いやあ、今日は風が冷たい寒い日であった。空は真っ青であったので、いわゆる放射冷却で気温が下がり、なおかつ風のために寒さがしみ渡ったということなのだろうか。
先日、義兄から電話があり、パソコンに関して仕事関連で教えてもらいたいことがあるという連絡が入っていた。いつも夜遅くまで事務所に詰めている自分であるため、休日のいずれかに向かうつもりでいた。そして、買い物に出た足で、夕刻に訪れてみた。
義兄は建築技師なので、もはやパソコンのアプリケーションを使わなければ仕事にならないといった状況である。確かに、建築関係の領域は、キャドにしても、設計上の数値計算にしても、まさにコンピュータが得意とするジャンルそのものである。また、設計事務所を小規模体制でやる場合には、パソコンは必須のツールであるはずだろう。
当該の事柄は何ということもないことであり、小一時間で済んだのだが、へぇーという思わぬ話を聞いたものだった。
インターネットを始めてはどうかと勧めたのは自分であり、その結果仕事関係やら、嫁いだ娘などとのメールなどでそこそこ使っていたようだった。そこで、建築事務所としてのホームページを開設すれば仕事の引き合いがネットから飛び込むのではないかと、今回勧めてみたのだった。
実際、昨今の、当社のホームページを見ての問い合わせその他については、数の上ではまずまずの反応があるのは事実である。規模の小さな経営にあっては、可能なかぎりの営業チャンネルを持つことが重要であることは言うまでもないのだ。
ところが、義兄は消極的な反応を示したのだった。
「うちらの仕事では、信用のおける相手としか仕事はできないんだよね……」と。
よくよく聴いてみると、建築業関係ではただでさえ支払いサイトは長いという。半年や一年もざらにあるらしい。債権者側も引き続く仕事依頼を期待することもあり、催促を遠慮したりするらしい。おまけに、顧客側は、長いのを隠れ蓑にしながら、そのまま債務不履行で行方をくらましてしまうことも少なくないのだそうだ。
なるほど、と思えた。そんなルーズで非紳士的な風潮がある業界だから、仕事引き受けますなどというネットでの広告は、まんまと騙されることを名乗り出ることにつながりかねないというわけなのである。仕事量が少なくとも、馴染みの顧客との関係にすがらなければならないというのが実情なのだそうである。
確かに、インターネット上での商取引はいまだにトラブル含みの傾向がある。要するに、「ネット上での情報」しかないかたちで相手を信用したかのような判断を進めてゆくのだから、不透明なリスクが満ち溢れていると見なければならない。
事実、インターネットのイージーでパーソナルな雰囲気を真に受けて、その雰囲気をそのままビジネスに雪崩れ込ませてくるお門違いの輩がいないわけでもない。先日も、見ず知らずのソフト業者から、「何か持ち帰り(請負のかたち)の仕事がありませんか?」とDM的にメールを入れてきたものだった。たとえ、どんなに忙しくしていたとしても、業務実績や業務姿勢が定かではない業者と取引をすることは、ソフト業界での経験が多少でもあれば手が出せないのが常識である。目に見えるモノの製作以上に、従事者の能力や素性にこだわらざるを得ないのがソフト制作であるからだ。
自分の顔を隠して無責任な手口に走るのは、インターネットに限らず、電話も相変わらずである。いつだったかこの日誌にも記したことがあるが、ヘッドハンティングの業者であるに違いないと思われる見え見えの手口があった。
「その時、お聞きした名前は忘れてしまったのですが、御社の社員で三十歳台の技術に明るい人に親切にいろいろと教えてもらいました。もう一度お聞きしたいことがあるのでお電話しました。いや、名前は覚えていないんです……」と言って、「さて、誰でしょうか、アオキですか? タナカですか?」という社員名を聞き出すのが狙いなのである。これには、English バージョンあり、技術者ではなくセールス・エンジニアのバージョンありとかなり手がこんだ業者であった。
便利で有用な道具というのは、使い方によっては「クスリ」にもなれば「毒」にもなるものだというのが道理であろう。まして、人の身体の中でも黙っていても最も多くを物語ってしまう「顔」というものを見せずに利用できる道具に対しては、相変わらず警戒を要するというのが実情なのであろうか…… (2003.02.01)