"痛み" には、身体に生じた異変に関する "アラーム" というような相応の意義があり、その点で我慢することにも意味がありそうだ。 ただ、"がんの痛み" とその "緩和" は別であり、"緩和ケア" の考え方にもつながる重要な認識だとされる。
◆ 参照 当誌過去の "緩和ケア" 関連記事
(1) <がんに関しては、痛みを我慢する医学的なメリットはまったくありません。逆に、痛みによって「動かない」「食べない」「眠れない」状態が続けば体力の低下を招き、この先に受けるべき治療の選択肢を狭めてしまうことにもなりかねません。......がんの痛みは積極的に取るべきです......> ( がんの痛み、我慢しないで!がんでは、痛みを我慢する医学的メリットはまったく無し!/当誌 2015.02.11 )
(2) <医療用麻薬の充実で、がんの痛みはほぼ確実に消せる時代になった。ところが日本では、医療技術が向上したにもかかわらず、がん性疼痛を取り除く治療が十分におこなわれていないという現実があります。 WHOのまとめによると、日本の場合、本来必要な医療用麻薬の使用量に対して実際の使用量はわずか15.6%と、先進国では最低水準です。裏を返せば、日本のがん患者の多くは、適切な治療を受けずに痛みを我慢している──ということを示しているのです。> ( がんの痛み取り除く治療「日本は先進国では最低水準」!必要以上に麻薬を怖がる風潮?!/当誌 2015.02.10 )
今回注目する下記引用サイト記事 : 疼痛緩和は「正義」だ 高野聡 / MMJ編集長/毎日新聞/2015.08.12 は、 <がんのような深刻な病気では痛みがなくなるだけで、患者の生活はずっと改善される> という<緩和ケア> の観点から、<日本では、がん患者の疼痛(とうつう)(痛み)緩和が遅れている> と指摘し、その理由として <医師、患者双方に「中毒を起こす」「次第に効きめがなくなる」という誤解が根強い> ことや、<患者の痛みに対する医師の認識不足> が挙げられ、<「除痛(じょつう)率」の向上>、そして <痛みは万人共通だ。痛みに対するケアは、思想や信条を超えた「正義」ではないか> と解説している。
< 人生で2度目のぎっくり腰を経験した。突然襲った激痛が消えるまで数日間、床に伏せながらつくづく思った。「痛いのは嫌だ」 痛みは実は人の体にとって重要な感覚だ。糖尿病患者が病気に気付いたときは既に進行していたというケースは、神経障害の痛みなど初期の自覚症状が乏しいために起きる。一方、がんのような深刻な病気では痛みがなくなるだけで、患者の生活はずっと改善されるだろう。 日本では、がん患者の疼痛(とうつう)(痛み)緩和が遅れている。世界保健機関(WHO)はモルヒネなどの医療用麻薬の使用を推奨するが、日本の消費量は米国の水準の20分の1と低い。医師、患者双方に「中毒を起こす」「次第に効きめがなくなる」という誤解が根強いためだ。青森県立中央病院の的場元弘・緩和医療科部長は「医療用麻薬で中毒は起きない。主な副作用は吐き気や便秘。併用する薬によっては酒酔いに似たせん妄も起こるが、適切な処置で対応できる」と説明する。 さらに患者の痛みに対する医師の認識不足もある。2012年に米国で発表された「痛みに関する『痛い』真実」と題する論文で、患者の痛みに対して何らかの治療を行った医師は15%しかいないことが明らかになった。的場さんらの研究でも、医師、看護師から「痛みはありませんか」と聞かれた患者の多くは「懸命に治療してくれている先生に申し訳ない」と気遣い、本心を十分には伝えていなかった。同病院では試行錯誤の末「生活上痛みで困っていることはありませんか」という問いが最も患者が本心を打ち明けやすいと気付き、それ以来、問いを実践して「除痛(じょつう)率」の向上を目指している。 07年に始まったがん対策推進基本計画に「初期段階からの緩和医療の実施」が盛り込まれ、緩和ケアの研修を修了した医師は約4万5000人に及ぶ。政策的な成果は上がっているが、医療用麻薬の消費量は09年以降頭打ち状態だ。「講義で学んでも、臨床現場で疼痛緩和を経験しなければ、意識は変わらない」というのが的場さんの実感だ。 痛みは万人共通だ。痛みに対するケアは、思想や信条を超えた「正義」ではないかと思う。(毎日新聞2014年5月15日掲載)> とある。
疼痛緩和は「正義」だ 高野聡 / MMJ編集長/毎日新聞/2015.08.12
人生で2度目のぎっくり腰を経験した。突然襲った激痛が消えるまで数日間、床に伏せながらつくづく思った。「痛いのは嫌だ」
痛みは実は人の体にとって重要な感覚だ。糖尿病患者が病気に気付いたときは既に進行していたというケースは、神経障害の痛みなど初期の自覚症状が乏しいために起きる。一方、がんのような深刻な病気では痛みがなくなるだけで、患者の生活はずっと改善されるだろう。
日本では、がん患者の疼痛(とうつう)(痛み)緩和が遅れている。世界保健機関(WHO)はモルヒネなどの医療用麻薬の使用を推奨するが、日本の消費量は米国の水準の20分の1と低い。医師、患者双方に「中毒を起こす」「次第に効きめがなくなる」という誤解が根強いためだ。青森県立中央病院の的場元弘・緩和医療科部長は「医療用麻薬で中毒は起きない。主な副作用は吐き気や便秘。併用する薬によっては酒酔いに似たせん妄も起こるが、適切な処置で対応できる」と説明する。
さらに患者の痛みに対する医師の認識不足もある。2012年に米国で発表された「痛みに関する『痛い』真実」と題する論文で、患者の痛みに対して何らかの治療を行った医師は15%しかいないことが明らかになった。的場さんらの研究でも、医師、看護師から「痛みはありませんか」と聞かれた患者の多くは「懸命に治療してくれている先生に申し訳ない」と気遣い、本心を十分には伝えていなかった。同病院では試行錯誤の末「生活上痛みで困っていることはありませんか」という問いが最も患者が本心を打ち明けやすいと気付き、それ以来、問いを実践して「除痛(じょつう)率」の向上を目指している。
07年に始まったがん対策推進基本計画に「初期段階からの緩和医療の実施」が盛り込まれ、緩和ケアの研修を修了した医師は約4万5000人に及ぶ。政策的な成果は上がっているが、医療用麻薬の消費量は09年以降頭打ち状態だ。「講義で学んでも、臨床現場で疼痛緩和を経験しなければ、意識は変わらない」というのが的場さんの実感だ。
痛みは万人共通だ。痛みに対するケアは、思想や信条を超えた「正義」ではないかと思う。
(毎日新聞2014年5月15日掲載)
"がんの痛み" を我慢することに医学的に積極的な意味があることを実証できないのなら、<日本のがん患者の多くは、適切な治療を受けずに痛みを我慢している> ということになろう。
この理不尽さに対して、上記記事の筆者は、<"疼痛緩和ケア"は「正義」だ!> と語気を強めているものと思われる...... (2015.08.14)
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