不謹慎かもしれないが、思わず笑ってしまった新聞記事があった。
<池に落ちたゴルフボール、潜水服着て盗む 容疑の男逮捕>(朝日,2006年05月09日)
というものである。<潜水服着て>というのが、そこまでやるか、と意表を突かれた思いだったのである。
<…… 調べでは、※※容疑者は9日午前0時半ごろ、※※県※※市※※町上のゴルフ場に侵入し、コース内の池(深さ1〜2メートル)に潜り、ゴルフボール計651個(時価3万2550円相当)を盗んだ疑い。付近を巡回中の署員がゴルフ場から車で出てきた※※容疑者に職務質問し、車内に大量のゴルフボールがあるのを見つけた。「自分が使うつもりだった」と供述しているという。
池に落ちて拾われなかったボールの所有権はプレーヤーが放棄したとみなされ、ゴルフ場に移る。>
お目こぼししてやれや、とでも言いたくなるような「事件」だ。平気で人を刺したりする連中や、濡れ手で粟のように膨大なカネを横取りするような連中が闊歩して「急ぎ働き」(鬼平犯科帳!)しているこのご時世で、「ゴルフボール計651個(時価3万2550円相当)を盗んだ疑い」、しかもご苦労なことに「潜水服着て」というのだから、「カッワイーィ」と言ってやりたいではないか。まあ、そこは法治国家なのだから、ゴルフ場に移った所有権を侵害することは見逃せないのは重々わかる。しかし……、という勝手な気分と、無責任なおかしさが残ってしまうのである。
誤解がないように言っておけば、罪を見逃せというのではなく、ただでさえ大悪党がのさばり庶民が泣いているのだから、そいつらをひっ捕まえることに全力を注いで欲しいということだ。まさに「鬼平」のように、「急ぎ働き」で「人殺し」や「金品強奪」を恐れない極悪な奴等からこそ順上げにして「血祭り」にあげるべきである。
人の世というのは、順番というものが意外と重要なのであり、正しい順番通りに事をなせば、後の方の処理はせずとも済んでしまうこともあれば、順番を間違えるならば、いくら努力してもそれが「ざる」になることだってあるというものだ。穴の開いたひしゃくで、とにかく水を汲むことを始めるのか、そのひしゃくの穴を塞ぐことから始めるのかでは事の成果が異なるに違いない。もっと決定的な事柄で言うならば、伝染性の病気では、患者の隔離こそが決め手なのであろう。これを後に回して個々の患者の対処療法から始めたのでは瞬く間に手に負えない事態となってしまうはずだ。犯罪はどちらかと言えば、この後者のたとえに似ていることだろう。
先日も、釈然としないことに遭遇した。夕刻、薄暮のため事務所の窓ガラスに赤い光が動くのがいやでも目についた。やはり、近くにパトカーが停まっていたのだった。何事かと外に目をやると、T字路の角に複数の人影があった。
よく見ると、一人は警官で、もう一人は自転車を脇に停めた女子高校生であった。女子高校生はうな垂れていた。しばらく眺めていたが、どうも自転車の「無灯火」走行で「書類」を作られていたようなのである。
思わず、「そんなチマチマしたことで、貴重な職務時間を潰していいのかぁ〜」とでも窓から叫びたい心境となったものだ。もっともそんなことをすれば「公務執行妨害」で手前がお縄になってしまうので、密かに、「バァーカ」と呟くに止めた。
確かに、自転車の「無灯火」走行は危ない。昨今は、スピードを出す者も多いので、予想外の怪我が発生したりもするらしい。しかし、お巡さんヨー、「コスパ」(コストパフォーマンスの略)ちゅうもんを考えないといかんぜよ。維持費の高い公器のパトカーに、二人で乗って、それで小一時間も費やして、女子高校生の「無灯火」走行をひっ捕まえるのなら、むしろ多発している女子学生殺人、幼女殺人の犯人検挙とその防止策を急ぎなさいよ、と。あるいは、飲み屋の前で違法駐車して、飲んだ後そのクルマで飲酒運転で帰る不届き者をこそ一掃しなさいよ、と。
警官たちがみな「鬼平」のようになれとは言わない。しかし、真底、「極悪・巨悪」をこそ憎む体質だけはしっかりと身につけてもらいたいのだ。でないと、別な意味で「悪事千里を走る」(本来は、悪い行いはすぐ世間に知れわたる意であるが、ここでは悪事が千里四方に伝染するという意味!)という事態が、起きてしまう。
ただでさえ、弱肉強食や、みんなでやれば恐くないという風潮が席巻するヤバイご時世なのである。また、責任能力無きが如しのマス・メディア環境でもある。「極悪・巨悪」を容赦しない空気こそあれば、おのずから無くなるものは無くなるとも言えそうだ…… (2006.05.09)