これまで、"がんの発症" には "遺伝子異常" が深く関わっているとされてきた。
だが、"遺伝子異常" がない<「エピゲノム」という調整機能が変化> することによって生じる "がん" もあることは、かつて、以下のように注目した。
◆ 参照
(1) <遺伝子の異常が原因にならないがんがあることを京都大iPS細胞研究所などのチームが人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った研究で明らかにし、13日付の米科学誌セル電子版に発表/ 今回形成されたがん細胞は遺伝子異常がなく、遺伝子を制御する「エピゲノム」という調整機能が変化/ 形成の仕組みは不明だが、エピゲノムをコントロールすることで、新しいタイプの治療法開発につながる> ( 遺伝子異常が原因にならないがんがあること!京都大iPS細胞を使った研究で明らかに!/当誌 2014.02.16 )
◆ 参照 「エピゲノム」について
(2) 下記引用サイト記事 : なぜ今、エピゲノムなんですか? エピゲノムって、なんですか?/国際ヒトゲノムコンソーシアム 日本チーム
今回注目する記事は、上記の◆ 参照 (1) 記事の続編ということになる。
下記引用サイト記事 : 遺伝子変異によらない発がんの仕組みを、iPS細胞を使って解明!/nature japan jobs/2014.04.10 は、"遺伝子変異によらない発がんの仕組み=エピゲノム異常" に関し、京都大学iPS細胞研究所 山田泰広 教授 がインタビューに応じて語るかたちをとって報じている。
<「がんは複数の遺伝子が段階的に変異して生じる」とされるが、最近になって、エピゲノム異常もまた、がん化と深く関連することが分かってきている。京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の山田泰広教授らは、マウスの生体内で細胞を中途半端に初期化するとエピゲノム異常を引き起こし、遺伝子変異がなくても細胞をがん化させ得ることを示した/ 塩基配列によらない遺伝子制御の仕組みは「エピゲノム」と呼ばれる。近年、がん細胞のエピゲノム状態が網羅的に解析されるようになり、ほぼ全てのがん細胞でエピゲノム異常が認められることが分かってきた/ ただし、エピゲノム異常がどのように引き起こされ、発がんにどう関与しているのかは、よく分かっていません/ これまでの研究では、がん化の鍵はあくまでも遺伝子変異の蓄積で、エピゲノム異常はがん化をサポートする程度とされてきましたが、私たちは今回、遺伝子配列異常に依存しない発がんを初めて実証しました/ 腎芽腫などの一部のがんで、エピゲノム異常が最も重要な原因となり得ることも示せました> とあり、
<現在のがん治療は、がん細胞を取り除く、消滅させる、分化を促進させるといったもので、がん化の原因(多くの場合は遺伝子の傷)を矯正するような根本治療になっていない。今回の成果は、「特定のがんでは、エピゲノム異常を正すことが根本的ながんの治療となり得る」ということを示し、エピドラッグとでもいうべき新薬の開発の重要性を示唆するとともに、iPS細胞が再生医療以外の疾患研究に新たな知見をもたらすことも示した> とある。
【 引用記事 1 】
遺伝子変異によらない発がんの仕組みを、iPS細胞を使って解明!/nature japan jobs/2014.04.10
山田泰広 京都大学iPS細胞研究所 初期化機構研究部門 教授
「がんは複数の遺伝子が段階的に変異して生じる」とされるが、最近になって、エピゲノム異常もまた、がん化と深く関連することが分かってきている。京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の山田泰広教授らは、マウスの生体内で細胞を中途半端に初期化するとエピゲノム異常を引き起こし、遺伝子変異がなくても細胞をがん化させ得ることを示した。
「染色体のヒストン修飾」や「DNAのメチル化」といったように、ゲノムには部分的な化学修飾が施される。化学修飾された部位では遺伝子発現が抑制されたり、逆に促進されたりしており、塩基配列によらない遺伝子制御の仕組みは「エピゲノム」と呼ばれる。近年、がん細胞のエピゲノム状態が網羅的に解析されるようになり、ほぼ全てのがん細胞でエピゲノム異常が認められることが分かってきた。
「ただし、エピゲノム異常がどのように引き起こされ、発がんにどう関与しているのかは、よく分かっていません」。そう話す山田教授は今回、特定の薬剤(ドキシサイクリン;Dox)を作用させると、「細胞を初期化する4つの因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)」を発現するマウスを開発し、エピゲノムとがん化の関連について分子レベルの解析を行った。
4因子は、同研究所の山中伸弥教授がiPS細胞を作成する際に用いたもので「山中因子」とも呼ばれるもの。......
