アイスランドの火山活動に伴う火山灰の影響で、北欧諸国の各空港、空の便が大混乱している状態は相変わらず続いている。何十年ぶりかで迎えている "異常寒気" と言い、乱調気味な自然現象の推移には自ずと眼が向けられてしまう......。
アイスランド南部の火山は先月20日、今月14日と大きな噴火を起こしており、単なる一過性の噴火なのかどうかが気になるところでもあろう。
映画好きの自分としては、『ボルケーノ』 (VOLCANO/1997年/アメリカ映画) というパニック映画を思い起こしたりもするが、そうしたフィクションよりも、火山活動による影響に関する "史実" の方に関心が向く。
とりあえず二つの "史実" 、ひとつが、よく知られた名画、ノルウェーの画家ムンクの「叫び」(1893年)。手元に画集があれば参照していただきたいが、橋の上で不安の余り "叫び" をあげて "ひょうたん" 状の顔となった人物(ムンク自身)、それはそれとして、背後の空が不気味に "赤い" うねりとして描かれていることが要注意なのである。
自分も、これまでは単なる "夕焼け" がデフォルメされたものとばかり思っていた。が、実はどうも、ムンクは "火山噴火" という自然現象の影響を忠実に再現していたようなのである。
次のコラムがそのことについて触れていた。
<......ノルウェーの画家ムンクの「叫び」は、橋の上で誰かが独り恐怖か不安かで顔をゆがめている。背景に描かれた空の異様な赤さは「大噴火した火山が運んだ粉じんのせい」とする論文が数年前に発表された。
噴火したのはインドネシアの火山で、1883年のことという。火山灰は成層圏を覆い、地球規模の環境変動をもたらした。ノルウェーでも朝夕の空が数年間にわたって赤く染まった。その光景をムンクも見たといわれる......>(「ノルウェーの画家ムンクの「叫び」は...」=2010/04/18付 西日本新聞朝刊=)
ちなみに、同作品についてのムンク自身による解説を当たってみると以下のとおりであった。
<僕は2人の友人と散歩をしていた。日が沈み、突然空が赤く染まり、僕は憂鬱な気配に襲われた。立ち止まり、欄干に寄りかかった。青黒いフィヨルドと市街の上空に血のような炎をはく舌のような空が広がっていた。僕は一人不安に震えながら立ちすくんでいた。自然を貫くひどく大きな終わりのない叫びを僕はそのとき感じたのだ。>(マティアス・アルノルト著・真野宏子訳『パルコ美術新書エドヴァルト・ムンク』パルコ出版、1994年)
その時にムンクが直感したという<自然を貫くひどく大きな終わりのない叫び>というものが、現代のわれわれにとっても "避けがたい感覚" であるような気がするのだ。
もうひとつの "史実" は、まさに今回注目されている "アイスランド噴火" と直結している。
<......地球を覆う粉じんは時に地上の風景を一変させる。白亜紀末の恐竜絶滅の原因はやはり小惑星の衝突にあった、と国際研究チームが先月発表した。巻き上げられた土やちりが太陽光をさえぎり、最初に植物が枯れた。
地球規模の環境変動は、日本では江戸中期の「天明の大飢(き)饉(きん)」でも説明される。この時は浅間山のほかにアイスランドの火山も噴火した。アイスランドの噴火は8カ月も続き、北半球の気温が下がった。......>(同上サイトより)
"天明の大飢饉(1782年~1788年)" は、日本の近世史上では最大の飢饉であり、その直接的原因が、以下のようであったことは知られている。
<天明3年3月12日(1783年4月13日)には岩木山が、7月6日(8月3日)には浅間山が噴火し、各地に火山灰を降らせた。火山の噴火は、それによる直接的な被害にとどまらず、日射量低下による冷害傾向をももたらすこととなり、農作物には壊滅的な被害が生じた。>( 天明の大飢饉 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 )
が、この時、<アイスランド噴火>も重なっていたらしいのである。
<1783年、浅間山に先立ちアイスランドのラキ火山(Lakagi'gar)が噴火(ラカギガル割れ目噴火)、同じくアイスランドのグリームスヴォトン(Gri'msvo"tn)火山もまた1783年から1785年にかけて噴火した。これらの噴火は1回の噴出量が桁違いに大きく、おびただしい量の有毒な火山ガスが放出された。成層圏まで上昇した塵は地球の北半分を覆い、地上に達する日射量を減少させ、北半球に低温化・冷害を生起しフランス革命の遠因となったといわれている。影響は日本にも及び、浅間山の噴火とともに東北地方で天明の大飢饉の原因となった可能性がある。>( 天明の大飢饉 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 )
今回の<アイスランド噴火>がより早く沈静化し、この影響ができるだけ局限化されることをただただ祈らざるを得ない。しかし、<自然を貫くひどく大きな終わりのない叫び>に耳を傾けようとしない "文明病" にはどんなクスリが効くものであろうか...... (2010.04.19)
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