オールド世代にとっては、"貸し本" という言葉の響きにはちょっとした懐かしさが伴ったりするものだ。"水木しげる" の漫画などを、駄菓子屋と隣接した "貸し本" 屋で、一晩10円(?)也で借りたりした想い出などが......。
"電子書籍" の時代となっても、日本では、コミック本を中心とした "電子貸本" 業者があったりもするようではある。
もっとも、"電子書籍" は購入価格自体が安いこともあり、"貸し本"(レンタル)という方式が今ひとつピンとこないところもあるようだ。
いや、下記の記事に目を留めたのは、実を言えば "貸し本"/"電子書籍レンタル" というサービス形態の視点と言うよりも、そうした方式が普及しつつあるほどに、米国では "電子書籍" への関心が高い! と覗える点なのである。
<動きが鈍い日本国内とは対照的に、米国ではフルスピードで電子書籍の普及が進んでいる。>と述べられた部分なのだ。
"紙の書籍" の価格事情の違いもある(c.f. 大原ケイ『ルポ 電子書籍大国アメリカ』アスキー新書/2010.09.10)のだろうが、もともと米国人たちは "本" を「読む」素材だと見切って、保存・保管する「モノ」とは考えないようだと言われている。読み終わると捨てることも珍しくはないとか。
この辺に、"電子書籍" という "非・モノ" への受け容れ素地があったのかもしれないし、さらに "レンタル" というスタイルに抵抗感がないのかもしれない。
―――― <レンタル導入で電子書籍が便利、借り手と貸し手を結ぶサービスも 瀧口 範子=ジャーナリスト(米国在住)
貸せば貸すほど自分もたくさん借りられる 動きが鈍い日本国内とは対照的に、米国ではフルスピードで電子書籍の普及が進んでいる。それに伴い、電子書籍を使う上で、より便利なサービスが導入されるという好循環が起こっている。2009年ごろからサービスが始まった、電子書籍の"個人レンタル"はその端的な例。これが意外に便利なのだ。 例えば、アマゾンの電子書籍システム「キンドル」を例に、友人などにレンタルする仕組みを見てみよう(図1)。キンドルの場合、まず書籍を貸し出す側のユーザーが、アマゾンのウェブサイト(キンドル・ストア)にアクセスし、自分の購入履歴を開く。貸し出し可能なタイトルの中から目的のタイトルを選ぶ。次に、知人や友人を「借り手」としてメールアドレスを登録すると、相手にレンタル書籍のダウンロード用URLがメールで通知される。
【図1】借り手のメールアドレスを登録して電子書籍をレンタル
図1 レンタルの管理は、すべてアマゾンを通じて行われるので、直接ファイルを送信する必要はない。貸した本が戻ってこないという心配もいらないレンタル期間は最大14日間。借り手が書籍データをダウンロードしたところからカウント開始。その間、貸し手(持ち主)の手元にあるファイルはロックがかかり、開けない。レンタル期間が終了すると、借り手側の書籍データはもう利用できなくなり、貸し手の側ではロックが解除され、読めるようになる。
こうした"個人レンタル"のサービスは、米国の電子書籍では2大勢力である、アマゾンのキンドル、書店チェーンのバーンズ&ノーブルが提供する「ヌック」が、いずれも同じような仕様で提供している。このため、米国の電子書籍ユーザーにとっては、当たり前のサービスになっている[注1]。貸し出し可能な本を持っていても、借りたい人を周囲で見つけられないことも多いだろう。そこで、見知らぬ貸し手と借り手を結びつけるマッチングサービスも今年に入って登場した(図2)。
その一つ、「eブックフリング」では、まず貸し手が、貸し出すタイトルを登録する。これを借りたいというユーザーが現れたら、レンタルは成立だ。その際、借り手は、1クレジットを払い、貸し手は1クレジットを受け取る[注2]。あとは図1の手順で貸し出せばよい。貸し手は、受け取ったクレジットを使って、無料で別のタイトルを借りられる。レンタル可能なタイトルを持っているなら、たくさん貸せばそれだけ、自分も多くの読みたいタイトルを借りられるというわけだ。【図2】見知らぬ貸し手と借り手をつなぐサービスも登場
図2 周囲に借り手を見つけられない人と、貸してくれる人を見つけられない人を結び付ける「eブックフリング」。貸せば貸すほど、自分もたくさん借りられる[注1]電子書籍の個人レンタルは「ヌック」が2009年のサービス開始時から対応しており、これに「キンドル」が追随した
( レンタル導入で電子書籍が便利、借り手と貸し手を結ぶサービスも/日経 PC online/2011年8月9日 )
[注2]「クレジット」はeブックフリング内で使えるポイントのこと。借り手がクレジットを持っていない場合、1冊2.99ドルで借りられる >
これらに比べると日本の場合はいろいろな点で「モノ」へのこだわりが大きいのだろうか。"電子書籍" 周辺でも、本命のコンテンツよりも、やたらに "ブック・リーダー" や "スマホ" 本体という「モノ」に視線が向けられたりしがちのようであるし......。
「読む」行為への愛着が深まらないまま、"ブーム" が通り過ぎてしまうと、"電子書籍" という言葉も、多機能型端末本体の影に隠れてしまうのかもしれない。
そう言えば、"電子書籍" の "専用端末" 各社は "苦戦" ( 電子書籍:電機各社てこ入れ 専用端末に新機能/毎日jp/2011.08.21 )を強いられているとの情報もある...... (2011.08.23)
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