企業における "ソーシャルメディア" 対応の具体策は、その多くが "ソーシャルコンピューティング" というコンピュータ・システム・リソースを駆使したかたちで推進されることになる。
ところで、いつの時代でも "コンピューティング" の導入には、一悶着、二悶着、いや数多の人的・組織的障害が立ちはだかるものと相場が決まっている。
ある意味では時代環境を超えた "普遍的性格" の事象のようでもある。そして、この点は、喫緊のテーマである "ソーシャルメディア" 対応の "ソーシャルコンピューティング" についても同様だと思われる。
技術は加速度的に進化しているが、人間組織(企業組織)は必ずしもそうではなく、旧態依然さを引き摺っているからなのであろうか。
今回(今回はどうも何回かに分けて行わざるを得ないようだ)、レビューするサイト記事は、2年以上以前の "2009年08月04日" に掲載されたものではある。
従って、現時点と比べれば、導入事例が少なくその期間の短さのためか、その効果に対する評価がやや "抑制" されている印象を受ける。しかし、現時点での "フィーバー(?)" ぶりが解毒(?)されるかに思え、それはそれで良いと思えた。
ただ、冒頭の点などから、この記事の内容はまだまだ "十分にアクティブ" だと実感できる。いや、それどころか、現在のわれわれの問題環境が "熟し切って、逼迫している" だけに、この記事が解説する内容は今まさに "水を得た魚!" のような貴重さで眼に映りもするのである。
ちなみに、後で指摘されその "処方" まで解説される "10個の問題" を列記してみると以下のようになるが、現場の "関係者" であるならば、これらを見るだけでそのリアルな観察に "共感" を覚えるにちがいなかろう。
1.ソーシャルメディアを使いこなせる従業員が少ない。
2.ソーシャルツールがうまく機能しない業界もあるという認識がある。
3.ソーシャルソフトウェアを事業の中核アクティビティに利用するにはリスクが大きすぎるという認識が未だにある。
4.上級幹部にソーシャルツールを使ってもらえない。
5.IT部門と、ソーシャルコンピューティングのイニシアチブをとる業務部門との息が合っていない。
6.ソーシャルソフトウェアに対するサポートを取り付けるには、ROIを明示する必要がある。
7.セキュリティに対する懸念のせいで、パイロットプロジェクトや採用計画が滞る。
8.コミュニティマネジメントにまつわるニーズの発生が驚きをもって受け止められる。
9.持続的に社外のマネジメントを行うことの難しさがある。
10.予想以上の成功を収めたことにより、継続が困難になる。
さしあたって今回は、この記事の "序論" 部分を読み進みたい。
―――― <エンタープライズソーシャルコンピューティングの導入に立ちはだかる10個の問題-(page 1)
ZDNetの編集長であるLarry Dignanは7月下旬の記事(英文)で、企業におけるソーシャルメディアへの取り組みとその業績との興味深い関係に関する最近のレポートを分析している。このレポートは、Altimeter GroupのCharlene Li氏とWetpaintによるものであり、その主なポイントは以下の通りである。
具体的に言えば、ソーシャルメディアに対して幅広く、かつ深く取り組んでいる企業は、売上と収益性のいずれにおいても同業他社を大幅に上回る成果を上げている。
このレポート(その詳細と、PDFファイルでのレポート提供についてはこのページを参照のこと)は、ソーシャルソフトウェアを自社のさまざまな部門に適用すべく取り組もうとしている企業にとって励みとなるだろう。しかし、Larryが指摘しているように、こういった数値はさまざまに解釈することができるのである。このため、ソーシャルメディアというものに対する投資収益率(ROI)が本当に算出できるのかという疑問を投げかけられることは減ってきているものの、今日における一般的な企業がソーシャルメディアに取り組んだ場合、根本的な業績向上に結びつけることができるのかという疑問はまだ残されている。
こういったことは、2009年6月に開催された「Enterprise 2.0」 【 ※ 引用者注 】 カンファレンスのあちこちで話題に上っていた次のような疑問を際立たせるものとなっている:ソーシャルコンピューティングは本当に企業業績の大幅な向上をもたらすのか?あるいは、軽微な改善を付加的にもたらすだけなのか?という疑問である。
