最近のWebサイトは何かと「リッチ」になっている。中でも、滑らかなアニメーションや、インタラクティブな動きなどがスマートに展開するページを見ていると、Webサイトだとは思えないほどである。
こうした「リッチ」な構成を支えているのが種々のテクニカル・ツールであり、単なるHTMLスクリプトだけでは飽き足らないとばかりに、Java、CGIやもろもろのスクリプトなどが巧みに駆使されている。
「リッチ」といえば先ずはアニメーション画像に目が向くことになろう。URLをクリックして最初に開かれるWelcomeページで、まるで映画のオープニングを見るような滑らかな動きの華麗な画面を見ることも少なくなくなってきた。
ひと昔前なら、画像はそうした「リッチ」なものではなく、実にぎこちなく、「動いてんだかんね」と言わぬばかりのアニメーションが、Gifファイルの合成などで作られていた。「パラパラ漫画」の原理による動画である。自分も制作したことがあるが、手間がかかり、ファイル・ボリュームも大きくなるその割りに、出来上がりはダサイものに落ち着いてしまうのである。まあ、人目を引くことにはなるかもしれないと、不承不承で採用することになる。
ところが、最近注目できるテクニカル・ツールのひとつに「Flash MX」というWebアニメ制作ツールがある。かつて、動画などに関心を寄せる者たちを惹きつけた「Director」というオーサリング・ソフトを提供した会社マクロメディアが、ここまで普及したWeb環境に即してリリースしているユニークなツールである。
より高度で複雑な動きをするアニメ制作を「オブジェクト指向」方式で可能とするだけでなく、滑らかで美しい画像を拡大縮小にかかわらず確保するためベクター方式という計算値によって画像描画する新しい方式を採用している。一点、一点をぎこちなく置くように並べた従来のビットマップ方式とは画期的に異なるものだ。そして、ファイルサイズも割合に小さいのでさほど迷惑にもならない。
従来から、画像やストーリー・コンテンツに興味を抱いてきた自分としては、実のところ、年甲斐もなくこの「Flash MX」を使いこなしてやろうかと触手をのばしたりもしている状況なのである。試用ソフトをダウンロードして使ってみたりもしたが、結構楽しめそうな印象を受けている。
ビデオ動画にしても、MPEG-4方式などの圧縮処理が採用されたり、ストリーミングと呼ばれる非ダウンロード方式の工夫などによって、ブロードバンドのインフラ上でかなり実用的レベルでの使われ方がなされるようになった。まさに、現在のWebサイトは、動きを売りとするテレビ画面に限りなく肉迫しているようでもある。
また、ついでに皮肉を言えば、Webサイトは、そのコンテンツの質においても、見てくれは「リッチ」もどきでありながら、日毎に低俗化している、そんなテレビ番組にこれまた限りなく追随しつつあるとも言えようか。
こうした状況を見ていて思うことは、Webサイトに限ったことではないのだが、時代全体が中身と乖離したビジュアルな表層をいかにもっともらしくこしらえるか、という課題に奔走しているかのようだ、という点である。
確かに、表層の構成、画像の制作などに役立つ表現ツールやプレゼンテーション・ツールは飛躍的に豊かになった。そして、その成果としての溢れるようになプロダクツ群を日ごと目にするようにもなった。まるで、われわれはきらびやかな舞台やショーウィンドウの前に立たされているような気さえする。
それらによって目や感性が肥え、自らの表現水準がアップすることは悪くはないだろう。だが、表現方法に対して「思考そのもの」のパワーアップはどうなっているのだろう。そう言えば、表現に関するテクニカル・ツール類は不自由しないほどに普及しているのに対して、考えること自体を直接支援するツール類は、意外とエアーポケットになっている実情かもしれない。そういうツールこそがもっと旺盛に創り出されていいような気もするのである…… (2003.09.01)