顧客に関して、「お客様は神様です!」とまで持ち上げるとかえって "慇懃無礼" と言うか、"敬して遠ざける" の雰囲気となろう。だが、一般的に使われている「顧客管理」というタームも、考えてみれば妥当さを欠きそうな感触ではないか。
「管理」という言葉には "上から目線" の雰囲気が払拭し切れない。"モノを制御する" というニュアンスが付きまとってしまうからだ。
こんな疑問を今さらのように思い起こさせるのが、現在、各企業が喫緊の課題として直面している "ソーシャルネットワーク( = SNS、ソーシャルメディア)" との関係性構築というテーマなのである。
平たく言えば、「お客様は神様です!」というポーズでもなければ、「顧客管理」という "上から目線" でもなく、個人間で日常的に展開されている "フレンドリー" さ、やや条件付けるならば "結果志向" を忘れない "聡明なフレンドリー" さを旨とした対顧客関係がどう築けるか、という課題である。
「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。」(夏目漱石『草枕』)という古来からの難問、ジレンマに、各企業は今さらのように遭遇していることになりそうだ。"ソーシャルネットワーク" が活性化した現在、少なくとも「知に働けば蔵が建つ」(内田樹)という路線の旧態依然たる「顧客管理」体制だけでは企業経営は難しくなっているということか。
こう書くと、それは単純化し過ぎるとの誹(そし)りを受けそうだが、あれこれと「知に働く」前に、先ずはザックリと事の本質を鷲掴みしておいた方が良さそうな気がする。
今日、レビューしようとする "記事" は、下記引用の通りとなる。
先ずは、企業が直面している現況と課題とが述べられる。再三、指摘されるように "顧客や従業員" などの "個人" は、スマートフォンなどを駆使して活発な "ソーシャルネットワーク" を形成しているのに対して、各企業はそうした "個人" とのつながり、かかわりを持つことに立ち遅れている。その実情が "ソーシャルデバイド(亀裂!)" という言葉で表現されている。そして、もはやこの "亀裂" を放置しておくわけにはゆかなくなったのだと。
次に、その背景が述べられる。ひとつが、"ソーシャルネットワーク" が活性化していることを指し示す数値的な実情であり、これがスマートフォンの普及によって加速されているという点。
もうひとつは、"ソーシャルネットワーク" ならではの特徴から、"アラブの春" の事象に象徴されるような強力な影響を現実の世界に与え始めている点である。
そうした背景を踏まえると、企業と個人との間に認められる「ソーシャルデバイド」は早急に解消されなければならない、と強調され、<ソーシャルデバイドを埋め、企業が変わるための三つのステップ>が提唱されることになる。各ステップの内容は引用部分の通りである。
なかなか充実した内容であり、圧縮し切れないため全文引用となってしまった。(理解度を高めたいために、文字表現の小細工をしてみたが......)
―――― <企業のソーシャル化は必然、個人と企業の間のデバイドを崩せ!
FacebookをはじめとするSNSでは、ユーザーが今まさにいるその現場から、店や製品・サービスに対する個人の感想など、様々な情報をリアルタイムで発信する。スマートフォンの普及が、こうした動きを後押し、加速させる――。 そうしたなかで企業は今、自らもソーシャル化して、もっと顧客や従業員とつながっていくことが求められるようになった。そうすることで顧客が何を感じているのかを即座に把握し、さらには次のビジネスの種を見つけることにつながるからだ。しかし、企業と個人の間には、ソーシャルへの取り組みの落差(ソーシャルデバイド)という大きな課題が横たわっている。
「企業にもソーシャル革命が起きている。だが、そこには"ソーシャルデバイド"が存在している。はたして企業は個人(顧客や従業員)とソーシャルなつながりを持っているのか」――。こう語るのは、米セールスフォース・ドットコム(以下セールスフォース{顧客管理ソリューション。[引用者注]}) のマーク・ベニオフCEO(写真1)だ。
同社は2011年8月末から9月にかけて米サンフランシスコで開催されたプライベートイベント「Dreamforce '11」で、新たに「ソーシャルエンタープライズ」というコンセプトを打ち出し、「企業が顧客や従業員といった個人とソーシャルなつながりを持つこと」の重要性を訴えた。このことは同社のサービスにかかわりのある企業だけでなく、実はあらゆる企業に関係する。
一般に企業は「法人」として、「個人」とともに社会活動を営む存在である。その一方の個人が活動の場をSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス、以下ソーシャルネットワーク)へと広げ、ソーシャルネットワークの中で現実世界とリンクしながら、多くのかかわりを持ちつつ、ある種の社会を築いている。
