"顔" のイメージは自覚できるのに、その人の "名前" を失念たり、なかなか浮かび上がってこないという経験は、高齢者ならずともあり得ること。
また、不思議といえば不思議なのは、よく知った人の "顔" というものは、どんな群衆の中からも "識別" 可能だという点ではなかろうか。
ちなみに、他の動物たちはこの "識別" を "嗅覚" で果たしている( ex. ペンギンの親子たちは何千頭もの群れの中で "嗅覚" によって "識別" するそうだ )といわれるが、ヒトの場合、長い人類史の過程で "顔の識別能力" を脳内に培ってきたものと思われる。
この、ヒトの "顔の識別能力" が、"右脳" の働きのひとつとして説明されるのを聞いたこともある。とにかく、ヒトの知覚能力の中でも、かなり特殊でかつ奥行きが深いと想定せざるを得ないのが、"この能力" であろう。
今回注目する下記引用サイト記事 : 東工大、脳が他者の顔を見る前から活動していることを脳波から確認/マイナビニュース/2014.06.02 は、ヒトの "顔の識別能力" には、さらに "不思議なメカニズム" のあることを、"脳波の解析" から照らし出した、そんな研究成果を報じている。
要するに、<脳は他者の顔を見る前から活動している> という、まるで "フライング(?)" 的な機能を果たしている、というのである。
<東京工業大学(東工大)は5月26日、ヒトが何かを予測する場合、顔の出現を予測する方が、言葉や記号などの予測よりも素早いことを発見し、顔に関する情報処理は実際に顔を見るよりも前から始まっていることを実証したと発表/ ヒトは行動を迅速かつ的確に行うため、「予期」「予測」という能力を備えている このメカニズムを詳細に調べるため、研究チームは今回、顔、言語、記号という視覚刺激を用いて 予測に関わる脳活動の違いと「刺激先行陰性電位(SPN)」の「右半球優位性」に与える影響の検討を実施/ 予測の前に出現する脳波がSPNで、課題に関連した知覚刺激が与えられた時に、その刺激が出る前の数秒間に出現する「事象関連電位」(アルファ波やベータ波などの脳波に重なって生じている脳波で、一定の時間幅を設定し加算平均法を用いて抽出する脳波)と呼ばれる脳波/ このSPNは右脳の活動が高い、つまり右半球優位性という特徴を持つ/ 顔の場合(Early SPN・F5・青線)は、1秒以上も前から脳活動が大きくなっていることが確認された......この結果は、顔の情報処理がほかの情報処理よりも早く、脳は実際に顔を見る前から活動を開始していることを示しているという。 Early SPNを頭皮上のマップとして描くことにより、画像2のように「後頭顔領域(Occipital Face Area)」の活動をとらえることができた> とある。 また、
<今回の実験により、SPNの右半球優位性について、以下の3要因により半球優位性が左右されることが判明/ 1つ目は、「めずらしいもの」を見つける注意システム「Ventral Attention Network(VAN)」の関与/ 2つ目は、動機づけの程度と左半球の活動/ 3つ目は、刺激とSPNの分布/ まとめると、今回の実験により、右脳の働きは、顔・言葉・記号などの予測される情報の種類、めずらしいものを検出する注意システム、動機づけ(やる気・報酬)、の3要素のそれぞれの程度によって影響されることがわかり、右脳と左脳の相対的な働きはこれらの3つの要素によって変化することを明らかにした形だ> とある。
東工大、脳が他者の顔を見る前から活動していることを脳波から確認/マイナビニュース/2014.06.02
東京工業大学(東工大)は5月26日、ヒトが何かを予測する場合、顔の出現を予測する方が、言葉や記号などの予測よりも素早いことを発見し、顔に関する情報処理は実際に顔を見るよりも前から始まっていることを実証したと発表した。
成果は、東工大 社会理工学研究科の大上淑美助教、同・小谷泰則助教らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、国際学会誌「Psychophysiology」誌に掲載される予定だ。
ヒトは行動を迅速かつ的確に行うため、「予期」「予測」という能力を備えているのは誰もが知るところだ。このメカニズムを詳細に調べるため、研究チームは今回、顔、言語、記号という視覚刺激を用いて3種類の条件を設定し、予測に関わる脳活動の違いと「刺激先行陰性電位(SPN)」の「右半球優位性」に与える影響の検討を実施した。
予測の前に出現する脳波がSPNで、課題に関連した知覚刺激が与えられた時に、その刺激が出る前の数秒間に出現する「事象関連電位」(アルファ波やベータ波などの脳波に重なって生じている脳波で、一定の時間幅を設定し加算平均法を用いて抽出する脳波)と呼ばれる脳波である。
このSPNは右脳の活動が高い、つまり右半球優位性という特徴を持つ。ただし、これまでに常に右半球優位性が確認されているわけではない。......
