モノを「長もち」させる人でも、四十年間にもわたり愛用し続けた人は少ないのではなかろうか。置物、飾り物であってさえ長期の間には壊してしまったり、引越しの際に紛失させたりするかもしれない。我ながら驚くのは、それが日常的に使用するモノであり、決して飾り物なのではないからである。
よくも「長もち」したと感心するのだが、もっともそれは壊れようがないといえばそういうモノなのである。頑丈な鉄パイプと、その内部の丈夫なスプリング、そして外部にはワイヤーを特殊樹脂で覆ったロープが二本、といった至極単純な道具なのである。今、道具と書いたが、スポーツ用の道具であり、筋肉トレーニング用の、まあ「エキスパンダー」のようなものだと思えばいい。
名称は「Bullworker 2」とされ、ちょうど野球のバットほどの大きさで、その両端を両腕で「押したり」、脇のロープ2本を両腕で「引っ張ったり」して筋肉を鍛えるというものなのである。狭い場所でも活用できるため、「宇宙飛行士」たちの運動不足解消だとか、スポーツ選手の旅先でのトレーニングに最適だと、当時は雑誌広告記事などで宣伝されていたものだ。
確か、中学の後半の頃、まがりなりにも高校受験体勢に入りとかく運動不足となりがちなことを配慮して、奮発して購入した。通信販売で購入したはずだが、当時で¥12,000 也ではなかったかと記憶している。随分と高かったが、五年、十年と使えば安いものだと考えたようだ。結局、三十数年間も使ったというか、持ち続けてきたのだから、安いどころの騒ぎではないことになる。もっとも、この間ビッシリと使ったという覚えはなく、ゴルフ歴三十年だと言う人を相当割り引いて見なすのが当たり前だということと似ていなくもない。
ふと思い出したが、何かのきっかけで学校へ持ち込んだことがあった。すると、友人はもとより、ある変わり者の先生までが関心を持ち、その先生ときたら「しばらく貸せ!」と言い出した。わたしのクラスの担任にもなったことがあり、おまけに美術クラブの顧問でもあったことから日頃慣れ親しんでいたのだった。
どういうわけか、その先生は、当時、ボディービルに感心を寄せていたようで、美術室では鉄製のイーゼルを暇をみてはグイグイと持ち上げていたのである。そんな時であったので、その「筋トレ」ツールは、「これはいい……」と思ったのだろう。一週間が二週間に延び、なかなか返してくれず、催促すると、「まあいいではないか……」と取り合わなかったことを覚えている。
ある別な先生は、そうしたその先生のボディービル狂いを称して冗談を言っていたものだった。
「Mちゃんは、『君は、明日の日本を背負って立つ人材だ』と言われて、何を勘違いしてか、『背負う』ためには筋肉が必要なんだと考えたようだね」
と。
最近の自分が再びこの「古き友」を手元に置き始めているのは、決して「日本を背負って立つ」先生のようなボディービル指向ではない。少しでも贅肉を減らし、筋肉化することで「基礎代謝」量を上げようとしている。ウォーキングによって、足腰、肩あたりは贅肉が落ちた模様だが、腹部のそれはしぶとくてなかなか落ちない。先日も、腹筋を試してみるや、赤子のごとく脆弱で情けなくなってしまったのだ。
この身体、この「古き友」のごとく、まだまだ丈夫であり続けなければならない。人の身体には耐用年数というものもあるので、無理をするつもりはないけれど、日々に分散しながら適度な負荷を加えていかなければと考えている…… (2004.06.13)