確かに "起業" とは簡単なことではないし、また設立後に会社を持続・成長させることも容易ではなかろう。また、よく指摘されて来たように、この国の場合、"過度の個人責任主義" に任せて、失敗からの再挑戦を助ける "セーフティ・ネット" が無い点も災いしているようだ。
しかし、昨日も書いたように<通勤や社員化/準社員化を前提とする従来的な雇用モデルが、不況前の高水準に戻ることはないだろう。>というシビァな推定や、<個人、ないし、少人数の企業がニッチな市場を開拓して生きのびるチャンスはむしろ増えて来ている>( "ソーシャル"時代の"個と仕事"に決定的影響!"プラットフォーマー"主導型市場!( 当誌 2012.03.07 ) )といったエネルギッシュな読みをも踏まえるならば、"起業" という挑戦的課題は "再注目されて良い課題" だと言わざるを得ない。
しかも、"起業" は "個" の立場から魅惑的であるだけではなく、低迷する "社会" 全体にとっても "新たな雇用(雇用創出)" という "喉から手が出る" ほどに有難い課題ではなかろうか。
ただ、"起業家" にとってのボトルネックは、"起業" の "ネタ(テーマ)設定" が一苦労であること、まあそれは織り込み済みだとはしても、"開業資金" の捻出は実に頭の痛い点であろう......。
だが、この時代、"起業" が "社会" 全体にとっても重要課題だという認識に立つならば、"社会" を挙げての積極的支援体制があって然るべきかとも思われる。
こんな文脈で "一考に値する" と思われたのが、下記引用サイト記事:「100万人の起業のチャンスを拓け!35歳未満が35%、若者ほど起業に熱心」――熊野英生・第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト/ダイヤモンド・オンライン|経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層/2012.03.07 である。
<今、政府が休眠預金を活用しようという構想を打ち出している>ことにタイムリーに着眼した提言であり、<民間銀行は、休眠預金をそのままにはせず、それを見合いにベンチャー投資を行なった方が好ましい>というものだ。
まあ、"石橋を叩いて、それでも渡らない!" と揶揄されて来た銀行は、今こそ、"運命共同体" 的視点に立って "斬新な一歩" を踏み出すべき時ではないかと思われた......
100万人の起業のチャンスを拓け!35歳未満が35%、若者ほど起業に熱心
■ 不況で若者は本当に保守化するのか? 起業希望者の3割は35歳以下の若者
景気が悪くなると、若者たちがますます保守化すると言われる。「寄らば大樹の陰」で、大企業・安定企業への就職を希望する。卒業後に正社員になれなかった若者が非正規化して、低所得層を累増させていく......日本経済の未来は真っ暗。 ......
日本社会には、別の鉱脈があることを忘れてはいけない。新しく起業をしたいと志す人数は、100万人を超えている。確認できる統計データでは、2007年までに起業を希望する人が135万人もいる(図表1参照)。 ...... 最近になって総数が減っていることは事実だが、まだ膨大な起業予備軍がいることを軽視してはいけない。
興味深いのは、135万人の起業希望者の中で、35歳以下が48万人で、全体の35%の割合を占めていることだ(図表2参照)。 ......
135万人のうち、男性は108万人(80%)で、女性は27万人(20%)という割合になる。若い人は、人生の中で失敗を相対的に恐れず、チャレンジすることを希望するということだ。 ......
■ 1事業所の開設につき6.1人の雇用創出 社会的に大きい起業のポテンシャル
実際、起業を志望していても、実際に開業して会社を大きく育てることができている人は多くない。狭き門である。しかし、そうやって苦難を潜り抜けて成功した人たちの成果は、社会的に大きい。
総務省『経済センサス』では、2007~2009年にかけて新設された事業所数は、全国で61万事業所。そこで生まれた従業者数は374万人にも及ぶ(図表3参照)。平均すると、1事業所が開設されると、6.1人の雇用創出が行なわれている計算になる。
仮に、100万人の起業希望者が全て起業に成功すれば、610万人の雇用吸収力になるというポテンシャルになる。2012年1月の完全失業者数が291万人なので、現在の失業者を十分に吸収する雇用創出効果に相当する。 ...... つまり、起業を通じて生じる労働需要は、労働需給を大きく改善するものであることがわかる。
一方、起業の障害になっているのは、開業時の資金調達である。金融機関や投資家にとって、起業を志す人の手腕は未知数である。
投資家は、起業家の手腕を詳しくは知らないし、起業家自身も投資家や金融機関が、創業後の雌伏の期間に粘り強く資金支援をしてもらえるかどうかを信じにくい。...... 現状、投資家は、起業家の事業履歴を重視して、事業の成功確率を占おうとしている。しかし、その履歴効果は、実績の乏しい若者ほど不利に働く弊害がある。若い人ほど意欲が高いのに、履歴効果がブレーキになって、社会全体として起業できる人のポテンシャルを活かし切れない障害が起きる。
■ 休眠預金は、銀行自身が有効活用するのが本筋
ところで、今、政府が休眠預金を活用しようという構想を打ち出している。概算で1年間に850億円の休眠預金が生じていると言われる。政府は、その資金を使って、復興資金などに有効活用することを検討している。
もしも、休眠預金を活用しようというのならば、筆者は、政府支出の財源として用いることには賛成しない。
民間銀行は、休眠預金をそのままにはせず、それを見合いにベンチャー投資を行なった方が好ましいと考える。経済効率として金融機関に任せた方が、資金の配分としてより経済刺激が見込めるはずだ。仕組みについて言えば、民間銀行はベンチャー投資勘定を新設し、そこに休眠預金を移し、その金額に見合うベンチャー出資(起業支援)を行なう。仮に、ベンチャー出資が新規事業者の破綻によって損失となったときには、休眠預金を償却財源に充当する。
レバレッジを利かせてベンチャー出資を増やすことも検討する。そうすれば、社会的メリットとして、若い起業者を支援することになる。銀行にとってのメリットは、そのベンチャー出資を通じて巣立って行った新規企業の成長資金の供給である。新規企業が運転資金を求めれば、融資拡大のチャンスになる。また、ベンチャー投資のノウハウが銀行に蓄積するという副次効果も見込める。
こちらの方が、休眠預金という凍ったマネーを有効活用するには、より実効性が上がる。
( 100万人の起業のチャンスを拓け!35歳未満が35%、若者ほど起業に熱心――熊野英生・第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト/ダイヤモンド・オンライン|経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層/2012.03.07 )( ※引用者注 ―― 文意を損なわないよう留意して割愛箇所を施しています。)
みんなが相互に "リスク" を取り "一歩、二歩を踏み出す" こと無くしては、この "袋小路的経済状況" は打開されない......。"起業" という挑戦的課題が着目される今、"起業家" 個人を "二階に上げて梯子を外す" ような旧態依然状態は見直されるべきであろう...... (2012.03.08)
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