<太陽系のいにしえの姿を求めて7年、60億キロの宇宙の旅を続け、13日に地球へ帰還予定の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ」に共感の輪が広がっている。>(迷子-満身創痍-最後は燃え尽き... けなげ「はやぶさ君」に共感広がる/産経ニュース/2010.6.12 22:31)とある。
一概に決めつけるのも良くないが、少なくないこの国の庶民にとって、この "7年間" といえば何かと "苦節の期間" 以外ではなかったかと思う。そうだからこそ、<幾多のトラブルを乗り越え、最後は燃え尽きる姿に「元気づけられた」「失われた日本人の美徳を見た」との声が絶えず......>(同上)となり、「はやぶさ」への "感情移入" と人気とが否が応でも集まったのだと思われる。
<「はやぶさ君」というキャラクターも生まれ、単なる「機械」を超え、人格を持った存在になりつつある。>(同上)とさえ評されているようである。
そして、その「はやぶさ君」に寄せられたメッセージも実に真に迫っている。
<《はやぶさ君お帰りなさい。君に出会ったおかげで私の人生が変わりました》
《みんなが君のことを待っています。カプセルに何も入っていなくても、戻ってきてくれただけで金メダル100個です》......
《動画で見て涙があふれてきました。満身創痍(そうい)で帰ってくるはやぶさ、最後はミッションを果たし桜と散るその運命ですが、最後まで全力でがんばって》
《はやぶさはずっと頑張ってたのに自分は全く成長していないのがなんとも...》
《私ははやぶさ君が生まれた年に肝臓移植を受けました。私が生まれ変わってから7年間はいろんな合併症に悩まされ、はやぶさ君と同様に満身創痍でした。でも現在健康を取り戻して元気に生活しています。はやぶさ君も無事地球に帰ってきてください》>(同上)
こうした "現象" ( "はやぶさ現象" )については、<「日本人は工場のラインのロボットにあだ名をつけて仲間意識を抱くという世界でも珍しい国民。そうした下地に加え、苦労を乗り越え最後は燃え尽きるけなげな姿が、リストラなど経済不況に負けず頑張る日本人の琴線に触れたのではないか」(京都大学の木下冨雄名誉教授 社会心理学)>(同上)との分析、指摘がなされる。
が、言ってみれば、この間にあった、多くの日本人が遭遇してきた "苦しくて切ない(経済的)苦境" それ自体が、こうした "感情移入"、"思い入れ" の現象をひと際色濃いものとしているように思われてならない。
とにかく「はやぶさ君」が置かれた環境は、地球から何億キロも隔たった "孤立無援" の宇宙の只中だったのであり、しかも "度重なるトラブルと失敗" に遭遇し続けたと伝えられている。庶民生活と共通する部分は小さくない。もし地上プロジェクトからの並外れた支援態勢がなかったならば、寂しい "宇宙のゴミ" に終わる可能性も否定できなかったわけだ。
さらに、地球への帰還にあってもその使命としての "カプセル落下" を終えた後には、己が本体は大気圏に突入し燃え尽きるというまさに "潔く桜散る" ようなその定めが、 "感情移入"、"思い入れ" の深まりを一層強めているに違いない。
浅ましい地上での修羅三昧の図と対照的である、天空でのこうした果敢さと潔さとが、この時代の日本庶民の鋭敏となった琴線に触れないわけがないと思えるのである...... (2010.06.13)
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