庶民にとって、ちょいとクルマに乗って近くのショッピング・センターを覗くというのは、手頃な行動に違いない。何もしないでいるという、一応避けて通りたい選択からはのがれられるようであるし、何かをしたというささやかな充足感を得ることもできる。今日は、二度も同じショッピング・センターに足を運んでしまった。
一度目は、まさしく庶民の手頃行動として、二度目は必要に迫られてである。
最初は、母に「届け物」をする帰りにぶらりと寄ったのだった。
ところで、昨日書いた川崎大師参拝では、例年、小倉屋の元祖「久寿餅(くずもち)」を土産に買ってくることとしている。自分も「わらび餅」同様に大好物であるし、周囲には近所のお宅も含めこれが好物の人が少なくないのだ。だから、重い思いをしても川崎から運んで来るのである。母もそのうちの一人であり、毎年楽しみにしている。例年は、7日の当日に届けるのだが、都合で昨日は叶わなかった。持って行くと喜んでいたが、昨日届かなかったものだから「今年はどうしたんだろう?」と思っていたところだと話していた。
その帰り道に、ひょっとして新春セールとかで何かおもしろいものが出ているかもしれない、なぞと勝手な想像をして寄ってみたのだった。
そのショッピング・センターは、そこそこ広い食品スーパーと、「Do it yourself!」関連のフロアー、そしてPC関連および家電製品売り場などで構成され、広い駐車場スペースも持っているため、まずまずの集客力があるようだ。いつも駐車場は満杯で、クルマ誘導係の者が忙しく働いている。
わたしが関心を持って覗くのはもちろん「Do it yourself!」のフロアーなのである。そして今日のお目当ては、入口付近の特別セールのコーナーである。
そこへと通じる正面入口を入ると、そこは食品売り場が広がっているのだが、何やら中年のおばさん連中がとあるワゴンを囲んで熱狂している。まさか、「ヨンさま」グッズでも大奉仕しているのかと覗き込んでみると、違った。透明小袋に入った小さな菓子類を、中程度の透明プラの袋に詰めたいだけ詰めて「198円」也! という「新春企画」が展開されていたのだった。おばさん方々は、やたらに小袋の山を引っくり返して何かを探す仕草をしている。何か価値ある小袋を物色しているのであろうか、自分や家族が好物の菓子が入った小袋を集めているのだろうか、とにかくちょっとした運動会の宝探し競争のようでもあった。
この種の「企画」でよくあったのが、拳大の穴から手を差し入れ、中にある飴を必死に掴んで、「ひと掴み」いくらというものであるが、おばさん方々は、透明プラの袋がパンパンにはち切れんばかりに詰め込んでいたが、果たして思うように稼げたのであろうか。 わたしはといえば、新春特価のコーナーで、怪しげなものに目を向けていた。さして安くていいモノがあったわけではない。おそらくは、そんなモノは今日までの営業日ですでに売れ尽くしてしまったのであろう。結局、メーカー希望小売価格16,000円也(冗談にもほどがある価格票也!)の怪しげな双眼鏡を税込み1,000円で、京都西川の「低反発チップ入りまくら」を1,280円で買い、あとは手に取っていろいろと迷ったが見送った。
家に戻って茶をすすって一服していたら、家内が、もう十年以上も使って「機能不全」となった電子レンジを買い換えたいと言い出した。一緒に、今行ってきたばかりのショッピング・センターへ付き合ってくれと。家内は昨日既に下見をして、手頃なものを見つけてあるので一緒に行って、それを運んでほしいというのであった。
内心、『今行ってきたばかりなのに……』と思ったが、考えてみれば、わたしはいつもどこへ行く、いつ帰るということを口にしない習性のため、愚痴ってもしょうがないかとしぶしぶ応じた。
しかし、電子レンジといった家電製品は、実に高機能化した上に、いつの間にか驚くほどに低価格となっている。しかも、昨今はショップ間の安売り競争が激化して、ダンピングまがいの状況だ。家内が目をつけていた商品も通常価格32,000円でも高くはないと思えるのに、それが24,800円となっていたのである。坂を転がるように低価格化傾向を強めているのは、何もPC関連だけではないようだ。不当に高値感ばかりが募るのは税金や年金負担、そしてNHK受信料など「独占団体」への負担だけだ。低コストで優れた結果を出す民間と、高コストでマヌケな結果しか出せない役人仕事の差なのであろう。
一日に二度も、庶民の駆け込み寺へと足を運ぶこととはなったが、家内は新しい電子レンジの到来を、頼もしいキッチン・スタッフが助っ人に来たとばかりにご満悦のようで、わたしも何かしたかのような充足感に浸されていたのだから他愛ない。
それにしても、モノとともに生活し、モノを購入し消費することが気持ちのありようの大半を占めるかのような日常の生き方は、現代人の定番となってしまったのだとつくづく思った…… (2005.01.08)