企業にとって「個人」とは、顧客であったり、従業員であったりする。「個人」とのかかわりを持たない企業はあり得ない。すなわち現実社会で法人としてふるまっている企業は、ソーシャルネットワークによって築かれた"社会"においても、個人とかかわりを持つのが自然だ。その背景には切迫した状況がある。もはや「我々の会社はソーシャルネットワークとは関係ない」とは言ってはいられない事象が起きつつあるのだ。
そこで今回から5回にわたり、企業がソーシャル化を実現するうえで乗り越えるべき課題や、ソーシャル化を支援するためのITサービス/製品の最新動向、ソーシャル化の具体的事例、識者の考えるソーシャル化の方向性などを紹介していく。今回と次回は、エンタープライズ向けソリューションの大手ベンダーの中でも最もソーシャル化に積極的な企業の1社であるセールスフォースが、Dreamforce '11で明らかにしたその戦略を素材として、企業とソーシャルネットワークのかかわりとは具体的にどのようなものなのかを見ていこう。
■ 電子メールの役割が相対的に低下
なぜソーシャルネットワークがこれほどまで重要な位置を占めるようになったのか。先日インタビューしたあるベンチャー企業の社長はこんなことを言っていた。「米国の大学に留学している娘によると、友達同士で最初に教え合うのはFacebookのアカウント。電話番号やメールアドレスは聞かれない。Facebookのアカウントがないとコミュニケーションできないところまで来ている」という。
こうした状況を裏付けるのがソーシャルネットワークのユーザー数だ。Facebookは、ワールドワイドで8億人超のユーザーを獲得。Twitterのアクティブユーザーも1億人を突破したという。
日本でもソーシャルネットワークは確固たる存在感を示している。例えばmixiの2011年6月の月間ログインユーザー数(1カ月に1度以上ログインしたユーザー)は1527万人にも上る(2012年3月期第1四半期報告書より)。日本におけるFacebookのアクティブユーザー数も500万人を超えたと発表されており、今後さらなる伸びが予想される。
セールスフォースのマーク・ベニオフCEOも、ソーシャルネットワークの存在の大きさを強調する。Dreamforce '11でベニオフ氏が紹介したある調査結果によれば(写真2)、既にソーシャルネットワークのユーザー数は電子メールのユーザー数を超えている。
実際、Facebook内のメッセージ交換は電子メールの代替になるし、Twitterのダイレクトメッセージ(DM)で連絡を取り合うユーザーも多い。無論、電子メールが利用されなくなったわけではないが、ソーシャルネットワークの普及によって相対的にコミュニケーションツールとしての電子メールの役割が低下しているのだ。
ソーシャルネットワークの普及はインターネットの利用状況にも変化をもたらしている。ユーザーがソーシャルネットワーク内で"過ごす"時間が増えているのだ。この動きをさらに後押しするのが、スマートフォンなどのモバイルデバイスである。Facebookのモバイルユーザーは、デスクトップで使うユーザーよりも2倍アクティブであるという。スマートフォンの普及がソーシャルネットワークの利用をさらに加速している状況にある(第5回で詳しく解説)。
■ "エンタープライズの春"が起こりかねない
ではソーシャルネットワークの中で何が起こっているのか。そこには個人の様々な声が渦巻いている。それも閉じたコミュニティ内の私的な声だけでなく、一般に公開される形で製品やサービスに対する個人の生の声があふれているのだ。
もちろん、これまでも掲示板やブログなどからそうした声を集めることはできたし、それらを分析してマーケティングや製品企画などの参考にしてきた企業も多い。それらとは一体何が違うのか。SNSならではの特徴を挙げると、(1)情報発信・伝搬がユーザー同士のつながり(ソーシャルグラフ)を基にしていること、(2)スマートフォンの普及によって現場からのリアルタイムな情報発信が増えていること――などだろう。
実はこれらの特徴が、これまでのネット系サービス以上に強力な影響を現実の世界に与え始めている。極端な例かもしれないが、ソーシャルネットワークの情報伝搬力と影響力を如実に示したのが、中東の民主化運動である"アラブの春"だ。ソーシャルネットワークが民衆の情報発信ツール、伝搬ツールとして大きな役割を担ったと言われている。
ベニオフCEOはアラブの人々がFacebookへの感謝を記したパネルを掲げている写真などを示し(写真3)、「"ソーシャル革命"が起きている」(同氏)と語る。これまで時代を席巻してきたハードウエアやソフトウエア、サービスには見られなかった事象であり、「革命」と呼ぶにふさわしい出来事をソーシャルネットワークが後押ししたことを物語る。