画像1のグラフは、SPNに対し、主成分分析(PCA)が行われた結果だが、5つの成分の内2つがSPNに深く関与する成分で、「Early SPN(前期成分・F5・青線)」と「Late SPN(後期成分・F3・赤線)」の2つの成分に分かれることが判明。さらに分析を進めると、言葉や記号の出現に備えた場合の脳活動(Late SPN・F3・赤線)が、フィードバックの直前で大きくなるのに対し、顔の場合(Early SPN・F5・青線)は、1秒以上も前から脳活動が大きくなっていることが確認されたのである。
この結果は、顔の情報処理がほかの情報処理よりも早く、脳は実際に顔を見る前から活動を開始していることを示しているという。Early SPNを頭皮上のマップとして描くことにより、画像2のように「後頭顔領域(Occipital Face Area)」の活動をとらえることができたとした。
そして今回の実験により、SPNの右半球優位性について、以下の3要因により半球優位性が左右されることが判明したという。
1つ目は、「めずらしいもの」を見つける注意システム「Ventral Attention Network(VAN)」の関与だ。VANは、何らかの顕著な刺激を検出するネットワークであり、右脳が中心的な働きをする(右半球優位性)という特徴を持つ。この特定の脳部位のネットワークが、SPNの右半球優位性に反映されていると考えられている。
2つ目は、動機づけの程度と左半球の活動についてだ。動機づけが高い時には左前頭部の活動が増す(右脳優位ではなくなる)ことは前述した通りだが、今回の研究では、言語と顔条件での動機づけの程度が記号条件より有意に高く、左半球の振幅が増加し、右半球優位性が消失していた。この結果は、「顔」と「言葉」には、相手の「動機づけ(やる気)」を操作する機能があることを示しているという。
3つ目は、刺激とSPNの分布についてだ。提示されるさまざまな刺激(顔・言葉・記号)によりSPNの分布は異なるが、今回の研究では、言語条件時に左半球の頭頂と側頭エリアの振幅が増加傾向にあったとする。......このことは、右脳・左脳どちらもそれぞれの役割に応じて刺激が入力される前からすでにダイナミックに活動を変化させていることを意味しているという。
まとめると、今回の実験により、右脳の働きは、顔・言葉・記号などの予測される情報の種類、めずらしいものを検出する注意システム、動機づけ(やる気・報酬)、の3要素のそれぞれの程度によって影響されることがわかり、右脳と左脳の相対的な働きはこれらの3つの要素によって変化することを明らかにした形だ。
今後、研究チームは視覚刺激以外の知覚刺激、例えば聴覚刺激を用いて、異なる種類の聴覚刺激の予測において脳活動に違いがあるのかどうかを検討し、ヒトが予測する際の脳活動の基礎研究としてのデータを積み上げていく方針とした。
( ※引用者注 ―― 文意を損なわないよう留意して割愛しています。)
上記記事のような<ヒトが予測する際の脳活動の基礎研究> は、われわれの "予測行動" 自体のあり方の研究に貢献するとともに、コンピュータにおける "予測システム" においても活用されることであろう。
ただ、その前に、ヒトによる "顔の識別能力" の "幅と奥行き" に関する更なる研究の進展が待ち望まれる...... (2014.06.05)
コメントする