この二、三日、スマホの "スマート" さにことさらこだわって書いてきた。
と言うのも、この "スマート" さというコンセプトには、技術ジャンルに留まることなく、どうも現代という "時代の何か" を鋭く照らし出すものが潜んでいる予感がしてならなかったからかもしれない。
そしてそんな "こだわりの文脈" の網に、タイムリーにも以下のような洞察力に富んだフレイズが絡まってきた。
<iPadは「キュレーティッド・コンピューティング」の時代の幕開けを告げるもの / 「キュレーティッド・コンピューティング」 / 「キュレーティッド・コンピューティング」とは、機能が絞られているが、使いやすい機器のことを指す。キュレーションとはもともと、博物館や美術館等で作品や資料を整理・管理・研究し、わかりやすい展示を行なう作業のこと / 機能をキュレートされたデバイス ―― 『Kindle』、携帯電話、デジタル音楽プレーヤー、GPSなど特定用途のデバイスは、機能をシンプルにキュレートすることで、汎用のデスクトップ・コンピューターを上回る体験を提供している。>( 「情報過多の時代」の鍵は「キュレーション」/WIRED ARCHIVES/
ところで、"キュレーション" という概念には、かねてより関心を向けており、佐々木俊尚著『キュレーションの時代――「つながり」の情報革命が始まる』(ちくま新書/2011.02.10)も既に読ませてもらった。
ちなみに、実際は "概念" と呼ばれるほどには熟していない "キュレーション" という言葉の、その意味であるが、とりあえず押さえるとしたら次のようになろうか。
―――― <◆キュレーション(Curation)
「情報を価値付けし、情報と情報をつなぎ合わせて新しい価値(文脈=コンテキスト)を生み出す」という行動や概念を指す。>( ネット海 )
今少し腰を据えた表現となると、以下の叙述が役立つと思われる。
―――― <キュレーションという言葉に、的確な日本語訳はない。私はこう定義している。「キュレーションは情報を収集し、選別し、意味づけを与えて、それをみんなと共有すること」。日本語でキュレーションという言葉が使われる場面というと、博物館の学芸員(キュレーター)が唯一といってもいいかもしれない。展覧会を企画し、その企画テーマに沿った形で展示品を集め、順路に沿って展示品の並びを考え、そして多くの人に見てもらうように公開する。
それと同じように、インターネットのキュレーターは膨大な数の情報の海から、あらかじめ設定したテーマに従って情報を収集し、それらの情報を選別する。そして選別した「これを読め!」という情報に対してコメントを加えるなどして何らかの意味づけを行い、それをブログやTwitter、SNSなどのサービスを使って多くの人に共有してもらう。>
( 佐々木俊尚公式サイト/キュレーション・ジャーナリズムとは何か/4月12日午後5時配信の有料メルマガ 「ネット未来地図レポート」第86回から。 )
こうして "キュレーション" という言葉の意味を了解してみると、"キュレーション" は、昨日も書いた<スマホの "スマート" さ>誕生の経緯と完全に "オーバーラップ!" することになる。
その証拠に、上記の佐々木氏のフレイズを、やや強引ではあるが、次のように読み換えたとしても不自然とは感じないはずであろう。
<"スマートフォン" は膨大な数の "パソコン機能" の海から、あらかじめ設定したテーマに従って "パソコン機能" を収集し、それらの "パソコン機能" を選別する。そして選別した「これを "使え" !」という "パソコン機能" に対して "改造" を加えるなどして何らかの "再編" を行い、それを " iチューンズ・アップストア" などのサービスを使って多くの人に共有してもらう。>???
別に、"パロディ" をやっているわけではない。と言うのも、"キュレーション" 概念は、<「情報過多の時代」の鍵>だからこそ、"人の役割" としての "キュレーター" にも、あるいはパソコンの "選択と集中" 的な再編としての "キュレーティッド・コンピューティング" にもスクッと立ち現れざるを得ないのである。
もちろん、"キュレーティッド・コンピューティング" の必要性は、"パソコン機能" の複雑さだけに由来してはいない。そもそも「情報過多の時代」にあってのユーザーの "(情報)困惑!" が、セレクト/フィルタリングされた適量の情報量をニーズとし、それに見合った仕組みのパソコンを求めるという事情が大きい。情報自体に関する "キュレーション" へのニーズが、"キュレーティッド・コンピューティング" を促進させている面が否定できないと言うべきか。
冒頭の "フレイズ" ―― <「キュレーティッド・コンピューティング」とは、機能が絞られているが、使いやすい機器のことを指す。/iPadは「キュレーティッド・コンピューティング」の時代の幕開けを告げるもの> ―― は、"キュレーション" 概念の的を射抜きつつ、この概念がジャンルを超えて<「情報過多の時代」の鍵>だと示唆していたわけなのである。
冒頭の "フレイズ" は、まさに自分なりの "キュレーション"( 松岡正剛氏ふうの "編集" !)なので、以下に元の記事を長くはなるが添えて置きたいと思う。
―――― <「情報過多の時代」の鍵は「キュレーション
情報過多の時代の鍵は「キュレーション」だ。 Eliot Van BuskirkForrester Research社のアナリストSarah Rotman Epps氏は、Arstechnicaの記事等において、iPadは「キュレーティッド・コンピューティング」の時代の幕開けを告げるものだと評して話題になった。しかし、「キュレーションの時代」は、「キュレーティッド・コンピューティング」よりずっと前から始まっている。
