"記憶力(の向上)" というテーマは、今や、学生諸君に関係したものというよりも、国民病の様相を呈する "認知症" にとっての重要課題だと言えなくもない。
ところが、この"記憶力(の向上)" というテーマ ―― 記憶の形成、記憶の再生 ―― は、さまざまな研究がある割にはその解明が難航しているようにも見える。
ちなみに、脳内での "記憶(長期記憶)" のメカニズムにあっては、脳内の "海馬" という部位が重要な役割を果たしているようだ。この点を、先ずは前提的に意識しておきたい。
◆ 参照 1.
○ <「記憶の形成」とは、神経回路の新たなつながりが生まれることを意味しているのだ。多くの記憶情報が、共通の神経回路を利用しながら蓄積される。それまでつながりがなかった神経回路に、活発な伝達が形成されることが「記憶の形成」である。......
記憶の形成と定着は、情報が海馬を通過することによって生まれるが、海馬の内部で記憶の蓄積が行われているわけではない。海馬に届けられた情報は、数分間から一ヶ月前後にわたって海馬内に留まると考えられているが、記憶情報の蓄積は、大脳皮質(特に側頭葉)で行われる。また、記憶を確かなものとして定着させるために、睡眠が重要な役割を果たしていると言われている。睡眠中に、新たな神経回路がしっかりと確立すると考えられているのだ。> (伊古田俊夫 著『脳からみた認知症』2012.10.20 講談社ブルーバックス)
さて、今回注目する記事は、どうもこの "海馬" の働きに関係しているようであり、勇み足的に言えば "認知症" の解明にも関連していくかに思われるのだ......。 ただし、読み方次第では、単に "記憶力向上のハウツー" として活かすことも可であろう。
下記引用サイト記事 : カフェインは学習後に記憶力向上と米研究/【共同通信】/2014.03.25 - 10:28 は、"記憶力(の向上)" というテーマに対して、"カフェイン" の効果という観点から実証的に迫っている研究成果だ。
<コーヒーやお茶などに含まれるカフェインは、眠気を覚ます作用だけでなく、学習後に摂取すると記憶力を高める働きもありそうだとの研究を、米ジョンズ・ホプキンズ大のチームがまとめた/ 普段コーヒーをあまり飲まない160人(平均年齢20歳)が対象。無作為に2群に分け、2日がかりの実験を実施/ 1日目は、さまざまな絵を見て簡単な問いに答える課題を与えた後、200ミリグラムのカフェインか偽薬のいずれかが入ったカプセルを飲んでもらった。2日目は、前日と同じ絵のほか、よく似ているが細部が異なる絵や全く違う絵を交ぜて見せ、「前日と同じ」「前日と似ている」「初めて見る」の三つに分けてもらうテストをした/ その結果、前日と同じ絵、初めて見る絵の正答率はカフェイン群も偽薬群も差がなかったが、似ているが細部が異なる紛らわしい絵を正しく区別できたのは、カフェイン群の方が多かった。記憶がより正確だったことになる。/ こうした効果は、カフェインを100ミリグラムに減らすと見られなかったほか、2日目のテスト前にカフェインを与えた場合にも確認できなかった/ チームはこの結果を、覚えたいものを見た後にカフェインを適量摂取すれば記憶の固定に有効な可能性がある、と解釈している。今後はカフェインがどのような仕組みで記憶力に作用するのかを解明する研究が必要だとしている> とある。
なお、"同研究" を報じる別の記事では、以下のような重要な指摘が見受けられた。
◆ 参照 2.
○ <ヤッサ博士(米ジョンズ・ホプキンズ大)は、今回の実験から、カフェインによって長期記憶が強化されると結論づけており、また、イメージ画のわずかな違いを区別できたことから、カフェインはパターン分離をつかさどる海馬に影響を与えているのではないかと推察しています> (カフェインに記憶力をアップさせる効果があることが判明/Gigazine/2014.01.16)
◆ 参照 3.
