大規模なリストラが敢行される時期ではあるが、こんな経済情勢であっても、欠かせないのがより優秀な人材確保の推進であろう。ビジネスは、若い女性のようにただ外見がスリムでありさえすればよいというわけにはゆかず、厳しい水準の"出力"が問われるからである。IT環境やグローバリズム化など、問われる"出力"水準を引き上げている条件に事欠かない時代である。良質な「人的資本」の水準如何が、個々の企業や国の経済活動の命運を分けるとも言われている。
先日、事務所に奇妙な電話が入った。
不況だと言われ始めてこの方、さまざまな営業関連の唐突な電話が多くなり、中にはまともな商談を装った詐欺まがいの話もなかったわけではない。警戒、警戒!これも、ビジネス・ゲームお定まりのフェイント(?)なんだろうと合点したものだ。
しかし、先日の電話は、合点するまでにしばし時間がかかる中級クラスのフェイント(?)というべきであった。話はこうなのであった。
"Hello!"で始まる電話だったのである。事務の者が、処しかねてわたしに回してきたのだった。"Can you speak English ?"、"Yes ! But a little."、"Oh,I see."から始まったのだが、どうも要領を得ない。わたしのヒアリング能力不足にも原因があったが、彼氏の言ってることに胡散臭さが滲んでいたからなのだ。胡散臭さというのは、例え English であろうがなんであろうが伝わってくるものである。
「ソフトウェア開発のアドホクラットさんですよね。お尋ねしたいことがあって電話しました。実は先日、横浜のあるレストランでアドホクラットのITスペシャリストの方とご一緒する機会があり、話が盛り上がりました。その時の話題でもう一度情報交換をしたいと願っているのですが、その方の名前は聞き漏らしてしまいました。お助けいただけないでしょうか?30歳前後の男性ですが、お名前を挙げていただければ思い出せるはずです」
わたしは、胡散臭さを感じながらも、国際問題を引き起こしてはいけない(?)と思ったのかどうか、確認すべきを確認しようとしていくつかの質問を繰り返したのだった。
「いつのことか?横浜はどこか?名刺は受け取らなかったのか?30歳前後だとどうしてわかったのか?」と。しどろもどろの返答が返ってきた。わたしは、言い切った。
「何かの間違いであり、それに該当するかもしれない社員はいない」と。
確証はないのだが、この電話は、 English 版を隠れ蓑にした技術者ハンティング向け情報収集業者だったはずである。English アレルギーで浮き足立った相手から、心当たりの名前を列挙させておいて、ダイレクト・メールなり、再度の電話なりでコンタクトを取りハンティング活動を展開するつもりであったのだと推測し得る。
それにしても、「30歳前後のITスペシャリスト」とは、あまりにも「頭隠して尻隠さず」だと言わざるを得ない表現であり、求人依頼者の生の願望をそのまま使ったものだと容易に悟らせるではないか。しかも、「ITスペシャリスト」という表現は、若いソフト技術者でもあまり口にしないのが通常であり、話が架空であることに色を添えていたのである。
こうした新手の業者が徘徊するほどに、派手なリストラが展開されるもう片方では、優秀な人材の希少価値が増しているということなのである。
そしてこの背景には、終身雇用・年功序列とバンドリング(一体)であったかもしれない企業内教育が、前二者自体が大幅に見直され、それに伴い揺らいでいる結果、多くの企業は人材に関しては外部の即戦力としての人材に期待をかけている、という現実が潜伏している。
種々の問題が先送りされ続けて来たソフトウェア技術者たちの環境にあって、いま漁獲保護(?)そっちのけの「生け捕り」や、「伐採」にも似たかたちのその場しのぎの動きが波立っている。ここでも手に余った問題がただただ自然増幅している観の拭えないのが業界人として辛い。
また、熱く求められる技術者たちはこの上ない幸せ者かと言えば、求められた者はすぐさま過剰なほどの問題解決能力発揮が求められるのが常であり、これまた尋常ではないのが相場である。この辺に関して、現在、求められる技術力や周辺能力が何かなどに言及することは別の機会に譲りたい。(2001/08/23)