アップルの "iPad" が人気を集めているが、ユーザーの関心は "iPad" で手軽に読める "電子書籍" のコンテンツであろう。次第にこの "電子書籍" 配信のレパートリーも充実し始めているようである。そして、下記のような人気作家の先駆けた参画も目を引き始めた。
<村上龍氏がiPadで長編小説 「紙」に先駆け1500円で 坂本龍一氏、音楽でコラボ 作家の村上龍氏が米アップルの多機能情報端末「iPad(アイパッド)」向けに電子書籍の配信に乗り出す。文芸誌に連載した最新の長編小説「歌うクジラ」を電子化し、紙の本の出版に先駆け、近く1500円で発売する。物語のイメージを膨らませる映像や音楽も盛り込む。楽曲は音楽家の坂本龍一氏が新たに作曲した。
村上氏は「作家として出版の未来の姿を示したい」として、出版社を介さずに電子書籍ソフトを開発した。電子書籍は市場拡大が見込まれるが、電子化への対応を明確にしていない作家が多い。有力作家が自ら配信に取り組むことで電子化の流れに弾みがつく一方、出版社の事業戦略にも影響を与えそうだ。
「歌うクジラ」は22世紀を舞台にした冒険小説で、講談社が発行する「群像」に3月号まで連載した。村上氏の長編は2005年の「半島を出よ」以来となる。村上作品の電子化は携帯電話向けを含め、これが初めて。紙の本の「歌うクジラ」は講談社が出版するが、時期は未定という。
iPad向け配信は、アップルの承認が得られ次第、同社のソフト販売サービスを通じて始める。まずは開発資金を回収できる5千ダウンロードをめざす。収入の3割をアップルに手数料として払い、残りを村上、坂本両氏とソフト開発会社で分け合う。
アマゾン・ドット・コムの書籍端末「キンドル」や、グーグルの基本ソフト「アンドロイド」に対応した端末向けの配信も検討する。
村上氏は「書籍ソフトの開発がさらに簡単になれば、作家は即座に作品をネットで販売できる。新作については出版社のコントロールが及びにくくなる」とみている。
(村上氏の関連インタビューを電子版「ビジネスリーダー」に掲載)>(村上龍氏がiPadで長編小説 「紙」に先駆け1500円で 坂本龍一氏、音楽でコラボ/日本経済新聞/2010/7/14 10:00)
こうした "電子書籍" 配信のビジネスは、従来からの "「紙」の出版社" にとっても、またそうした業務構造に組み込まれていた "作家" たちにとっても、さまざまな未知数を残した挑戦的・冒険的なジャンルのはずであろう。場合によっては、 "活字文化"、"出版文化" のあり様が大きく塗り替えられる可能性も想定されるだけに、読者たち以上に関係当事者たちの思惑は複雑なのかもしれない。
ところで、こうした"iPad"向けコンテンツ関連ビジネスに、今、 "変り種" が登場してきたという。ただし、このビジネスには "著作権法" 上の "違法性" も指摘されていて、問題含みだそうである。
IT環境の進展により、著作物のコピーが容易くなり、その分 "著作権" の "保護" 問題がさまざまなジャンルで懸念され始めている。下記のような<蔵書のイメージスキャニング>とその "代行ビジネス" も、そうした "違法性のグレーゾーン" に新たに加わったということになるのであろうか......。
<iPad人気で新ビジネス 本のスキャン代行、違法?
五月に国内販売され人気となっている米アップル社の新型マルチメディア端末「iPad(アイパッド)」の利用者が、蔵書をイメージスキャナーで読み込みiPadで持ち歩く動きが広がっている。これに伴い、一般利用者から手数料を取って本の電子文書化を行うスキャン代行業が盛況だが、日本書籍出版協会(書協)=理事長・相賀昌宏小学館社長=は「著作権法違反の懸念がある」として業者への法的対応を検討している。 (社会部・中里宏)
iPadは出版社が販売する電子書籍のほか、出版物をスキャナーで読み込んで電子文書に変換すれば、画面で本のようにページをめくりながら読むことができる。大手スキャナーメーカーは「個人向けスキャナーの五、六月の販売台数は一・八倍の伸び。iPad効果だ」と話す。
一般向けのスキャン代行業者はiPadの国内発売前から現れた。代表的な仕組みは、ホームページで登録した会員が業者に本を発送し一冊百円前後の料金を振り込み、業者がその本を裁断しスキャナーで読み取り電子文書化。会員は電子文書を業者のサーバーからダウンロードしたり、DVD-R(別料金)で受け取る。
各業者とも「本棚がいっぱいで本を処分したいが、内容は手元に残したい」という利用者からの注文が殺到し、納品まで二~三カ月待ちという活況だ。複数の業者はホームページで、著作権に関して「依頼された本は利用者が著作権保有者から許可を得たと判断する」などと注意事項を明記している。
一方、大手出版社など約四百六十社が加盟する書協は「利用者が著作権者の許可を取ったか業者は確認していない。協会として黙認するつもりはない」という。著作権法に詳しい北村行夫弁護士は「著作権法で認められている私的複製は自分でやるのが原則。家族でもない第三者が料金を取って代行するのは、違法行為」と話す。
代行業者の男性は「個人が許されていることを代行することは認められてもいいのではないか。だめだとすれば、法律が世の中の流れに合っていない」と反論している。>(iPad人気で新ビジネス 本のスキャン代行、違法?/東京新聞/2010年7月17日 朝刊)
この種の "代行ビジネス" に対する法的対処を誤ると、 "TV録画ビデオ" などの扱いにも波及することになるかもしれない。おそらく、何らかのかたちで "違法性" が問われていくのではなかろうか...... (2010.07.19)
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