"潜伏する病気" に対する "早期発見/早期治療" という原則は、その病気に対する "治療法" がほぼ完成している場合には異論のないところであろう。
これに対して、現状での "治療法" が、残念ながら "根治" には届かず "症状悪化の遅延/抑止" という段階だとするならば、患者側の心境は複雑とならざるを得ない......。
"アルツハイマー病" の "予見" に関する現時点での、悩ましく複雑な現状についてなのである。
◆ 参照 アルツハイマー病予見に関する当誌記事
○ アルツハイマー病原因物質"βアミロイド"検出の薬剤 国内向けに開発!(GEヘルスケア)/当誌 2014.04.10
下記引用サイト記事 : アルツハイマーの予見法、実用化目前か/毎日新聞/2014.04.09 は、"こうした現状" を、"患者側の複雑な心境" をも踏まえつつ "リアルな全体像" として照らし出している。
確かに、<最近では、早期発見や早期診断で得られた数々の知見に基づいて、かなり早い段階から病気の進行を食い止める新たな治療法の開発が大きく前進しつつあるという。「治療の開始時期が早いほどその効果は大きく、おそらく治療後もかなり良好な経過をたどることになるだろう」>(下記引用サイト記事) とする展望が開かれているようではある。 まさに、"早期発見/早期治療" という原則が支持強調される側面である。
だが、もう一方で、<だがその一方で治療法の選択肢が限られているため、リスクを抱えた人は発症前検査に対して消極的になる傾向がある。医薬品、医療倫理、および保健政策に詳しいペンシルベニア大学医学大学院のジェイソン・カーラウィッシュ(Jason Karlawish)教授は、「自分のためになるからと検査を勧められても、私は断るだろう。いずれ発症するとわかっても、生きることへの不安が膨らむばかりだ」と語る。> という側面も看過できないようである。
<効果的な治療方法の開発には信頼できる検査方法の確立がポイントになる> ことは分かるし、そのために、"発症前" に遡った "潜伏状態の患者データ" の蓄積が必要なことも分かる。
しかし、"予見" と称する "予告される!アルツハイマー病" を、"恐怖感!" 無く受け容れられるような聖人(?)は決して多くはなさそうに思うが......。
アルツハイマーの予見法、実用化目前か/毎日新聞/2014.04.09
検査でアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)を予見できるとしたら、あなたはその検査を受けたいと思うだろうか。
現在、アルツハイマー病に関する新たな研究結果が続々と発表されている。いずれの研究グループも、いわゆる消耗性脳疾患の典型的な症状である記憶障害や認知障害を、発症の数年前に予見できる可能性を示唆している点が興味深い。
アルツハイマー病を発症する可能性を高める遺伝的なリスク因子は、既に特定されている。一方、専門家が注目しているのが、疾病の有無や状態を客観的に測定する際の指標となる物質、バイオマーカーだ。最新の研究では、脳に影響が出始めた後であれば、症状が顕著になる前にバイオマーカーを検出できる可能性が示されている。
アルツハイマー病協会で科学研究の責任者を務めるディーン・ハートレイ(Dean Hartley)氏によると、病の初期段階について理解が進み、その治療法が進歩する可能性を示唆している点で関係者の意見は一致しているという。
◆ ゆっくりと密かに進行するアルツハイマー症状
アルツハイマー病の進行は、症状がはっきりと現れる20年も前から既に始まっているとされる。この疾患の主な原因物質は2つある。1つはアミロイド・ベータ、もう1つは複雑にからみ合う構造を持ったタウタンパク。いずれもタンパク質の一種で、脳内に塊として、あるいは斑状に蓄積されて病気を進行させる。確定診断が下される頃には既に、脳の損傷は広範囲に及んでいるのが一般的だ。
だが最近では、早期発見や早期診断で得られた数々の知見に基づいて、かなり早い段階から病気の進行を食い止める新たな治療法の開発が大きく前進しつつあるという。「治療の開始時期が早いほどその効果は大きく、おそらく治療後もかなり良好な経過をたどることになるだろう」とハートレイ氏は語る。
ただし現在のところ、アルツハイマー病の治療法は選択肢が限られている。アメリカ食品医薬品局(FDA)によって認可されている治療薬はわずか5種類。いずれも症状を一時的に緩和させる効果しかなく、病気の根本原因に作用するものではない。
