あらゆる状況が "劇的変化" を遂げている。
その変化の中心はコンピュータ周辺領域であろう。そしてその反映と浸透とを直接的に被っている "日常生活の場" の変化には目を見張るものがある。広い意味での "エンドユーザー・コンピューティング" 花盛りと言える。
今、"日常生活の場" の個人ユーザーのもとには、複数の新型PC、ノートPC、タブレット、スマートフォン、などが普及し、クラウドサービスなどによって "シームレス" で快適なコンピュータ環境が展開されている。
かつて "コンピューティング" と言えば、その中心的役割を誇示していたのは、企業などにおける "IT部門" でありその現場であったはずだ。
それゆえに、"IT部門" には "ギーク"( 卓越した知識がある者たち )たちが結集し、彼らは、社会的な "コンピューティング" に託された使命と期待とに向けて自負心を持って対処していた。
ところが、今、社会の "コンピューティング" を巡る "主導権" は、あたかも "ギーク" 集団の "IT部門" などから、"日常生活の場" のユーザー個々人に移行したかの観が生まれている、という。
下記引用サイト記事:クラウドと「iPad」の繁栄 ―― そしてギーク時代の終焉/CNET Japan/1012.05.29 では、その "逆転劇(?)" の現状が解説されている。
"日常生活の場" のユーザーでもある "従業員たち" が、"IT部門" の実態に対して "違和感" を訴えはじめているというわけなのだ。どこにでもありそうな構図だ。
<IT部門が時代遅れのコンピュータを配備しようとしたり、電子メールの添付ファイルサイズに上限を設けようとしたり、使いものにならないウェブアプリケーションを開発したり、個人のスマートフォンから企業カレンダーにアクセスできないようにした場合、こういった従業員たちはIT部門のことを頼れる存在ではなく、業務の進捗を阻む存在と見なすようになるのである。>
そして、以下のような指摘がなされる。
<ギークが腕を振るって新たなソリューションを紡ぎ出す(それが企業PC向けの標準的なソフトウェアであろうと、内製のアプリケーションであろうと、自社でのメールサーバの稼働であろうと)という時代は急速に終焉へと向かっている>
ただし、完全な "終焉" というのではない。"新たな役割" とでも言うべき "より包括的な仕事" が残される、と言い添えられている。
これらは、"IT部門" の今後についての話なのであるが、"IT技術者個人" の行方についても同じことが言えそうな気がする。
"つぶしがきく" という言葉があるが、こんな時代では "IT技術者個人" もそうした観点を十分に意識せざるを得ないはずだ......。
クラウドと「iPad」の繁栄 ―― そしてギーク時代の終焉
ギークの時代はかつて、永遠に続くかのように思えたものの、ユーザーの期待が時とともに変わるにつれ、IT部門、およびIT関係の仕事の未来も劇的な変化を余儀なくされている。
15年ほど前であれば、どのような仕事をしているのかと尋ねられて「コンピュータ関係です」と答えようものなら、羨望のまなざしで見つめられ、「高給を得ているだけでなく、仕事の心配などとは無縁の世界に住んでいるはずだ」という相手の思いを肌で感じることができたものだった。
当時は「IT関係のスキルを有した人材の不足」が全国的なニュースとなっており、...... IT関係の仕事が世界で最高の仕事の1つだと見なされていたことの象徴だと言えるだろう。当時は、世界中にデジタル化の波が押し寄せ、IT業界は今後何十年もの間、素晴らしい就職先であり続けるだろうと考えられていた。
では、何が起こったのだろうか?
アウトソーシングというトレンドが生み出された。また、オフショア開発が盛んになった。さらに膨大な予算をかけたITプロジェクトがいくつも失敗した。そして、IT関係の予算が縮小の憂き目に遭った。
従来のIT部門に課されていた役割が縮小していった背景には、これらすべての要素があったと言えるだろう。しかし本当の原因は、こういったテクノロジを実際に使用する人々の抱く期待が劇的に変化したことにある。...... 業務部門の従業員のことである。彼らはIT関係の購入にまつわるすべての意思決定や、あらゆる機器の設定、すべての障害対応をIT部門に任せていた。なんと10年前には、彼らの半数がマウスの接続方法すら知らなかったのだ。
一方、今日ではほとんどの従業員が自宅で少なくとも3台目、あるいは4台目の新型PCを使用しており、彼らの多くはスマートフォンも所有している。また、自らのノートPCやタブレットを携帯している従業員もいる。彼らの多くが「Gmail」や「Yahoo!メール」の電子メールアドレスを個人で取得しており、Amazon.comにおけるシームレスなオンライン注文手続きを愛用している。また、数は少なくなるものの、ITに詳しい従業員のなかには「Dropbox」といったクラウドサービスを利用し、個人ファイルを複数のデバイスから使用している者もいる。
このため、IT部門が時代遅れのコンピュータを配備しようとしたり、電子メールの添付ファイルサイズに上限を設けようとしたり、使いものにならないウェブアプリケーションを開発したり、個人のスマートフォンから企業カレンダーにアクセスできないようにした場合、こういった従業員たちはIT部門のことを頼れる存在ではなく、業務の進捗を阻む存在と見なすようになるのである。
彼らの多くはIT部門の手を何度も借りたいとは思っておらず、実際に必要ともしていない。その一方で、彼らは自社のITシステムが「iPad」のように簡単に操作でき、まるでGmailのように制約がなく、Amazonで何かを購入する際のようにシンプルかつシームレスで、Dropboxのように直感的な設定が可能になっていることを期待するのである。
......IT部門のリソースはAppleやGoogle、Amazonはおろか、ベンチャーキャピタルの支援を受けているDropboxのような新興企業にすら遠く及ばない。...... ほとんどのIT部門はあらかじめパッケージ化されたコンシューマー指向のソリューションに太刀打ちできない状況に陥っている。このため、ギークが腕を振るって新たなソリューションを紡ぎ出す(それが企業PC向けの標準的なソフトウェアであろうと、内製のアプリケーションであろうと、自社でのメールサーバの稼働であろうと)という時代は急速に終焉へと向かっているわけだ。
...... このことは今あるIT関係の仕事がすべてなくなってしまうということを意味しているわけでは決してない。それらは単に場所を変えるだけである。地方のITインテグレーターには小規模な地場企業の支援という仕事が残され、開発者にはソフトウェアへの依存度が日増しに高まっている社会への貢献という仕事が残され、ITインフラの専門家には大規模クラウドデータセンターの運用(または大企業におけるデータセンターの運用)という仕事が残され、プロジェクトマネージャーやビジネスアナリスト、ITアーキテクトには、適切なITソリューションの選択や計画を行う際に、組織を正しい方向に導いていくという仕事が残されることになる。
これらが将来におけるIT関係の仕事である。われわれがこういった未来に向かっているという事実をまだしっかり受け止めきれていないのであれば、今こそそのことに正面から向き合うべきだろう。
( クラウドと「iPad」の繁栄 ―― そしてギーク時代の終焉/CNET Japan/1012.05.29 )
( ※引用者注 ―― 文意を損なわないよう留意して割愛しています。)
"ギーク時代の終焉" という視点は、前記のとおり、"IT技術者個人" の行方についても当てはまりそうだが、誤解を恐れずさらに言うならば "IT業界" 全体にも忍び寄っている局面なのかもしれない...... (2012.05.31)
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