米アップルのスティーブ・ジョブズ氏が最高経営責任者(CEO)を退任(2011.08.24)したことによる衝撃波は、株式市場のみならず各方面に広く及んでいる。
そして今後一体、米アップルおよび関連業界がどう変貌していくのか、そこに人々の関心が集まっている。
そんな中、大前研一氏は『アップルは「ジョブズ的天動説」を崩せるか』 ( 大前研一の「産業突然死」時代の人生論 『アップルは「ジョブズ的天動説」を崩せるか』/nikkei BP net/2011.09.07 ※ 以下引用部分は同記事より。) で、大胆な提言を展開している。
主要な論点は二点だと覗える。いずれも "iPhone" に追撃する "Android" 陣営に抗した策となるが、そのひとつは、無償ではないかたちを目指すとしても、"iOS" をオープン化! すること。
そして、もうひとつは、現行の、キャリア(通信業者)までが固定されている状況(=「ジョブズ的天動説」)を、<トップキャリアに売らせる>べく戦略変更! を推し進めること。
新たにCEOに就任したティム・クック氏による新生アップルの動向は、以上の二点が果たして選択されてゆくのかどうかに掛かっている、と大前氏は端的に主張する。
"Android" の追撃速度が目覚ましいだけに、躊躇することが許されていないようであり、アップルおよび関連業界の動向は眼が離せない事態を迎えつつある。
以下、同氏の叙述から、これら二つの論点に関わる部分のみを引用しておきたい。
<いうまでもなく、ジョブズ氏は世界有数のカリスマ経営者である。その発想力やプレゼンテーション力、製品に対するこだわりよう、そして何よりも我々の生活スタイルを変えたという点において、時にエジソンにも匹敵する「天才」とも評される。>
<iPhoneやiPadの登場は「いつでも、どこからでも」インターネットに接続できる利便をユーザーに与え、ゲームやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を提供する会社が大きく伸びる下地を作ったともいえる。そして、この秋にはiCloudによって、アップルはクラウド・コンピューティングの世界でも覇を握らんとしている。>
<ではジョブズ氏が退いたあと、アップルにはどのような試練が待ちかまえているのだろうか。私は、「OSからハードウエアまでをすべてバンドルした製品を売る」という同社の従来路線を続けるかどうかの選択を迫られることになると予想する。>
<アップルはiOSのオープン化を検討せよ>
<依然としてiPhoneといえばスマートフォンの代名詞的な存在だし、タブレット型コンピューターの分野ではiPadが独走している。だが、米グーグルが無償提供している「アンドロイドOS」は日に日に勢いを増し、携帯電話のOSとしてはすでにアップルを抜き去ってしまった。韓国のサムソンや台湾のHTCなどが総力を挙げてアップル追撃戦を展開しているし、日本勢もアンドロイドを選択している。>
<トップキャリアに売らせることがいかに大切か ...... 日本ではソフトバンクの独占となっているが、ドコモがアンドロイドで巻き返しを図り、iPhone の勢いは安泰ではなくなってきている。 ...... ハードとソフトをバンドルするだけでなくキャリア(通信業者)まで固定してしまう今のアップルの戦略に意味があるとは思えず、早晩この戦略の見直しが必要になるだろう。>
<その見直しの一環として、アップルは「アマゾン化」するべきだと私は考える。 ...... システムと販売だけを押さえ、プラットフォームはオープンにする。iTunes StoreやApp Storeの品揃えやサービスを充実させて、そこで大きな利益を確保するのである。つまり、アップルの携帯電話を持っていなくてもアプリケーションを買ったり音楽や映画を購入することができるようにするのだ。さらに一歩進めて、iOSを各メーカーがアンドロイドと同じように使えるようにする検討も必要だ。アンドロイドは無料だが、アップルの場合には有料化しても選択するユーザーが今ならいるだろう。>
<日本と中国で「ジョブズ的天動説」は崩れるか>
<アップルのOSがどんなに優れていても、ベライゾン(米)、ドコモ(日)、中国移動(中国)などのトップキャリアに使わせない戦略は「ジョブズ的天動説」である。すでにアメリカではこの天動説は崩れているので、日本と中国での選択が注目される。>
<アップルは、「スティーブ・ジョブズ」というカリスマに依存して成長してきた会社である。そのカリスマがいなくなった今、アップルは従来のクローズドな文化を180度切り替え、オープン化の道を進めていくべきであろう。>
それにしても、"Android" 陣営の足元に "OS のオープン化!" という事実があった点は、今さらのように注目されなければならないようだ。ふと、パクス・ロマーナ(ラテン語:Pax Romana )を支えた "自治に任せた統治" という史的事実を想起しさえする...... (2011.09.13)
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