実に平凡な元日を迎えた。一時は入院騒ぎで諦めかけていただけに、平凡過ぎる元日ではあるが、これでいい、といった納得感が伴った。
陽が差さない曇天のためか、冷え冷えとした天候の元日である。
昨夜は、10時には就寝したため、今朝は7時前にラクラクと起床できた。一年の計は元旦にあり、ではないが、さっそく身支度をして一時間のウォーキングに出かけた。異様にクルマの数が少ないだけが正月を思わせたものの、他のいっさいは何ら変わらず、ただ寒い冬の朝でしかない。夫婦らしき人たちが連れ立ってどこかに出かける姿を見かけた。おそらくは、初詣にでも出かけるのであろうかと思えた。今年の各神社への参拝者数は増えるのだろうかとも想像する。神頼みも、それはそれでいいとしても、やはり、ほかにやるべきこともしっかりとやらなければまずいよなあ、と思ったりもする。
毎年そうであるように、正月の祝いをわが家で一緒にするために、おふくろをクルマで迎えに行く。伝えておいた時刻に迎えに行ったが、夜更かし朝寝坊のおふくろは「十分ほど待ってて」と言う。自分は、暇つぶしに、すぐ近くのホームセンターを覗いてみようと考えた。手頃な「福袋」でも揃えていたら、買うのも一興かと……。が、菓子の詰め合わせのようなものしかなく、こいつは「糖尿病」患者にとっては無用だと思った。せっかく覗いたのだからと、正月バージョンのやや上等な吟醸酒を一本購入する。正月なのだから一献くらいはよかろうとの意地汚さなのであった。
正月の平凡な祝いを、10時半ぐらいから始める。今年のおせち料理は、例年以上に簡素である。一時は取り止めという空気もあったくらいだから当然のことと言わなければならない。自分も、「糖尿病」患者らしい箸のつけ方に終始した。
毎年、おふくろは、それぞれの者にちょっとした衣類を年賀としてプレゼントしてくれる。今年も、自分にはウールのベストを、息子にはセーターを、家内には小物入れバッグを取り揃えてくれた。赤に近い海老茶色のベストは、少し派手だったかどうかすぐに着て見せてくれとおふくろはせがんだ。結局、「よく似合うじゃないの」ということになる。 自宅でも猫を飼うおふくろは、わが家の二匹の猫に大いに関心を向け、どっちがどういう名前だったかと確かめ、「ルル」のことは「三錠さん」と勝手に命名し、「三錠さん」をことさらかまっている。
おふくろは、もの忘れを防止するために、忘れにくい言葉を覚えるようにするらしく、「ルル」は覚えにくいので「くしゃみ三回、ルル『三錠』」の「三錠」だというのだが、それを「三錠さん」と冗談で呼んでいたのだからおかしかった。
何でも、孫が気に入ったお菓子の「鳩サブレ」を買いに行き、店の人に「ひよこサブレ」はどこに置いてあるのと聞き、店の者を困らせたとか言っていた。
食後、トランプで「セブンブリッジ」をやろうということになる。わずかなレートのおカネを賭けて、例年やってきたが、今年はおふくろからやりたいと言い出した。おふくろがこのゲームにこだわるのは、自身がまだまだ若い者と頭で勝負ができることを確認したいがためだそうなのである。
そうした意気込みもあってか、今年は、おふくろがトップとなり、みんなから小銭を貰うこととなる。ホントはわたしがみんなに小遣いをあげなきゃいけないのに、ワルイわねぇ、と……。しかし、勝てたことに内心ホクホクの表情が滲んでいた。
ともあれ、あわや突然、奪われそうになった「平凡なお正月」がいつもどおりに、つつがなく行えたことがみんなうれしかったはずなのである…… (2006.01.01)