"電子書籍" はどう読まれていくのか、という関心事に対する "一つの典型" が提示されたような感触である。
"重厚感" ある "紙書籍" に対して、"電子書籍" が秘めた "機能性・即応性" を存分に発揮したスタイル、ポップな "Web コンテンツ" に限りなく接近したようなスタイルだと言えそうか......。
これを報じているのは、「米電子書籍に「廉価版」 1冊1ドル、数時間で読破」/日本経済新聞/2012.04.15だ。
<電子書籍の普及が進む米国で、数時間で読めるオリジナル電子書籍「イーシングル」が台頭している。価格は1冊=1ドル弱からで、通常の電子書籍(10ドル前後)より格段に安い。手軽で安い新書の登場がハードカバーの単行本を脅かした出版業界の歴史が、デジタル出版革命の進行とともに電子書籍の世界で繰り返されようとしている。>
この「イーシングル」( E-Singles )とは、いわば "短編電子書籍"、短時間で読める"電子書籍" のことである。下記のとおり、"忙しい現代人" に歓迎される素地は十分にありそうだ。
<「飛行機での移動中や寝る前のひとときで読破できるのが魅力」。新興出版社バイライナー(サンフランシスコ市)の創業者、ジョン・テイマン最高経営責任者は、イーシングルが人気を集める理由を説明する。映画などが2時間程度で完結するのに対し、書籍は読み終えるのに何日もかかることもある。テイマン氏は「忙しい現代人には時代遅れ」と言い切る。>
内容的には、<エッセーなど3時間以内で読み終わるノンフィクション作品が中心で、米大統領選など旬の話題を素早く書き下ろした作品が多い。>とかだ。したがって、このコンパクトな分、<数年がかりで完成させる従来型の書籍より雑誌に近く、印刷費などがかからない分、低価格で提供できる。>ということになるらしい。
米アマゾン・ドット・コムは、この「イーシングル」にいち早く注目し、<昨年1月、自社サイト上に短めの電子書籍を集めた「キンドル・シングルズ」というコーナーを開設。>している。
...... 米国では、1万語未満が雑誌記事、5万語以上が書籍という分類が一般的。そのような中で今回のサービスは、この中間に位置する分量のジャンルをグルーピングしたもの。作家はもちろん、学者、ビジネスマン、政治家などが、自らの作品・主張を機動的に発表できる場として運営する狙いがある。価格も99セントから4.99ドルと、比較的安価に設定されており、消費者は実用的な情報あるいは短編小説などを気軽に入手することができる。......( 「アマゾンが短編電子書籍シリーズ「キンドル・シングルズ」サービスを開始」/Publishing News/2011.01.31 )
さて、冒頭記事に戻ると、こうした<新市場の誕生>をめぐっては、<出版社の新収入源に育つとの期待がある一方「電子書籍なら1冊=1ドル」とのイメージが定着すれば既存の出版事業の事業基盤にも影響を与えかねない>との懸念も浮上しているようだ。
しかし、<ただ手をこまねいていれば急拡大するイーシングル市場を新興出版社に奪われかねない。最近では大手出版社や有名作家の進出も目立つ。>とのことでもある。
そして、日本国内での "電子書籍" 業界にも新たな波紋を投げかけることになるのかもしれない。
<米国で台頭するイーシングルは、電子書籍の普及後に起きたデジタル出版革命の新潮流だ。「電子書籍元年」とされる日本もいずれ向き合うことを迫られそうだ。>
"電子書籍" ライブラリーのジャンルは広く豊かであるに越したことはない。ただ、<「電子書籍なら1冊=1ドル」とのイメージが定着すれば既存の出版事業の事業基盤にも影響を与えかねない>との懸念も一理ある...... (2012.04.17)
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