"円安/株高" の福音を歓迎するのは良いとして、それら自体がターゲットではないのだから、「それでどうなの?」と "次のステップ" に目を向けることが欠かせない。
"デフレ脱却" を可能とする "旺盛な消費"、そのための "賃金上昇"、要するに "経済活性化" による "景気回復!" 全体こそがねらいのはずなのだから......。
こうした状況で、差し当って関心が向くのは、"円安" 状況に移行してからの "輸出額"(貿易収支)の変化であろう。長引いた "円高" で悪影響を受けたとされる "輸出額(輸出競争力)" の落ち込みは、相応に回復してきているのだろうか?
ところが、下記引用サイト記事:円安は本当に輸出を増やすのか 編集委員 西條都夫/日本経済新聞/2013.04.17 が指摘するところでは、どうも "想定外" の事態となっているようだ。
<アベノミクスと日銀の異次元緩和で金融市場は沸き立っているが、意外に低迷したままの数字もある。その代表が円安の恩恵で伸びると期待される輸出だ。財務省の貿易統計によると、2005年を100とした輸出数量指数は、円安の進んだ昨年秋以降も低下を続け、今年2月には82まで低下した。この結果、2月の貿易収支は年率で13兆円の赤字となり、過去最悪水準になった>
こうした事実を踏まえて、下記記事筆者は、<リーマン・ショック以前の貿易の状況とはかなり様変わり> している現状に注意を促している。
つまり、問題は、<三大輸出産業といわれた輸送用機械(自動車や船)、電気機器(電子部品や通信機など)、一般機器(原動機や建設機械など)>のいずれでも "ランキング順位" を落として、"輸出競争力" の低下を招いているという事実だと言うのである......。
円安は本当に輸出を増やすのか 編集委員 西條都夫/日本経済新聞/2013.04.17
アベノミクスと日銀の異次元緩和で金融市場は沸き立っているが、意外に低迷したままの数字もある。その代表が円安の恩恵で伸びると期待される輸出だ。財務省の貿易統計によると、2005年を100とした輸出数量指数は、円安の進んだ昨年秋以降も低下を続け、今年2月には82まで低下した。この結果、2月の貿易収支は年率で13兆円の赤字となり、過去最悪水準になった。
なぜ、円安にもかかわらず、輸出ドライブが効かないのか。一つはメード・イン・ジャパンを受け入れる側の世界経済の不振がある。日本の最大の貿易相手である中国の景気は曇り空が続き、反日の余韻も残る。欧州景気も厳しさに変わりはなく、多少なりとも明るいのは米国と東南アジアぐらいだ。
また、過去の円安局面を見ても、円安が輸出増に結びつくのには一定のタイムラグがある。そのため今の為替水準が定着すれば、いずれ輸出数量も上向くという見方が多い。4月12日付の日経新聞朝刊は「日産、円安で米移管先送り」と伝えている。円高のくびきが外れ、空洞化にストップがかかるとすれば、日本経済にとって朗報だろう。
■ 輸出金額2位は鉄鋼
だが、かつての輸出競争力を日本の産業界は再び取り戻せるのだろうか。日本貿易会が毎春刊行する「日本貿易の現状」は日本の輸出入の姿をまとめた便利な小冊子だが、その2013年版が届き、ぱらぱらめくっていると「2012年の輸出金額2位は鉄鋼」という記述が目に留まった。首位は自動車、3位は「半導体などの電子部品」である。
2000年版の同じランキングでは、1位自動車、2位電子部品、3位事務用機器、4位科学光学機器、5位自動車部品、6位原動機と続き、鉄鋼はようやく7位に顔を出すにすぎない。鉄鋼の上位復活はおそらくいいニュースではない。電子部品から原動機まで機械系やハイテク系産業の輸出競争力が減退した結果、「古豪」の鉄が上位に返り咲いた可能性が大きいからだ。
貿易品を全部で9つに分ける大分類でみても、三大輸出産業といわれた輸送用機械(自動車や船)、電気機器(電子部品や通信機など)、一般機器(原動機や建設機械など)のいずれでも、リーマン・ショック以前の貿易の状況とはかなり様変わりした。自動車が踏ん張る輸送用機器でも2007年に20兆円を超えていた輸出額が12年には15兆円まで低下した。一般機械は07年は輸出16兆円、輸入6兆円でざっと10兆円の貿易黒字を稼いだが、12年はそれぞれ12兆8千億円と5兆円になり、黒字幅は縮んだ。
■ 輸出額が大きく減った電気機器
さらに厳しいのが電気機器で、輸出額は2007年の17兆円から12年には11兆4千億円まで減少した。輸入額も同じく9兆3千億円から8兆4千億円まで減ったが、輸入額が輸出額に急ピッチで迫っている。電気機器の一分野である「通信機」をみれば、12年の輸出4710億円に対し、輸入は2兆1487億円。スマートフォンなどを中国や台湾から大量に輸入する一方で、日本から輸出できるものがなくなった結果である。
長らく円高に苦しんだ日本の産業界。円安の福音を歓迎するのは当然のことだが、気がつけば輸出できる製品、技術、品目が以前に比べればずいぶんと貧弱になっていないだろうか。経営改革を進めて世界に通用する「強いプロダクト」を生み出すのが、経営者に課せられた使命である。
こうして見てくると、必ずしも、"円安/株高" の福音を歓迎して、それで "一件落着" とは行かないようである。
むしろ、<経営改革を進めて世界に通用する「強いプロダクト」を生み出すのが、経営者に課せられた使命である> という正攻法の課題が再浮上している点にこそ目を向けなければならないようである...... (2013.04.18)
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