昨今、「ピッキング」犯の横行が話題となっている。
先日も、自宅近所の家々がこぞって「防犯用自動点灯装置」を取り付けていることを書いた。いろいろと工夫を凝らすことは必要だと思われるが、実のところどの程度の防犯策を講じれば安全なのかが今ひとつわからないところである。
今、事務所移転で移転先のフロアーをあれこれと手直ししているところであるが、美観上の問題もさることながら、やはり防犯上の対策が重要だと思っていろいろと手を打っている。
現在までの事務所はビル全体がセキュリティ対策を施した環境であったので、個別のテナントが気を使う余地はなかった。まあ、その安心の部分が安くはないテナント料に加算されていたわけではある。
だが、移転先は、自衛的対策で臨まなければならない環境なのである。
今日、鍵の専門店の業者を呼んでいろいろと現場を見てもらい、いろいろなアドバイスを受けた。
結構、話し好きな業者であり、あれやこれやとその道の裏話なども聞くことができた。話を聞きながら思ったことは、やはり「敵を良く知る」ということであっただろうか。
ショップ経営をしていた頃にも、近所に泥棒が入ったとのうわさを聞き、路地に面した窓に「鉄の桟」を取り付けてもらったことがあった。その際、業者から聞いた話では、「奴らは、シゴト時間が5分以上かかるとみたら手を出しませんな」ということだった。侵入するのにいかに多くの時間がかかるかと懸念させるということが必要なのであり、それが防犯対策のすべてだということなのだそうだ。
今日の業者も同じようなことを指摘していた。
「彼らは、一つ、二つ程度の道具しか持ち歩かない。だって、泥棒でございと言わぬばかりの数の道具を所持していたら、不審尋問されたら終わりですからね。」
確かにその通りなのだろう。そこで、ドライバー一本程度と「ピン」などを隠し持ち、それで勝負しようとするから、そうしたもので何ができ、何ができないか、また短時間で可能か、長時間を要するかなどを勘案して対策を講じることが大事だと言っていた。
しかも、鍵を使用せずに「鍵穴」を攻略する「ピッキング」というのは、結構難しいもので、安定した足場で、
「正しい」姿勢で臨まなければそうそう成功するものではないということらしい。不安定な足場で、腕だけを突っ込んでピンを操作するという環境では長時間かかっても成功率が小さいという。だから、そうした条件があれば撃退策となるらしい。
また、もちろん彼らは「安全なシゴト」を望むため、「人目に触れること」を極力恐れるということであった。通りから見通しの良い箇所からの侵入はまずあり得ないということなのである。むしろ、彼らにとっての「隠れ蓑」を提供するようなことをやってしまっている場合が意外と多いとも言っていた。例えば、窓にカーテンやブラインダーを取り付けるのは、プライバシーの点からいわば常識化しているわけだが、それらは、一瞬で侵入する泥棒たちにとっては、中に入ってしまえば逆に外から発見されないでシゴトができる好材料だというのである。言われてみれば確かにそうだと思われた。近所の人やその他の人目にさらす部分はさらして、泥棒たちの危険度を増すことも重要だということになるのだろう。
マーケット・リサーチではないが、相手方のニーズやその固有な状況をじっくりと調べ、可能な限りの想像力も働かせるということが、セキュリティ問題でも欠かせないということなのだろう。
唐突ではあるが、イラク問題に関しても、「テロに毅然として立ち向かう」という硬直した姿勢だけでなく、テロに加担する者たちがどんな歪んだ心境でいるのかを想像すること、そこから合理的な選択をすることも必要ではないのだろうか…… (2003.12.01)