○ <海馬は、過去の行動を思い出す能力を使って、例えば、いつもと違う場所に鍵を置いた場合のような、よく似ているが異なる出来事どうしの差異を検出している。「パターン分離」と呼ばれる過程だ。さらに海馬は、これとは逆の「パターン補完」と呼ばれる機能も果たしている。これは、例えば、昔の写真を見ることで海馬がその写真が撮影された当時の記憶を呼び起こす、というように、切り離された情報の断片をもとに保存された記憶が復元される過程をいう。......研究チームは現在、パターン分離とパターン補完に大きく寄与する、これら2種類の顆粒細胞集団を詳細に調べることを計画しており、仲柴研究員は、そうした研究の結果が最終的には、疾患、脳障害、加齢に伴う認知障害の神経学的起源の解明に重要な意味を持つようになると期待している。> ( RIKEN RESEARCH )
脳の代謝を高め、脳活動を刺激するとされる "カフェインの覚醒作用" については、日常生活の経験で実感されてきたはずだ。
だが、"偽薬(プラシーボ)" による結果を並列するという "実験の定石" を踏まえて導き出した "実証的成果" は大いに注目に値する。
と同時に、"海馬" の働きの一つである「パターン分離とパターン補完」という機能の重要性を、さらに示唆する点が興味深い。
カフェインは学習後に記憶力向上と米研究/【共同通信】/2014.03.25 - 10:28
コーヒーやお茶などに含まれるカフェインは、眠気を覚ます作用だけでなく、学習後に摂取すると記憶力を高める働きもありそうだとの研究を、米ジョンズ・ホプキンズ大のチームがまとめた。
普段コーヒーをあまり飲まない160人(平均年齢20歳)が対象。無作為に2群に分け、2日がかりの実験を実施した。
1日目は、さまざまな絵を見て簡単な問いに答える課題を与えた後、200ミリグラムのカフェインか偽薬のいずれかが入ったカプセルを飲んでもらった。2日目は、前日と同じ絵のほか、よく似ているが細部が異なる絵や全く違う絵を交ぜて見せ、「前日と同じ」「前日と似ている」「初めて見る」の三つに分けてもらうテストをした。その結果、前日と同じ絵、初めて見る絵の正答率はカフェイン群も偽薬群も差がなかったが、似ているが細部が異なる紛らわしい絵を正しく区別できたのは、カフェイン群の方が多かった。記憶がより正確だったことになる。
こうした効果は、カフェインを100ミリグラムに減らすと見られなかったほか、2日目のテスト前にカフェインを与えた場合にも確認できなかった。チームはこの結果を、覚えたいものを見た後にカフェインを適量摂取すれば記憶の固定に有効な可能性がある、と解釈している。今後はカフェインがどのような仕組みで記憶力に作用するのかを解明する研究が必要だとしている。
日本の食品安全委員会の資料によると、200ミリグラムのカフェインを取るには、レギュラーコーヒーだと150ccのカップで2杯余り、煎茶だと同6杯半程度になる。
◆ 同内容の別記事参照 カフェインに記憶力をアップさせる効果があることが判明/Gigazine/2014.01.16
やはり、上記記事の実験で "気になる点" は、<2日目のテスト前にカフェインを与えた場合にも確認できなかった> という点であろう。
つまり、"カフェイン" の効果は、"学習後の脳" に対して発揮される、という点!
この点は、つい先日、当誌で注目した<記憶の痕跡> と深く関係しているのではないかと洞察されるのだが......。
◆ 参照 4.
○ <学習後のマウスの脳スライス標本を調べることで、記憶の痕跡がニューロン間の信号伝達の増強により脳回路に保存されていることを発見> ("記憶の脳回路痕跡" マウスでついに発見!"デカルト以来350年の謎"に実証的な決着が!/当誌 2014.03.22)
それにしても、"脳内での現象" は "実に物理的!" である という印象を禁じえない...... (2014.03.27)
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