[「キュレーティッド・コンピューティング」とは、機能が絞られているが、使いやすい機器のことを指す。キュレーションとはもともと、博物館や美術館等で作品や資料を整理・管理・研究し、わかりやすい展示を行なう作業のこと]
このデジタル情報過多の時代、私たちはあまりに多くの音楽やソフトウェア、ウェブサイト、フィード、人々やその意見等にとり囲まれている(日本語版記事)。こういう時代において、「キュレーション」はすでに、われわれが世界を見る見方の基本を作っている。iPadは、この状況を認識した最初の技術にすぎない。
具体的に見ていこう。
1.ウェブの自由さを、ソーシャルサイトがキュレーション
誰もが自分のウェブサイトを作ることができるようになった当時、人々は、その制限のない自由さに最初は喜んだが、大半の人は結局、その状況に尻込みした。HTMLの学習とページの更新に多大な時間を費やしたとしても、友人が自分のページを見つけてくれるという保証はなかった。
このような理由から、個人制作のサイトというのは、いまだにコンピューター好きのギークのものであり続けている。いっぽうで、『Facebook』『LinkedIn』『Tumblr』『Flickr』などの前もってページを準備してくれるソーシャル・サービスは、プライバシーの懸念があるにもかかわらず繁栄している。つまり、われわれはウェブの自由さに直面したが、ソーシャルサイトによるキュレーションのほうを選んだのだ。
2.「音楽批評」は「音楽キュレーション」へ
かつては、音楽ファンは事実上アルバムを買うしかなかったため、自分の選択に慎重になる必要があった。そこで、購入決定のガイド役として頼みにされたのが、「音楽批評家」と呼ばれる、出版社に雇われた人々だ。人々は、ラジオでたまたま耳にするか、ヘッドフォンで無料試聴できるレコード店で列に並ぶ以外、その曲がどう聞こえるのか知る方法がなかったのだ。
現在人々は、世界中のたいていのバンドの音楽について、『YouTube』『MySpace』『Spotify』、そしてファイル共有サービス『The Pirate Bay』などで、1分足らずで調べることができる。こうした状況のなかで、音楽評論家の役割はかなり縮小しており、批評よりもキュレーションが重要になっている。
ユーザーにとっては、お気に入りの音楽ブログが何かの曲に言及したという事実のほうが、その言及の内容よりも重要なのだ。誰もがその曲を、ダウンロードなりストリーミングなりして、自分ですぐに聞くことができるのだから。
3.ニュースは閉鎖系からフィルタリングへ
インターネットと『Google』が登場する前には、われわれには「キュレートされたニュース」しかなかった。当時、たいていの人にとっては、1〜2種類の紙の刊行物が「読むニュース」のすべてであり、それは閉じられたシステムだった。
ニュースがインターネットに進出し、ネットによるニュースの配信が始まると、アグリゲーションが重要になった。『Google News』で現在の出来事を検索すると、同じ話題について大量の記事が見つかる。また、報じられる出来事の数はこの10年で急上昇している。
こうした状況下で、再びキュレーションが重要になった。ニュースの記者と編集者は、情報の海をヒゲクジラのようにフィルタリングして、真実で今日的で興味深いものを見つけようとしている。ほかのことに日々忙しい読者が、この作業を自分でやらなくてもいいように。
オリジナルのニュースを作り出す者は、以前と同様に重要だ。おそらくは、以前よりも重要かもしれない。「患者第1号」には誰もがリンクバックするからだ。
4.機能をキュレートされたデバイス
『Kindle』、携帯電話、デジタル音楽プレーヤー、GPSなど特定用途のデバイスは、機能をシンプルにキュレートすることで、汎用のデスクトップ・コンピューターを上回る体験を提供している。携帯型のデジタル音楽プレーヤーや大画面のテレビなど、メディア消費用に設計されたデバイスの場合はとくにそうだ。
われわれは、ニュースリーダーのフィードやTwitterなど、ネット上で出会ったさまざまな内容をInstapaperを使って保存して、機能が絞られたiPadやkindleで読んでいる。
こうしたデバイスと、ギーク好みの汎用コンピューターは、ちょうど、SNSサイトと自作のウェブページが両立するような形で、これからも両立していくだろう。
{この翻訳は抄訳です} [日本語版:ガリレオ-緒方亮/合原弘子]
>( 「情報過多の時代」の鍵は「キュレーション」/WIRED ARCHIVES/ )
◆ その他の参考サイト マーケティング・キーワード 「キュレーション」/朝日新聞社広告局 アサツー ディ・ケイ ダイレクトビジネス本部データマネジメント室 小林弘治/2011/05/27
◆ その他の参考サイト 検索だけでもソーシャルだけでもダメ キュレーションって何ですか? NAVER森川社長に聞く/ASCII.jp×ビジネス/2011.01.29
いずれにしても、"キュレーター" にせよ、"キュレーティッド・コンピューティング" にせよ、 "溢れる" 状態を突破して "過多" 状態に至った「情報過多の時代」の現代では、種々の意味合いで "キュレーション" がまさに "鍵" であるに違いない...... (2011.08.31)
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