画期的な治療薬開発に至らない現状は、早期診断を促す上でも障害となっている。発症前検査が実用化すれば、アルツハイマー病研究の飛躍的進展が期待できる。だがその一方で治療法の選択肢が限られているため、リスクを抱えた人は発症前検査に対して消極的になる傾向がある。医薬品、医療倫理、および保健政策に詳しいペンシルベニア大学医学大学院のジェイソン・カーラウィッシュ(Jason Karlawish)教授は、「自分のためになるからと検査を勧められても、私は断るだろう。いずれ発症するとわかっても、生きることへの不安が膨らむばかりだ」と語る。ちなみに全世界での患者数は、およそ3500万人に上る。アメリカ人は約500万人を占め、その数は高齢化とともに増えて行くと予想される。
◆ 最も簡易な血液による発症前検査
最も簡易で、かつ体への負担が最も軽い発症前検査は、おそらく血液検査だろう。この検査方法は、ジョージタウン大学医学部長で神経学が専門のハワード・フェデロフ(Howard Federoff)教授を中心とする研究グループが開発を進めている。同グループでは、70歳以上の被験者525名を対象に毎年1回、血液サンプルを採取し、認知および記憶テストを実施した。
調査開始当初に何らかの認知障害が認められた被験者は46名。3年目になると、新たに28名の被験者に認知症状が現れた。研究グループが着目したのは、10種類の血中脂質の濃度だ。認知機能が正常な被験者に比べ、症状がみられる被験者は調査当初から既に血中脂質濃度が低いという事実が判明した。しかもその濃度によって、その後数年間に正常な認知機能を維持できた被験者と、アルツハイマー病の症状もしくは軽度の認知症状を発症した被験者を、90%以上の精度で識別できたという。
ただし、発症を予見する指標としてなぜ血中脂質がこれほど優れているのかについては、まだ十分に解明されていない。
◆ 髄液のPETスキャン
一方、その他2つの検査方法には少々手間がかかる。まず患者の髄液中に微量に含まれる異常な折りたたみ構造(ミスフォールディング)を持ったアミロイド・ベータを検出するという方法は、テキサス大学ヒューストン校のクラウディオ・ソト(Claudio Soto)氏が開発。アルツハイマー病以外の神経疾患患者からは、ミスフォールディングが検出されたケースはないという。
ただしソト氏によれば、髄液は注射針を使って脊椎から採取する必要があるため、検査を受ける人は痛みを感じることになるという。同氏は、より簡単に採取できる血液や尿に対してこの手法を適用できないか模索しているそうだ。
一方、患者の脳中に斑状に沈着したアミロイドベータ(アミロイドベータ斑)を、PETスキャン(陽電子放射断層撮影)で検出する方法もある。アメリカ、ノースカロライナ州のデューク大学で神経認知疾患プログラムの責任者を務める精神医学の専門家ムラリ・ドレイスワミー(Murali Doraiswamy)氏は、放射性色素Amyvidを用いたPETスキャンで、症状が見られない人でも、発症リスクが予測可能であると明らかにした。
ドレイスワミー氏は50歳以上の被験者152名を対象に、まず認知テストとPETスキャンを実施。その3年後に再び認知テストを実施した結果、PETスキャンで陽性だった被験者は認知機能の低下率が著しく、陰性だった被験者に比べて、認知症と診断される可能性が高かったという。
ただしこの方法では、リスクを完全に予見することはできないとドレイスワミー氏は言う。「PETスキャンが陽性だからといって、将来アルツハイマー病を発症するとは限らない」。
◆ 知るべきか、知らざるべきか
発症前検査が実用化された場合、検査を受けるかどうかは何を基準に判断すればよいだろうか。フェデロフ氏は、「カウンセリングをお勧めする」と話す。検査結果を受け入れる準備や、陽性と診断された場合に適切に対処する用意の有無が、重要な判断材料になるという。もちろん唯一の対処方法は病気の治療だが、金銭面や今後配慮すべき点について計画を立てることも必要となる。
一方、テキサス大学のソト氏は、効果的な治療方法の開発には信頼できる検査方法の確立がポイントになると話す。「効果的な治療方法は、信頼できる早期診断の開発にかかっている。脳のダメージが進んでから治療を始めても、効果はあまり期待できない」。
"アルツハイマー病の予見法" 研究開発に異議を申し立てるつもりは毛頭ない。
とにかく、"アミロイド・ベータ/タウタンパク" の脳内沈着を "根治" する治療法の開発を前進させること以外に手は無さそうな気がするのだが...... (2014.04.11)
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