続いて、Doxを一時的に作用させ、細胞の不十分な初期化を引き起こしてみた。細胞内では、初期化に伴って「染色体のヒストン修飾」や「DNAのメチル化」も分化前の状態に戻されるはずだが、不十分な初期化はこうしたエピゲノム状態を異常にすると考えたのである。「結果は予想通りで、DNAのメチル化パターンは大きく変化していました。そして、ほとんどのマウスでがん(悪性腫瘍)ができ、腫瘍発生後2~3週で死に至りました。がんの特徴である周囲組織への浸潤や、転移も見られました」と山田教授。
...... 山田教授は「これまでの研究では、がん化の鍵はあくまでも遺伝子変異の蓄積で、エピゲノム異常はがん化をサポートする程度とされてきましたが、私たちは今回、遺伝子配列異常に依存しない発がんを初めて実証しました」とコメントし、「腎芽腫などの一部のがんで、エピゲノム異常が最も重要な原因となり得ることも示せました」と続ける。
現在のがん治療は、がん細胞を取り除く、消滅させる、分化を促進させるといったもので、がん化の原因(多くの場合は遺伝子の傷)を矯正するような根本治療になっていない。今回の成果は、「特定のがんでは、エピゲノム異常を正すことが根本的ながんの治療となり得る」ということを示し、エピドラッグとでもいうべき新薬の開発の重要性を示唆するとともに、iPS細胞が再生医療以外の疾患研究に新たな知見をもたらすことも示した。
病理医を務めつつ大腸がんの研究を続けてきた山田教授は、4年前にCiRAに赴任したばかり。「全てをゼロから立ち上げ、研究の意義を理解してもらうことにも苦労しましたが、iPS細胞研究とがん研究をつなげることができ、嬉しく思います。次はマウスでの知見をヒトの細胞で検証し、将来は、がん細胞から非がん細胞へと変換させる技術を開発したい」と話す。夢の実現に向けて、腰を据えた研究が続けられる。
西村尚子
サイエンスライター( ※引用者注 ―― 文意を損なわないよう留意して割愛しています。) 【 引用記事 2 】なぜ今、エピゲノムなんですか? エピゲノムって、なんですか?/国際ヒトゲノムコンソーシアム 日本チーム
Q : 「ゲノム」とは生きものがもつDNAの塩基配列の情報全てと聞きました。「エピゲノム」は耳慣れない言葉ですが、ゲノムとエピゲノムは何がちがうのですか?
A : DNAの塩基配列を変えることなく、遺伝子のはたらきを決めるしくみをエピジェネティクスとよび、その情報の集まりがエピゲノムです。
こんな風にイメージしてください。ゲノムをA,C,G,Tの4種類の音符が並んだ音の羅列だとすると、音に強弱をつけたりテンポを変えたりして曲を奏でるしくみが、エピジェネティクスです。私たちの身体をつくる細胞には、基本的にすべて同じゲノムが入っているのに、いろいろな種類の細胞になれています。これは、同じ音の羅列(DNA の塩基配列)をつかって、ちがう曲(皮膚の細胞や腸の細胞などおよそ200種類の細胞)を奏でるしくみ、つまりエピジェネティクスのおかげなのです。
( ※引用者注 ―― 文意を損なわないよう留意して割愛しています。)
"遺伝子変異によらない発がんの仕組み=エピゲノム異常" という現象の実証は、<特定のがんでは、エピゲノム異常を正すことが根本的ながんの治療となり得る> という新たな "根本的がん治療法" を示唆することにもなり、大きな注目と期待とが寄せられているわけだ...... (2014.04.29)
コメントする