つい先日、<「アシネトバクターは既に国内で広がっていることが否定できない。」という医療関係者からの警告が浮上している>(<多剤耐性菌アシネトバクターは既に国内で広がっている!?/抗生物質依存抑制?(当日誌 2010.09.09 )>)と書いたばかりである。
だが、その際には、とは言っても "きっと、新たな「抗菌薬」が開発されるに違いない" という "安直な期待感" があったことも否定できない。たとえ "いたちごっこ" となろうとも、当面の最悪事態に医療関係者たちは挑むに違いないだろう......、と。
ところが、今回明らかになった事実は、そんな "安直な期待感" に真っ向から冷や水を掛けるものである。
<新規抗菌薬の候補なし 「危機的状況」と専門家
多剤耐性アシネトバクターや「NDM1」遺伝子を持つ大腸菌など、既存の抗菌薬に耐性を示す細菌の対策に欠かせない新規抗菌薬の開発について、国内では現在、専門誌への発見報告から発売に向けた段階にある新規薬の候補が一つも残っていないことを、専門家が厚生労働省の耐性菌に関する研究班で報告していたことが11日までに分かった。
抗菌薬の低い収益性が企業の開発意欲をそいでいるとみられる。報告者の藤本修平東海大教授(生体防御学)は「耐性菌との戦いは新規薬の開発に支えられてきたが、現在は危機的状況だ」と話す。
報告によると、新たな抗菌薬が登場してから最初に耐性菌が報告されるまでの期間が約4年と短いことが、開発の手間の割に大きな収益に結び付かない理由。世界的にも1980年代から2000年代にかけて、新規の抗菌薬の数は4分の1以下と落ち込んでいるという。>(新規抗菌薬の候補なし 「危機的状況」と専門家/【共同通信】/2010/09/11 17:36)
中でも由々しき問題だと思えたのは、<抗菌薬の低い収益性が企業の開発意欲をそいでいるとみられる。>という点であろう。<開発の手間の割に大きな収益に結び付かない>と想定される場合には、"医も算術" と見て憚(はばか)らない医薬品メーカーは開発に参入しないというようである。
"ジェネリック" 医薬品の "2010年問題" で、医薬メーカーがシビァな財政状況に追い込まれていることも災いしているのであろうか......。
この "ジェネリック" 医薬品についても、つい先日、<"ジェネリック" 医薬品とは、特許によって保護された初発の医薬品の特許期間が過ぎることで、後発の製薬会社が同種類の医薬品を製造・出荷することが可能となり、研究開発費分が上乗せされない分、販売価格が安くなるそんな医薬品のことである。>(<問題深まる高齢化社会!/"医薬品・介護用品"などの"価格お手頃化"にも傾注すべし(当日誌 2010.08.30 )>)と書き、この "恩恵" に浴するべし、と思ったばかりだ。
しかし、"多剤耐性菌" による感染問題が、国民的規模における喫緊(きっきん)の課題であることは誰もが懸念している。
そんな状況下で、これまで少なからぬ収益を得て来たであろう医薬品メーカーが、<開発の手間の割に大きな収益に結び付かない>という立場に立ち続けるのは如何なものであろうか。
市場原理主義にあっては、尤(もっと)もなことだとも思えるが、それにしても "非情" な趣きである。となるとこうした "非情" さをたしなめるものは "公共"、"政治" 以外にはないということになろうか。いわゆる "国家プロジェクト" のような開発組織を速やかに立ち上げるべきだと思われる。
思うに、こうした問題では、"先手必勝" で動くことが、結局は "トータル・コスト" を低く抑えることにつながるはずではなかろうか。"パンデミック" に突入でもしたならば、膨大なコスト、いやコストの問題どころではなくなってしまう ...... (2010.09.12)
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