ベニオフCEOは、こうしたソーシャル化の波に気を配らないと「"エンタープライズの春"が起こる。顧客の声、従業員の声に耳を傾けていない企業は滅びかねない。今まで以上にもっと耳を傾けなければならない」と警鐘を鳴らす。これが「ソーシャルエンタープライズ」を強く訴えかける理由だ。
■ ソーシャルデバイドを埋め、企業が変わるための三つのステップただし現状は、冒頭の言葉のように多くの企業と個人の間には「ソーシャルデバイド」とも言える状況が横たわっているという(写真4)。ソーシャルデバイドとは、顧客や従業員がソーシャルネットワークを活発に利用し、様々な情報を発信しつつ互いにつながっていくなかで、一方の企業はこうした流れから置いていかれている状況のことを指している。
顧客や従業員と企業の間に存在している亀裂をどうやって埋め、どうやってつなげていくのか。この亀裂を埋めるためのステップとしてベニオフCEOは次の三つを挙げた。ステップ1 は「顧客のソーシャルプロファイルを作成すること」、ステップ2 は「従業員をソーシャル化すること」、そして<ステップ3 は「顧客自身や製品を含めたソーシャルネットワークを築くこと」である。
ステップ1 は、顧客が自ら進んで公開しているソーシャル情報をトラッキング(追跡、追尾。[引用者注])し、即座に顧客がどのような要望を持っているのか、どんな意見があるのか、といったことが反映されるデータベースを構築することだという。
ステップ2 は、従業員同士のコラボレーション(共同作業。[引用者注])だけでなく、場合によっては顧客もいっしょにそのコラボレーションの輪の中に参加してもらうようにする。セールスフォース(顧客管理ソリューション。[引用者注])では、こうした従業員、顧客を含めたコラボレーションを実現するためのグループ化機能などを、同社の業務用ソーシャルネットワークプラットフォームである「Chatter」に加えていく(写真5)。さらにChatterを他のレガシーなコラボレーションシステムとも接続するための「Chatter Connect」や、プレゼンス機能などを提供する「Chatter Now」など多くの機能強化を図る。
そしてステップ3 は、顧客自身と企業をつなげ、さらには製品までも含めたソーシャルネットワークを築くこと、としている。その事例としてDreamforce '11で紹介されたのが、トヨタ自動車の「TOYOTA friend」だ(写真6)。「車が友達になる」(ベニオフCEO)というアイデアの転換から生まれたもので、例えば電気自動車の電池のチャージ状況や走行している場所などがリアルタイムに把握できるようになっている。そして、これらの情報は、自動車自体がソーシャルネットワークの一員として、顧客や企業に対して発信しているかのように見える。
このようにセールスフォースが描くソーシャル化のステップはとても分かりやすく、同社のサービスを使っていないユーザーにもその考え方は受け入れやすい。次回は企業のソーシャル化を支えるプラットフォームについて紹介する。 >
( 企業のソーシャル化は必然、個人と企業の間のデバイドを崩せ!/IT pro/2011.10.03 )
述べられている内容に、驚かされるような "新規さ" があるとは思えない。真に顧客との関係に腐心してきた企業経営者ならば既に踏み固めている考え方であろう。
ただ、現代はデジタル・システムで"レバレッジ(テコ)" の効いた "パワー" を発揮することが当然視された環境なのである。
そこから、"顧客管理ソリューション" システムのベンダーである "米セールスフォース・ドットコムのCEO" が当然ながら所論を力説しているということなのであろう。
言い添えれば、こうした所論に基づく "システム戦略" が、確実に安全地帯への着地に結び付くかどうかは何とも言えない......。それは、一昨日書いた "99%のための春" ("ウォール街占拠"運動)の着地点がどこにあるのかについて何とも言えないのと酷似していると言うべきか。ともに、"社会的実験!" の範疇以外ではないからである。
しかし、環境変化に見合った "企業のソーシャル化" が、何らかの新たなプランで着手されなければならないことだけは確かではなかろうか ...... (2011.10.16)
―― P.S. 【 "ウォール街デモ" 関連最新ニュース 】
◆参照 < 米市民デモ:「東京を占拠せよ」都内でも呼応してデモ/毎日jp/2011.10.15 >
◆参照 < 台北でも反格差デモに5百人 ビル包囲、世界一斉行動日/【共同通信】/2011.10.15 >
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