有望な事例研究や証拠、調査が積み重なってきているとはいうものの、ソーシャルコンピューティングがビジネスにもたらす完全な影響というものについては、残念なことに現在のところまだ結論が出ていないのである。また、ソーシャルコンピューティングへの投資に対するリターンは企業によって大きく異なるはずであり、その理由については以下で考察している。現時点では、ソーシャルコンピューティング(ソーシャルネットワークやエンタープライズ2.0から、クラウドソーシングやソーシャルCRMに至るまで、企業によって採用されるあらゆる種類のソーシャルソフトウェアを含んでいる)を採用している企業の数が少ないため、同じ分野の企業同士を比較することでソーシャルコンピューティングの功罪を把握することができない状態なのである。また、ソーシャルコンピューティングを採用している企業であっても、実際に効果を把握できるほど長期間にわたって使い込んではいないのである。
とは言うものの、企業が試験的な導入や、イニシアチブの発揮を始めるようになったことで、ソーシャルツールによってもたらされる文化的な影響や、IT部門やビジネスへの影響がより明確になってきている。そしてそれに伴い、一連の問題も浮き彫りにされつつあるのである。
補足 : ソーシャルコンピューティングとは何なのだろうか?これは企業内における、あるいは他の企業や従業員、顧客、ビジネスパートナーといった利害関係者との間においてソーシャルソフトウェアを利用することである。以前の記事(英文)で説明しているように、ソーシャルコンピューティングは生産能力やイノベーションに大規模な変革をもたらす魁[さきがけ]となる可能性がある。企業はいずれも、エンタープライズソーシャルコンピューティング用のツールを各社少しずつ違ったかたちで採用していくことになるはずである(関連英文記事)。そしてたいていの場合にはとりあえず使ってみることから始めて(手始めとして、広く利用可能なコンシューマーツールを採用するということが多いはずだ)、より進化したオープンビジネスモデルを採用するようになるだろう(関連英文記事)。なお、 2009年時点で、大企業の約半数が何らかのかたちでソーシャルコンピューティングツールを導入している 。
以下に挙げている問題は、筆者のクライアントや業界内の知人を始めとする、この分野に詳しい人たちからの話を総合してまとめたものである。
ソーシャルコンピューティングにまつわる以下の10個の問題は、筆者が最もよく耳にするものである一方、読者の方々の感じ方はそれぞれ異なっているはずである。とは言うものの、筆者はこれらの問題が2009年における現状を反映したものになっていると確信している。なお、こういった問題は乗り越えられない障壁などでは決してなく、アーリアionドプターたちがソーシャルコンピューティングの採用曲線( 上の図 : Social Computing Adoption Curve を参照のこと)を登り始める際に直面しそうな代表例を描写しているにすぎないという点に留意してほしい。>
( エンタープライズソーシャルコンピューティングの導入に立ちはだかる10個の問題/ZDNet Japan/2009.08.04 )
――【 ※ 引用者注 】 "ソーシャルコンピューティング" にとって、「Enterprise 2.0」は、いわば "大前提" とも言える "ムーブメント" であるが、その全体は "大き過ぎる対象" であるため、とりあえずここでは言及しないこととする。
"新しいシステムの導入" にに関しては、とかく "バラ色" 面ばかりが羅列され、強調されがちとなる。そうでなければ普及しない道理は分かるが、その導入に伴う起こりがちな問題点を視野に入れておいてこそスムーズな導入・運用が実現できる。
無責任な評論が多い中で、前述の記事は、実践的な視点による誇張のない叙述という点で好感が持てた。
次回は、ここでの "10個の問題" 各々に目を通してみたい...... (2011.10.21)
―― P.S. 【 "ウォール街デモ" 関連最新ニュース 】
◆参照 < 全米デモ:支持した大統領は「致命的誤り」 WSJ紙寄稿/毎日jp/2011.10.19 >
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