これだけ "うつ病" という精神疾患の問題が衆目を集めている時代である。また、それと直接的・間接的な関係があると目されている夥(おびただ)しい自殺者数も増えることはあっても減ることはなさそうだ。
さらに、 "うつ病" と診断されるには至らずに苦しい状態で悶々として日常生活を送っているかもしれないの水面下の人々のことをも想定するならば、決して軽々には見過ごせない大問題だと思われる。
当事者としての個々人はもちろん苦痛であるに違いなかろうが、翻って社会全体へと視点を移しても、そこにはかなり大きな "社会的損失" が発生しているものと推定されざるを得ない。もとより、人の精神疾患の問題というものは、個人の問題として帰着させて済む性格のものではなく、原因分析や治療の点でもどうしても "社会的視点" での対応が不可欠となりそうではないか。
つまり、 "うつ病" をはじめとする精神疾患の問題をいつまでも "個人的問題" として放置し続けること自体にムリがあり過ぎるのであり、今後も膨らみ続けるに違いないこの "社会的損失" を最小限に食い止めるためにも、早急な社会的(国の政策的)対策が望まれる、と思われるのだ。
逆に言って、この種の問題をローカルな問題として軽視していると、後日、対処し難い社会問題化してしまい、それからではその修復のためにそれこそ想像を絶する "社会的コスト" が強いられることになるのではなかろうか......。
昨夜何気なく目を向けたTV番組、福祉ネットワーク シリーズ 患者・家族が求める精神医療(2)"こころの健康"への提言/NHK教育/デジタル教育1/2010年 5月25日で、増加の一途を辿る "精神疾患" に対しては、早期に "社会的・制度的" 対策を採用することが、結局は "社会的負担・コスト" 面でも効果的だという意味のことを知らされた。英国などでその実績があるというのである。
ちなみに、以下のニュースがあったばかりでもある。
<うつ病:「国レベルで対策を」学会が共同宣言
日本精神神経学会など、うつ病の診療・研究にかかわる関連4学会は22日、広島市で会見し、「対うつ病10カ年計画」の策定など国家レベルでの対策を求める共同宣言を発表した。年間3万人を超える自殺者の背景に大きく関与するうつ病を「がんに次ぐ重大な社会的損失をもたらす疾病」と位置付け、治療と研究、啓発に緊急に取り組むよう求めている。うつ病問題で医療を担う学会側が公式見解をまとめたのは初めて。......
共同宣言は、うつ病を含む精神疾患で働き盛りの貴重な人材を失う結果になっていることを重視。うつ病をがん、心臓病と並ぶ「3大疾患」と位置づけ、「国民病」として啓発活動に力を入れるよう求めた。
そのうえで、専門的治療と臨床研究を進める「うつ病センター」の設置や、診療報酬体系の見直しによる人的資源の充実などを図るよう提言。産業精神衛生の専門家の育成や、若年層からの対策として児童精神科医の養成にも力を入れることも盛り込んだ。数万人規模を対象とした大規模なプロジェクト研究などを「10カ年計画」として国家レベルで取り組む必要性を強調した。......>(うつ病:「国レベルで対策を」学会が共同宣言/毎日新聞/2010年5月23日 12時30分)
振り返ってみると、次のようなTV番組を観たことも思い起こした。
<自殺と"闘う"~イギリスの国家戦略~(NHK クローズアップ現代 NO.2825)/2009年12月 1日(火)
年間の自殺者が11年連続で3万人をこえている日本。自殺者をどう減らせるのか、日本の専門家・研究者が注目する対策を行っている国の一つがイギリスである。イギリスでは、10年ほど前に自殺率低下を国家目標に掲げ、原因の多くを占める精神疾患への対策に力を入れてきた。そして現在は10%を超える大幅な減少に成功。
その対策のキーワードが"アウトリーチ"(積極的訪問)である。病院でのケアではなく、家庭への訪問を中心に、重症患者に緊急に対応したり、発症段階で患者をサポートしたりする様々なチームを整備、自殺や精神疾患を"タブー"としない考え方での取り組みだ。
日本でも11月、その"アウトリーチ"を試験的に導入する動きが始まり、一方で鳩山政権も「自殺対策緊急戦略チーム」を立ち上げるなど、自殺問題への対処の機運が高まっている。イギリスの取り組みの実例と最前線を追い、日本が導入すべき点は何か。自殺予防対策のヒントを探っていく。>(「自殺と"闘う"~イギリスの国家戦略~」/NHK クローズアップ現代 NO.2825/2009年12月 1日(火))
今や "うつ病" をはじめとする精神疾患が、現代に特徴的な病であることは常識化しつつある。それほどに、われわれ現代人は日々精神的側面に多大な "攻撃" を受け続けているということなのであろう。これは先進国全体に共通することなのかもしれない。
とすれば、身体的な疾患のみを重視するこれまでの医療体制では到底間に合わないと認識すべきであり、時代環境に即応した医療体制への改革が急務のはずであろう。
またそれが、将来の "社会的負担・コスト" を最小化する "聡明な政治判断" でもあると思われる...... (2010.05.26)
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