYes/No判定装置「心語り」

 ただ、一見、飛び付きたいアプローチではありそうだし、今後の技術的飛躍を望みたいが、そこには水面下での "困難さ" も潜伏していそうである。
<しかし「脳波/脳血流スイッチを」使いこなすための訓練は厳しい。厳しい理由の一つとして、人が自在にβ波を出したり、脳血流量を増減させることは本来困難で、その訓練は一種の修行につうじる。もう一つは、脳波あるいは脳血流によって発せられたYes/No の電気信号と、実際のYes/No との整合性を確認しながら訓練をしてゆく必要があるが、TLS になるとその整合性は当然確認できない。
 できれば眼球運動によって文字盤などによるコミュニケーションが可能である時期から訓練を開始したいが、疾患が進行した状態を想定して訓練を開始するのは本人も家族も耐え難い。
 したがって日本で「脳波/脳血流スイッチを」によってコミュニケーションが取れる患者は、日本ALS 協会の情報調査でも数えるほどもいない。小児のマクトス使用例も、母親側による意志の補い作業の割合が大きいと推測される。マクトス以外でも Brain-computer interface system の訓練の報告もあるが、習得に、週に1回から2回のセッションで3 ヶ月から7ヶ月を要する(A.Kubler 他、2005)といわれており、現在もまだTLS にある人とのコミュニケーションの問題は大きい。>(同上報告書より)

 2.患者さんの "自律神経系" によって行われる "非言語的コミュニケーション" に着目するもの
 要点から言うならば、上記の<報告>では、<【まとめ】>として次のように結んでいる。筆者たちのこのアプローチに託した期待感が伝わってくるようである。また、自分としても、 "情動" と密接に関係した "自律神経系" のサインに着目することの "科学的意義" は意外と小さくないのではなかろうかという予感を抱いている。
<【まとめ】
 TLS にある患者は、脈拍、顔色、血圧、気管内分泌物の量、流涙など自律神経系の表現力を使ってコミュニケーションをとっており、全身の筋肉の動きは止めてしまっても、患者は豊かな情動をもち、その自立性は損なわれていないことがわかった。介護者は患者とコミュニケーションが取れた時期の経験や患者の性格などと照らし合わせて、これら自律神経系のサインを解釈して介護内容に反映させていた。
 今後はコミュニケーションが取れる時期から自律神経系のサインに注目し、サインの示す内容を患者に確認しておくという介護の推奨と、50 音で言葉が拾ってゆけるような、意志伝達技術の開発と介護方法の研究が必要である。これらは、患者の自立性の持続のためにも、治療や処置など、直接生命にかかわるような意思決定を他者が代替することがないためにも、早急にその開発が求められる。......>(同上報告書より)

 なお、この辺の事情についての以下の記述は非常に参考となりそうなので、長くなるが引用させていただく。
<1.TLS にある患者のコミュニケーションについて
 ALS の患者が侵される随意神経系とは対照に、自律神経系は不随意である。自律神経系は消化、呼吸、発汗などのような不随意な機能を制御し、一定の内部環境を維持し定常性を保とうとする機能である。高齢者などは自律神経系の機能が衰えやすく、寝たきり高齢者の頭部側を、急にベッドアップをすると、めまいや気持ち悪さを訴えることがある。ところがALS は長期に臥床していても、便秘などの症状が出にくく、自律神経系は侵されにくいことが特徴であるといわれている。しかしこれらの機能は自身のコントロールの外にある。私たちは生活の中で、大きな不安や焦燥、悲しみ、疼痛に遭遇すると、心ならずも顔色が変わったり、動悸を感ずる経験がある。患者は筋肉の動きは止めていても、情動の動きは止めておらず、それを他者に伝えるために患者の自律神経系は心臓の動きを早め、末梢の血管を拡張させる。
 患者は、随意神経系によって行われる言語的コミュニケーションには限界があるが、介護者は自律神経系によって行われる非言語的コミュニケーションに耳を傾け、コミュニケーションが取れていた時期の出来事を手がかりとして、不安、恐怖、喜怒哀楽を読み取り、それらの意味を探り、患者に返すというコミュニケーションを行っていると考える。
 しかし私たちは先に述べたように、動機や赤面を自覚することはあっても、それは衝撃的な感情や息を飲むような痛みの場合であって、慢性的な不安や不快によって顔が赤くなる、脈が速くなるなどのように敏感に反応するという自覚はない。自身のコントロール外にある自律神経系を動かすほど、患者の情動は、私たちが想像する以上に、大きな強い情動であるかもしれない。あるいはわずかな感情のゆれを、患者は自律神経系に連絡をして、コントロールをしているのかもしれない。
 情動反応とは「環境での出来事の意味内容の分析を通して、様々な環境での出来事が自律神経系の興奮をもたらすような刺激に変換されてゆくのであり、このような刺激によって覚醒状態がもたらされるようになると考えられる。自律神経系の覚醒状態と意味を見出す認知のプロセスというものが情動を引き起こすために必要な条件であるということができる。ここで注目されるのは自律神経系の反応の絶え間ないフィードバックとその時々の認知的評価を変容させてゆくこの新しい評価のプロセスである。」(Luzaraus、Folkman、1984)といわれているように、患者の環境に起こる出来事の意味内容と自律神経系は相互に連絡しあい、認知的評価のプロセスを通して、さらに自律神経系と情動は深いつながりを持ち始めているのかもしれない。>(同上報告書より)

 <自律神経系によって行われる非言語的コミュニケーション>というテーマに関しては、研究のその発展と介護実績の積み重ねが、 "TLS 患者" さんたちにきっと一筋の光明を与えることになるだろうと思われる。
 と同時に、<随意神経系によって行われる言語的コミュニケーション>面に "偏重" (?)しているかにも見受けられる現代の "人間像" に対して、何がしかの "修正" を迫る可能性もあるかに思えるのである...... (2010.03.25)













【 SE Assessment 】【 プロジェクトα 再挑戦者たち 】








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