過剰なストレスを被って生活するわれわれ現代人は、もはや "不安や心的苦痛" からは逃れられないかのようである。したがって、これらを如何に無くすかというよりも、これらを如何に "往(い)なす" のか、と構えた方がより現実的であるかに思える。
ところで、"心のあり様" が、内臓に、とりわけ "腸" の状態から影響を受けているという解説はこれまでにも聞いたことがあった。心の動きは "脳" が単独で操っているのではなく、その "脳" とリンク(?)しつつ "作用している" 身体部分と深い繋がりがある、というような解説であったかと思う。
そうした解説を裏付けるような "実験と研究" についての記事が実に興味深く思われた。
ヨーグルトなど乳製品に含まれる微生物、いわゆるプロバイオティクスが、"腸" に作用し、その結果、"脳" で構成される心の、そのあり様が変わるというのである。"抗不安" 的な効果が生まれるというのである。
―――― <ヨーグルトは脳に効く:心と身体の謎
精神は「体全体」が生み出しているもののようだ。ヨーグルトなどに含まれるプロバイオティクスをマウスに与えたところ、行動に影響が見られた実験などから考察。
......心は、大脳皮質だけの産物ではなく、体全体が生み出しているという......
それを裏付ける新たな研究成果が発表された。ヨーグルトなど乳製品に含まれる微生物、いわゆるプロバイオティクスを用いた研究だ。
アイルランドにあるユニバーシティ・カレッジ・コークのジャビア・ブラボーが率いる研究チームはまず、普通の実験用マウスに、プロバイオティクスの豊富な餌を与えた。その後、マウスの行動を調べたところ、有意な変化がみられた。
水中に落とされるなどのストレスの多い条件下にマウスを置いたところ、プロバイオティクスを摂取したマウスは、摂取していないマウスに比べて、不安に関連する行動を示すことが少なく、ストレスホルモンの分泌も少なかったのだ。
この行動の変化には、ニューロンの活動を抑制する神経伝達物質であるGABA(γ-アミノ酪酸)が関与している。研究チームがマウスの脳を調べたところ、プロバイオティクスを摂取していた群では、記憶と、感情の制御に関わる領域において、GABA受容体が増えていた(人間に投与される一般的な抗不安薬も、これと同じような効果をもたらす)。
さらには、対照群のマウスで、腸と脳を結ぶ神経を切断したところ、上記のような変化はみられなかった。つまり、プロバイオティクスの豊富な餌を与えても、マウスのストレス徴候は緩和されなかったという。 ......
TEXT BY Jonah Lehrer
TRANSLATION BY ガリレオ -高橋朋子/合原弘子WIRED NEWS 原文(English) >
こうした実験的成果に加えて、これに類する以下のような事実もあるという。
―――― < ほかにも、今年に入って、スウェーデンの研究チームが、マウスの脳の発達に腸内細菌の存在が影響していることを明らかにしている。フランスの研究チームも、人間の被験者にプロバイオティクス食品を30日間、多量に摂取させたところ、「心理的苦痛」のレベルが低下したという研究を発表している。さらに、精神に影響を与えるのは腸内の状況だけではないようだ。神経科学者のアントニオ・ダマシオは、心拍数が上がる、手のひらが汗ばむなど、自分の体の変化を認識できない神経疾患の患者は、適切な決定を下す能力においても問題を抱えていることを明らかにしている。簡単なギャンブルの課題を与えたところ、患者たちは通常では考えられない選択をして多額の損を被った。彼らは、恐怖の身体的な兆候を体験できないため、失敗から学べないのだという。
このような研究成果は、「形を持たない精神」という概念は大いなる幻想だということを示している。われわれは「身体化されていない魂」を自分だと感じているが、われわれの感情や選択の多くは、実際には腸内の微生物や、心拍数の上昇などに影響を受けているのだ。......>
( 同上サイト )
とかくわれわれは、"心のあり様" についても、手っ取り早くクスリ(抗不安薬など)に依存しがちである。しかし、"心のあり様" そのものが、<腸内の微生物や、心拍数の上昇など>を含む "身体状態" に依存しているとしたら処方箋の幅は広がりそうだ...... (2011.10.03)
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