『ニューエコノミー:熱狂を超えて』 by OECD(経済協力開発機構)のご紹介


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この報告書に着目する理由は、

 [1] 情報通信技術:IT(ITC)によって、経済の新しい段階を迎えようとしているのは、わが国だけではなく、世界同時的であり、グローバルな趨勢であること、

 [2] わが国のIT戦略は、国内的視野だけで検討されるのではなく、諸外国の動向をも踏まえた上で推進されるべきだと思えること、

 [3] この『報告書』が、経済におけるITの位置付けにおいて、とかく一面的な議論が多い中で、きわめて「包括的な」視点が貫かれており、今後のわが国のIT戦略推進にあたっては大いに参考とすべきだと思われたためです。とりわけ、競争を阻害する「規制撤廃!」、高まる総合的な人材養成政策、起業を促進させる環境づくり(規制撤廃とも重なる!)政策などの明瞭な指摘に、政府は耳を傾けるべきだと思われます。

OECDの歴史

「第二次世界大戦が終結したとき、主要な戦場であった欧州諸国は経済的壊滅状態にありました。1946年6月、マーシャル米国務長官は、アメリカによる欧州経済の再建を目的とした援助プログラム『マーシャル・プラン』を発表しました。これを受けて、被援助国である欧州諸国側に十分な協力体制を整えることが必要となり、1948年4月、OECDの前身にあたるOEEC(Organisation for European Economic Co-operation)-欧州経済協力機構−が発足しました。

 その後OEECは、欧州経済の復興と、欧州自由主義諸国間の経済協力に大きな役割を果たしました。他方、この間にアメリカ、カナダと欧州諸国のつながりは一層緊密化し、1950年、両国はOEECの準加盟国となりました。

 OEECは1950年代後半までに所期の目的をほぼ達成するにいたり、これを大西洋両岸にまたがる先進諸国の経済協力機構に組み替えようとする動きが現れました。この結果、1960年12月、OEEC加盟18カ国にアメリカとカナダを加えた20カ国がOECD条約に署名し、翌年9月、世界的視野に立って国際経済全般について協議することを目的とした新機構、OECDが正式に設立されたのです。」(上記HPより)

■ ここにその抜粋を紹介する『ニューエコノミー:熱狂を超えて』の要約原文は、次のURLにてご確認ください。オリジナル報告書(2001.05.09)

 なお、この報告書は2001年8月13日に『The New Economy: Beyond the Hype, The OECD Growth Project, OECD, 2001』(ISBN 9264187294, 1900円)として出版されるそうです。

‥‥‥‥ 当報告書をこのHPで紹介することについては、OECD東京センターの許可を得ております。 ‥‥‥‥


『ニューエコノミー:熱狂を超えて』抄録

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★ 情報通信技術(ICT)が与える便益を捕らえること
 
・情報通信技術(ICT)は経済活動を変革しつつある。

・(その重要度がどのくらいかの指摘は)まだ早い。

今大事なのは各国政府がICTが与える便益を逃さないような、そしてその負の影響を抑制するような政策をしっかりと採ることである。

・ICTによる便益を享受する鍵はその利用を推進するような政策に焦点を当てることであり、その製造を奨励することではない。

いくつかのOECD加盟国でITCの導入が送れている原因の一つは不十分な競争にある。

・OECD加盟国においては通信分野の独占はほぼ無くなった。しかし未だに多くの国において伝統的事業者が独占的な地位を占めており、コストを高いままに支えている。効果的な競争が定着するまで、さらなる取り組みが必要である。

「アンバンドリング」、つまり地域通信網とそれを使用したサービスとを切り離すことが地域市場での競争を活性化させる条件である。‥‥さらなる規制改革が必要である。
 
★ 技術革新の潜在能力をフルにいかすこと
 
・基礎研究に対する十分な資金が必要である。

基礎研究は基本的に政府資金に依存している。将来の技術革新のためには公共投資が必要である。基礎研究に対する資金は学問的優劣に基づき、競争原理が働く形で配分されるべきである。

・《 図表 》(「米国で成立した特許に貢献した科学的論文(引用文献)の国別平均数」では、米国、カナダ、オーストラリア、英国、フランス、ドイツ、日本の順で増加傾向が強く、日本は著しく低迷している。)

大学等研究機関における昇進制度は技術革新に対する貢献ではなく年功、あるいは出版能力にもとづいている。

・技術革新促進に国際協力がますます重要になってきているため、外国からの知識の流れに対して門戸を開放することが必要とされる。この意味で、科学技術を自給自足する政策は見直されるべきである。
 
