朝鮮半島情勢が緊迫度を強めている。
これまでにも、北朝鮮は<超強硬策>を打ち出している。北朝鮮の祖国平和統一委員会が25日、発表した<談話>は以下のとおりだった。
< 談話は「全面的な北南関係の断絶、北南不可侵合意の破棄、北南協力事業の撤廃の断固たる行動措置に入ることを正式に宣布する」と表明。
第1段階の措置として (1) 韓国との全関係を断絶 (2) 李大統領の任期期間、当局間対話と接触を拒否 (3) 南北間のすべての通信を断絶 (4) 韓国の「対北心理戦」に対して全面的な反撃を開始-すると主張した。
さらに、板門店赤十字連絡代表の活動を完全中止するほか、開城工業地区にある南北経済協力協議事務所を撤廃し、韓国側関係者全員を即時追放すると表明。韓国の船舶、航空機の北朝鮮領海、領空通過を全面禁止し、南北関係で提起される全問題は戦時法に従って処理すると強調した。
その上で、「戦争の暗雲をもたらしている逆賊一味をわが軍隊と全人民、全民族は絶対に許さない」と李政権を非難>(韓国との全関係断絶=対話拒否、通信も遮断-心理戦に全面反撃・北朝鮮/時事ドットコム/2010/05 /26-01:50)
そして今日、その強硬姿勢はさらにエスカレートした。
<北朝鮮 衝突回避合意を無効に/NHKニュース/5月27日 18時14分
哨戒艦の沈没をめぐり、北朝鮮の軍部は、朝鮮半島西側の海上で偶発的な衝突を防ぐための南北間の合意を無効にすると発表し、軍事的な緊張をさらに高める構えです。
これは、北朝鮮の朝鮮人民軍総参謀部が27日、韓国に対する「重大通告」として発表したものです。この中で北朝鮮は、哨戒艦沈没の原因は北朝鮮の魚雷だったとする調査結果を受けて韓国のイ・ミョンバク政権が北朝鮮に厳しい対応で臨むと表明したことをあらためて非難しました。
そのうえで、朝鮮半島の西側の黄海で、偶発的な衝突を防ぐために南北が互いの艦船が対峙(たいじ)しないようにすることや、双方の艦船が通話できるように同じ周波数の無線を使うことなどを決めた2004年の合意を無効にするとして、この海域での緊張をさらに高める構えを打ち出しています。
さらに、南北が共同で開発しているケソン工業団地について、韓国との行き来を全面的に遮断することを検討するとしています。韓国政府は、今回の哨戒艦事件が起きたあとも、これまでのところケソン工業団地での事業は中断しないとしており、北朝鮮としては、ケソンでの生産を中止に追い込むことも辞さないと迫ることで、韓国に圧力をかけるねらいがあるものとみられます。>(北朝鮮 衝突回避合意を無効に/NHKニュース/5月27日 18時14分)
一方、韓国側も、<韓国の哨戒艦沈没をめぐって朝鮮半島情勢が緊迫するなか、韓国海軍は27日、北朝鮮の潜水艦を早期に探知することなどを想定した訓練を黄海で行った。>(韓国海軍、北朝鮮の潜水艦を想定した訓練実施/ロイター/2010年 05月 27日 16:36 JST)との対抗措置が報道されている。
韓国と北朝鮮がすぐ戦争に突入する可能性は低いとしても、重武装した国境沿いで小規模な衝突が起こる可能性はあると指摘されていて、いわば緊急事態に突入している。
誰もが、こうした緊張が "なぜ今?" 高まっているのかと思いを馳せるはずだ。
全体としては、北朝鮮はこれまでとは違う状況に追い込まれているということになるわけだが、その変化の主なものは次の3点に大きく分けられそうだ。
緊迫の朝鮮半島 ~韓国・外交トップに聞く~ /NHKクローズアップ現代(NO.2896)/2010年 5月27日が参考になった。
【1】対北朝鮮政策を強硬なものに転換した韓国イ・ミョンバク政権への揺さぶり!
北朝鮮は、韓国イ・ミョンバク政権の強硬姿勢に対抗すべく、これまでの戦い方を変えたと言われる。通常兵力で真正面から戦っては差が歴然としているため、新たに再編された "偵察総局" という部隊を通じて、 "常識外の奇襲作戦" で韓国に打撃を与えるという戦略に転換したのだと。
【2】三男キム・ジョンウン氏を後継者とするための後継体制確立!
今、北朝鮮の子どもたちは "キム大将" を讃える歌(♪タッタッタ 我らがキム大将の足音だ 精気を振りまき前進するぞ タッタッタ♪)を歌わされているという。いよいよ "後継体制確立" の時が来たというわけだ。そしてこの体制を確立するには権力基盤の中核である軍の支持を獲得することが不可欠なため、今回の事件は軍の士気を高め、支持固めを狙われたものだと言われる。
なお、今の状況は、金 正日(キム・ジョンイル)が40年前に後継者として登場した時と酷似していて、当時北朝鮮は米国調査船を攻撃したり、韓国沿岸にゲリラ部隊を送り込むなど朝鮮半島に緊張状態を作り出していたのだと言う。
【3】国内事情で、デノミ失敗によって広がった社会混乱・不安の謗りを逸らすため!
北朝鮮は経済悪化のため、2009年11月30日にデノミ政策を断行した。が、富の再配分という名の現金を国民から没収するだけに終わり、本来のその効果はひと月もたたないうちに事実上、無力化した。そして、社会混乱・不安が広がることになった。
その状況は、下記の報道からもよく分かる。
<デノミで混乱、公開処刑相次ぐ/時事ドットコム
【パリ時事】北朝鮮情勢に詳しい消息筋は2010年5月15日、同国がデノミ(通貨呼称単位の変更)を実施した09年11月以降、抗議行動やこれに乗じた犯罪が続発し、これを受けて北朝鮮当局が今年3月までに複数の公開処刑を行ったことを明らかにした。 こうした情報が事実なら、金正日体制はデノミ失敗に伴う国内の混乱を強権で抑え込もうとしている可能性がある。
同筋によれば、北朝鮮東部の咸興では、デノミに反対する住民数十人が警官隊と衝突。警官に暴行したとして10人が捕らえられ、うち2人が昨年12月5日か6日、地元住民が見守る中で銃殺刑に処された。
北部の咸鏡北道・清津でも同月8日、新旧通貨の交換を渋った地元当局に住民が抗議する騒ぎが起き、住民2人がその場で射殺されたという。
また両江道の恵山では、中央銀行の支店長が新通貨で100万ウォン相当を横領した罪で、3月下旬に公開銃殺されたという。
さらに同筋は、デノミ失敗の責任を問われて労働党計画財政部長を解任された後、処刑されたと伝えられている朴南基氏について、副部長1人と共に銃殺刑に処されたと述べた。
朴氏はスパイ行為や土地所有者の子孫という出自を隠した罪にも問われ、軍高官や党関係者の立ち会いの下、平壌市内の士官学校に近い射撃演習場で銃殺されたという。>(デノミで混乱、公開処刑相次ぐ/時事ドットコム)
こうして状況解析をしてみると、ことわざにある「......にも三分の理」のように、北朝鮮には北朝鮮独自の "理屈" がありそうなことは分かる。しかし、これらの "理屈" やそれに基づいたとされる今回の "哨戒艦沈没事件" が "理解不能!" という大半の国際世論の実情は変わりようがなかろう。 "だれが猫の首に鈴を付けるのか?" という残された問題の解決にはかなりの時間が掛かりそうだとしか言いようがない...... (2010.05.27)
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