"自閉症" という言葉は、日常会話的水準でも、内気な性格やひきこもりがちな精神状態、あるいはうつ的状態を漠然と指すかたちで使われたりしている。
だが、医学的意味の水準での "自閉症" とは、未解明の部分を多々残しているものの、<社会性や他者とのコミュニケーション能力に困難が生じる障害の一種。先天性の脳機能障害とされ......一般的には、発達障害の一種である......>( ウィキペディア/自閉症 )と見なされている。
二つの水準の混同は好ましくないことは言うまでもないが、そのためにも、医学的意味の水準での "自閉症" についての具体的メカニズムの解明が望まれている。
ところが、こうした現状の下で、"脳科学" 的研究アプローチによる興味ある "実証成果" が発表されている。
下記引用サイト記事 : 自閉症の新たな治療につながる可能性~世界初 オキシトシン点鼻剤による対人コミュニケーション障害の改善を実証~ がそれであり、"一種のホルモン" で構成された<点鼻スプレー製剤> を使って "症状が改善" されたという。
<自閉症スペクトラム障害 は、表情や声色を活用して相手の気持ちを汲み取ることが難しいといった対人コミュニケーションの障害を主な症状とし、一般人口の100人に1人以上で認められる代表的な発達障害です。この障害の原因は完全には解明されておらず、その治療法も確立されていません。結果として、知能の高い方でもこの障害のために社会生活に困難をきたしている現状>
<(東京大学のグループは)ホルモンの一種であるオキシトシン をスプレーによって鼻から吸入することで、自閉症スペクトラム障害において元来低下していた内側前頭前野 と呼ばれる脳の部位の活動が活性化され、それと共に対人コミュニケーションの障害が改善されることを世界で初めて示しました> とある。
従来は、"女性特有の機能" を果たすと見なされてきた<脳の下垂体後葉から分泌されるホルモン/オキシトシン> が、<他者と信頼関係を築きやすくする効果> を果たす、というのであるから驚きだと言うほかない......。
自閉症の新たな治療につながる可能性
~ 世界初 オキシトシン点鼻剤による対人コミュニケーション障害の改善を実証 ~/東京大学 医学部 附属病院/科学技術振興機構(JST)/2013.12.19
自閉症スペクトラム障害 注1)は、表情や声色を活用して相手の気持ちを汲み取ることが難しいといった対人コミュニケーションの障害を主な症状とし、一般人口の100人に1人以上で認められる代表的な発達障害です。この障害の原因は完全には解明されておらず、その治療法も確立されていません。結果として、知能の高い方でもこの障害のために社会生活に困難をきたしている現状にあります。
東京大学 大学院医学系研究科 精神医学分野 准教授 山末 英典は、同研究科 統合生理学分野 特任助教(当時) 渡部 喬光らと共同で、ホルモンの一種であるオキシトシン 注2)をスプレーによって鼻から吸入することで、自閉症スペクトラム障害において元来低下していた内側前頭前野 注3)と呼ばれる脳の部位の活動が活性化され、それと共に対人コミュニケーションの障害が改善されることを世界で初めて示しました。
今後はこの研究成果をもとに、オキシトシンの点鼻スプレー製剤を活用して、未確立だった自閉症スペクトラム障害における対人コミュニケーションの障害の治療法開発に取り組んでいきます。これらの成果は、日本時間:12月19日午前6時にJAMA Psychiatry(米国医師会雑誌(精神医学))にて発表されます。本研究は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)「精神・神経疾患の分子病態理解に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出」研究領域(研究総括:樋口 輝彦)における研究課題「社会行動関連分子機構の解明に基づく自閉症の根本的治療法創出」(研究代表者:加藤 進昌)および文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム」の一環として行われました。 ......
注1) 自閉症スペクトラム障害
1)対人相互作用の障害 2)言語的コミュニケーションの障害 3)常同的・反復的行動様式という3つの中核症状全てを有する自閉症から、1)と3)だけを有するアスペルガー障害、1)だけを有する特定不能の広汎性発達障害までを含む概念です。自閉症的な特性は、重度の知的障害を伴った自閉症から、知的機能の高い自閉症を経由し、対人関係上で、いわゆる変わり者と言われるような正常範囲の人まで続くスペクトラムを形成するという考えにもとづいています。
注2) オキシトシン
脳の下垂体後葉から分泌されるホルモンで、従来は子宮平滑筋収縮作用を介した分娩促進や乳腺の筋線維を収縮させる作用を介した乳汁分泌促進作用が知られていました。しかし一方で男女を問わず脳内にも多くのオキシトシン受容体が分布していることが知られ、脳への未知の作用についても関心が持たれていました。そうした中、健康な大学生などを対象とした研究において、他者と信頼関係を築きやすくする効果などが報告されて注目を集めていました。注3) 内側前頭前野
情報を統合して行動を調節するといった機能を担っているとされる前頭前野の内側面に位置しています。他者との交流・自己・意識といった様々な高次精神機能に関与することが知られていますが、特に本研究でオキシトシンによる活動の変化を認めた場所は、自分の感情や体験に照らし合わせることで他者の感情や考えを理解したりする働きに関わる場所と(腹側内側前頭前野)、他者の考えを論理的・客観的に推論する機能に関わる場所(背側内側前頭前野)との両者を含んでいます。
......( ※引用者注 ―― 文意を損なわないよう留意して割愛しています。)
"自閉症" の特性とされる "対人コミュニケーション障害" という現象が、脳の "特定部位"(内側前頭前野)の機能低下によって引き起こされていて、さらにこの "特定部位" が、"女性特有機能" と関連した "ホルモン"(オキシトシン)によって "活性化" される! という実証成果は、今後、さまざまな分野に波紋を投げかけるのではなかろうか...... (2013.12.21)
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