"何かを探しているときに、探しているものとは別の価値あるものを見つける能力・才能" を指す "セレンディピティ( serendipity )" という言葉がある。
これを、単に "運が良い" という意味で受けとめるのは誤解だろう。確かに "運" も良いには違いない。
だが、"運" とて "運も実力のうち" と言われるように、"タナボタ" で引き寄せられるものではないように、"セレンディピティ" は、漫然としていて発揮される筋合いの能力ではなかろう。
強い "目的志向" と、絶え間ない "試行錯誤" のアクションがあってこそ、"探しているものとは別の価値あるものを見つける" ことになるのだと確信する。
今、企業人をはじめとして多くの者が、"ヒット商品" や "新しいビジネスモデル" を目指して血眼になっている。まるで、"砂漠で針を探す" ほどの困難さではあっても、それ以外に突破口はないと感じている。
そんな状況であるからこそ、"セレンディピティ( serendipity )" という言葉もまた輝きを増すのであろう。
いや、"理詰め" のアプローチが色褪せている昨今では、"気づく" というセンスを核とした "セレンディピティ" 能力こそがマークされていいのかもしれない。
下記引用サイト記事:アップルに気づかされたプリント基板材料の意外なニーズ/日本経済新聞 - ものづくり進化論(日経産業新聞)/2012.08.21 は、その意味では、"セレンディピティ( serendipity )" のひとつの典型を示していると思われる。
<プリント基板の表面に塗布し、余計な部分へのはんだの付着を防止する絶縁材「ソルダーレジスト」>を手掛けるタムラ製作所が、その製品を<スマホ最大手の米アップルに採用され、4年目の今期は年12億円強の売り上げを見込むまでに育った>という成功談である。
本来、<余計なはんだの付着を防ぎ、基板を保護し、絶縁するというレジスト本来の目的と、色は関係ない>はずだが、製品の "色" に着目し始めたタムラ製作所の製品が、<機器内部のデザイン性を求める>アップルの眼に留まった(基盤メーカーを介して)というのである。
折から、<アップル製品は発売のたびに分解され、インターネットのウェブサイトなどに内部構造の写真が掲載される>という事情があって、その辺から、"デザイン性の高い黒色" の基盤が "ご所望!" だったようなのである。もちろん、基盤性能としての "フレキシブル" さが踏まえられていた上でのことであろうが......。
アップルに気づかされたプリント基板材料の意外なニーズ/日本経済新聞 - ものづくり進化論(日経産業新聞)/2012.08.21
はんだなどプリント基板材料を手掛けるタムラ製作所には隠れたヒット製品がある。プリント基板の表面に塗布し、余計な部分へのはんだの付着を防止する絶縁材「ソルダーレジスト」だ。同社はスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)など超小型、薄型の機器で使われる「フレキシブル基板」向けのソルダーレジストに2009年に新規参入。スマホ最大手の米アップルに採用され、4年目の今期は年12億円強の売り上げを見込むまでに育った。だが、その成功のきっかけは製品の性能ではなく色にあった。......
......同社は09年、フレキシブル基板で使える白色のソルダーレジストを開発して市場に参入した。......
ところが「期待に反してさっぱり売れなかった」(清田氏)。そこで高い折れ曲げ性をアピールするために、白レジストを塗布したフレキシブル基板で折り鶴や戦闘機を作って見せたりもした。それがあるフレキシブル基板メーカーの目に留まった。白は要らないが、黒のフレキシブル基板用がもしできるなら採用を検討すると言ってきたのだ。
開発現場は戸惑った。黒を作ること自体は難しくないが、なぜ黒が必要か分からなかったからだ。余計なはんだの付着を防ぎ、基板を保護し、絶縁するというレジスト本来の目的と、色は関係ないはず。フレキシブル基板は製品内部で使われるため、一般の目には触れない。実際、一般的なフレキシブル基板用レジストは青や緑などが多く、レジストを使わないこともある。ところが先方は「つや消しの黒、色はなるべく漆黒に近づけて」などとまるで外装デザイン向けのように色味まで細かく指定してくる。半信半疑のまま、幾つかサンプルを作って持ち込んだ。......
10年に採用が決まると予想をはるかに超える大量の発注が始まった。うなぎ登りに出荷が増え、瞬く間にレジスト部門の稼ぎ頭に成長した。12年3月期に44億円を売り上げる同部門の10%強がフレキシブル基板用レジストの売り上げだという。
黒レジストを使ったフレキシブル基板の納入先はどうやら米アップルだったらしいとタムラ製作所が気づいたのはずっと後、黒レジストフレキシブル基板を採用した「iPhone」や「iPad」の出荷が始まってからだ。アップル製品は発売のたびに分解され、インターネットのウェブサイトなどに内部構造の写真が掲載される。そこで使われていたのは紛れもなくタムラ製作所の黒レジストを使ったフレキシブル基板だった。......
色違いのレジストは予想外に引き合いがあり、...... アップルのように機器内部のデザイン性を求める目的 ......
( ※引用者注 ―― 文意を損なわないよう留意して割愛しています。)
この時代環境での "成功" へのルートは、求めて得られるような直線的な状況でないことは多くの者が感じ取っている。したがって、そこから "諦め" に傾いてしまうことも大いにあり得る......。
そこで、"セレンディピティ" 的な "成功" 事例に目配りされるのであろうが、再確認しておくべきは、そのルートにもまた、強い "目的志向" と、絶え間ない "試行錯誤" のアクションといった必須条件が控えていることではなかろうか ...... (2012.08.22)
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