日曜の午後、BSTVで、モノクロ時代劇映画『上意討ち・拝領妻始末』(1967年、東宝、監督:小林正樹[『人間の条件』!]、原作:滝口康彦、脚本:橋本忍、出演:三船敏郎、加藤剛、司葉子、仲代達也、山形勲、松村達雄ほか)を鑑賞した。
先ず、久々にモノクロ映画を見て、案外いいものだと新鮮な印象を受けたものだった。シリアスな時代物はモノクロと効果音で、よりリアリティが増すに違いないと思えたのだ。
ストーリーの基調は、山本周五郎・藤沢周平的世界のものだと言ってよいだろう。何故だか時代ものが好きなわたしだが、この映画はどういうものか見逃していた。そんなわけで、新作を見るように十分惹きこまれて堪能することができたのだった。
ところで、いくら時代物とはいっても、今見ると違和感を感ぜざるを得ない演出の映画も多い。とくに東映の錦之助、千恵蔵演ずる大衆時代劇は、臭くてどうにもならない。それはそれで楽しむのではあるが、当時の役者の人気に引きずられた限界があるのだろう。 そこへゆくと、仲代達也あたりが現実感のある役どころを抑制の効いた演技でこなす作品は、不思議なもので現在の感覚で受け止めても全然浮いていないのである。同監督、同脚本で、やはり仲代達也主演の『切腹』も、この『上意討ち』と並ぶリアリズムが、胃を痛めさせるほどの緊張感をもたらしてくれたことを記憶している。
話のすじは、よくある話である藩(会津藩)の世継を巡っての悲劇である。特異な点はというと、藩主(松村達雄)が目をかけて側室とした娘(司葉子)を、男子を設けたにもかかわらず、粗相があったとの理由で下がらせるに至り、家臣(三船敏郎)の息子(加藤剛)が正室として拝領することになる。以前の<司>への思いがないわけではなかった<加藤>ではあったが、要は藩の家老たち(山形勲など。むかし、いつも思っていたのだがこの山形勲という俳優は、漫画『赤胴鈴之介』の道場主の先生とよく似ているのだ!)の差し金であった。
ところが、ようやく二人が許しあい、子までなした時、藩主の正室の世継が病死し、<司>の子が急遽世継となるに及び、藩主、家老たちは<司>を世継の生母として返上せよと画策し始めたのだ。
もとより<加藤><司>は不承知だったが、隠居となった<三船>は、人倫にもとる措置だと憤りをあらわとするのだった。養子としてこの家に入り、己を殺して隠居となるまで平穏無事をつとめてきた<三船>にとって、<加藤><司>たちの真のむつまじさと、これを踏みにじる藩主、家老たちの身勝手さの対比が、<三船>をプッツン切れさせてしまったのだ。お家取り潰しの威嚇や親戚たちの反対をも押し切り、<三船><加藤>親子は、屋敷に篭城し、家老たちが差し向ける刺客たちと闘う。が、<加藤><司>は惨殺され、生き延びて幕府に事を暴露せんと江戸に向かおうとした<三船>も、国境で多勢によって殺されてしまうのだ。
小林正樹監督は、観客が心のどこかで期待するハッピーエンドや、溜飲を下げたい結末を、真実の歴史の悲惨さを見なさい!と言わぬばかりに断じて拒絶するのである。上記『切腹』においても、観客の取り付く島は与えられなかったと記憶する。
この観客の、いや甘えん坊の日本人たちを、思いっきり突き放して覚醒させんとするかのようなリアリズムが、実に新鮮だと感じたのだった…… (2002.07.01)