手術中における "がん組織の識別" は、"取り残し=再発" を回避するためにも重要なアクションとなる。 が、"病理医" と呼ばれる専門医でも時間を要する検査を、手術中に全うすることは至難の業だと言われる。 ここから、 "がん組織のスピーディな病理的識別方法" が重要な課題となって浮上するわけだ。
◆ 参照 当誌過去の "がん 識別" 関連記事
(1) <がんがどこまで広がっているのかを手術中に素早く検査する技術の成果が相次いでいる。キヤノンと浜松医科大学は特殊な電磁波を使って脳腫瘍を見分ける技術を開発した。東京大学や弘前大学はそれぞれ、がん細胞だけを光らせる物質を作った。簡単に切除範囲を把握できるようになり、再手術など患者の負担を減らせる。病理医と呼ぶ専門医の不足を補う効果が期待できる......> ( "がん細胞の広がり" 手術中にすぐ判定!簡単に切除範囲を把握!検査技術成果相次ぐ!/当誌 2015.03.18 )
(2) <乳がん手術で取り出した組織に、がん細胞を光らせる試薬を吹き付ける方法で、1ミリ以下の小さながんを検出できることを確認したと、九州大病院別府病院(大分県)の三森功士教授、東京大の浦野泰照教授ら。 手術中に、がんの取り残しの有無や切り取る範囲を広げるべきかを判断でき、再発の危険性が低くなると期待できるという。蛍光色素メーカーの五稜化薬(札幌市)と共同で、市販に向けた試験をしたいとしている。......> ( 手術中に"1ミリ以下の微小ながん"識別!既に開発の"発光"試薬、市販に向けた試験へ!/当誌 2015.07.15 )
今回注目する下記引用サイト記事 : 「ペン」でがん発見の精度向上へ 10秒で特定可能と ジェームズ・ギャラガー・ヘルス科学担当記者、BBCニュースサイト/BBC NEWS JAPAN/2017.09.07 は、 <米テキサス大学の研究チームが開発した、ペンのような装置が、がん細胞を10秒で特定できるという。 科学誌「Science Translational Medicine」 に6日、論文が掲載された。 研究チームが開発した「MasSpec Pen(マススペック=質量分析)」は精度96%でがんを発見するという。これによって、腫瘍の摘出はこれまでより素早く安全で正確になり、かつ「取り残し」による悲劇も回避できると、研究チームは説明している。 「ペン」は、がん細胞独特の代謝作用を読み取る。がん細胞は猛スピードで増殖しているため、細胞内の化学反応は正常な細胞と大きく異なる> と報じている。
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「ペン」でがん発見の精度向上へ 10秒で特定可能と ジェームズ・ギャラガー・ヘルス科学担当記者、BBCニュースサイト/BBC NEWS JAPAN/2017.09.07
米テキサス大学の研究チームが開発した、ペンのような装置が、がん細胞を10秒で特定できるという。 科学誌「Science Translational Medicine」 に6日、論文が掲載された。
研究チームが開発した「MasSpec Pen(マススペック=質量分析)」は精度96%でがんを発見するという。これによって、腫瘍の摘出はこれまでより素早く安全で正確になり、かつ「取り残し」による悲劇も回避できると、研究チームは説明している。
「ペン」は、がん細胞独特の代謝作用を読み取る。がん細胞は猛スピードで増殖しているため、細胞内の化学反応は正常な細胞と大きく異なる。
どういう仕組みかがんかもしれない部分に触れると、ペンは微小な水滴を出す。
生きた細胞内の化学成分が水滴内に移動し、ペンはこれを吸い上げる。
吸い上げた細胞内物質を分析するため、ペンを質量分析計に差し込むと、分析計は毎秒数千の化学物質を測定。細胞が正常かがん細胞か、化学組成の計測結果から判断できるようになる。
外科医にとっての課題は、がん細胞と正常な細胞の境界を見つけることだ。境目がはっきりしている腫瘍もあるが、境がはっきりしないものもある。細胞を十分に摘出せずにがん細胞が残ってしまえば、それは再び腫瘍となる。しかし取りすぎると、たとえば脳のような臓器には重大な傷をつけることになる。
この質量分析ペンを使えば、がん細胞の取り残しの可能性が減ると期待される。
テキサス大学のリビア・エバーリン準教授(化学)はBBCに対して、「臨床上の要請にぴったり応える技術なので、とても楽しみだ。シンプルでエレガントなツールで、近いうちに外科医が実際に使えるようになる」と話した。
臨床試験
研究チームはこれまでに、253検体でペンを試してきた。来年に実際の手術で臨床試験に臨むまで、試験を重ねて精度を上げていきたい考えだ。
ペンは現在、幅1.5ミリの細胞組織を分析できる。しかし研究チームはすでに、さらに繊細で、わずか幅0.6ミリの細胞組織も分析できるようになるペンを開発済みだ。
費用に関しては、ペンそのものは安価だが、質量分析計は高価で大きい。
エバーリン准教授は、「この技術にとって、質量分析計が間違いなく障害となる。もっと小さく、安く、この装置専用に設定されていて、部屋から部屋へと転がしていけるようなものを考えている」と話す。
研究チームのひとりで、テキサス州ヒューストンのベイラー医科大学の腫瘍外科部長、ジェームズ・サリバーク医師は、「患者にもっと正確な手術、もっと素早い手術、もっと安全な手術を提供できるなら、もちろんそうしたい。この技術はその3つとも、実現してくれる」と期待を込める。
手術の精度向上のための研究は各地で重ねられている。英インペリアル・コレッジ・ロンドンの研究チームは、がん細胞を摘出しているのか判断するため、切り取る細胞の「臭い」をかぐメスを開発した。
米ハーバード大学のチームは、脳腫瘍をどの程度、取り除くべきか判断するにあたって、レーザーを使っている。
英国のがん研究団体「キャンサーリサーチUK」のアニャ・マカーシー医師は、「期待が持てる楽しみな研究だ。腫瘍が悪性かどうか、どういう特徴のものか、医師が今までより素早く判断できるようになるかもしれない」と期待を示した。
「手術中にこうした情報を素早く収集すれば、医師は患者に最適な治療法を今までより速やかに決められるようになる」
<腫瘍が悪性かどうか、どういう特徴のものか、医師が今までより素早く判断できるようになるかもしれない......手術中にこうした情報を素早く収集すれば、医師は患者に最適な治療法を今までより速やかに決められるようになる> という点こそが、"この技術" の真価である。 あとは、"質量分析計" の側が、<もっと小さく、安く、この装置専用に設定されていて、部屋から部屋へと転がしていけるようなもの> へと改良されることが期待される...... (2017.09.10)
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