★ 人的資本を高め、その潜在能力を発揮すること
 
情報通信技術(ITC)が効果的に使われ新技術の効用が発揮されるためには適切な技能(スキル)と能力がなくてはならない。知識集約的雇用への需要は大幅に上昇し技能労働者の不足が顕在化し始めた。

・人的資本の改善には基礎教育における健全な基盤が必要とされる。

・総合的な生涯学習戦略が求められている。これにはまずもって幼児期の子供の教育及び保育から始まる基礎教育の堅固な基盤を確立することが求められる。‥‥これらの政策はそれ以降の教育に要する経費を引き下げるコストの安い解決策である。

深刻化する資質の高い教師の不足に対処する必要があるが、このためには給料をより魅力のあるものにしなくてはならないであろう。

・高等教育と労働市場の関連を強化しなくてはならない。‥‥高等教育機関を自分の技能を向上したい大人の労働者により開放することもまた役に立つ。

企業も個人も訓練にたいしては過小投資になる恐れがある。これを改善するためには‥‥習得した技能は公的あるいは私的を問わず適切に評価し、‥‥。個々の労働者が自分で行った訓練についての学習記録は効果的な生涯教育機会を提供する新機軸である。

職場での慣行も変わる必要がある。技能(スキル)の向上だけでは十分ではない。人的資本が効率よく使われ新技術とうまく相互作用しなくてはならない。

・これは仕事の再編成を意味する。というのも従業員の参加、よりフラットな管理構造、チームワークなどのような新しい仕事のやり方を採用した企業が生産性をあげているからである。

・変革を実施する過程では労働者により広範な発言権を与えること、また国によっては、労使協力をより進めるための制度創りが不可欠である。

・ITCの重要なメリットのひとつはそのネットワーク効果であることからすれば、デジタルデバイドを減らすことは経済成長を高めるであろう。より多くの人々がネットワークを利用すればますますその効果は上がる。

しかしコンピュータがあればよいと言うわけにはいかない。この新技術を学校に取り込み、資質ある教師の供給を増やすことが不可欠である。
 
★ 創業と企業精神を支援すること
 
ITC及び他の新技術セクターの振興企業は非常に革新的であり、近年、生産性向上への貢献度を増している。

ベンチャーキャピタルとハイリスクキャピタルに対する足かせを取り除くことが優先課題。

・実際、多くの国は、年金ファンドや保険会社など、特定の投資家がベンチャーキャピタル投資に関わることを禁止または奨励しない規制を撤廃しないでいる。

・さらに、初期段階のリスクの高い事業に関わる企業家や投資家の努力が報われるような新しい金融市場を含めて、株式市場の発達を阻害する規制も取り除かれるべきである。

・《 図表 》(「振興企業へのベンチャー投資資金のGDPに対する割合、1995-99年」米国、EUに較べ、日本の伸びは皆無となっている。)

過重な行政上の障害は撤廃されるべきであり、破産手続きは見直されるべきである。

新たな事業の登録に係わる、過重な、不必要に複雑な、または時間のかかる規制は多くの国で新規企業の参入を阻害している。さらに、起業の初期段階にある会社には、税制や他の遵法手続きが、不釣り合いに過重に課されているかもしれない。

・《 図表 》(「OECD加盟国における起業に対する障壁(1998年データによる)」では、競争に対する障壁、規制と行政手続きに対する不明瞭性、企業に対して課せられる行政手続きなどの総合指標で、日本はワースト4の位置にある。

・事業に失敗した場合に直面する、行政手続き及び文化面での困難や費用(コスト)を考え、企業家が新規事業への参入を思い止まることも有り得る。とりわけ、破産手続きに係る過度な費用は、企業家が次の機会(チャンス)を得る可能性を減らしてしまうため、いくつかの国で問題となっている。

・教育と訓練プログラムは起業精神を前向きに評価するようなものであるべき。

 
★ 適切なマクロ的経済基礎を確保すること
 
ニューエコノミーには健全な経済社会基盤が必要。

・情報通信技術(ITC)、人的資源、革新及び創業に関する政策が成功するためには経済的かつ社会的基盤が安定していなければならない。

ハイリターンの物理的、人的資産に対する投資に要する公共部門の支出は無視されてはならないので、予算はそれにあわせて再調整されるべきである。

よく機能する市場と制度が変化を促進する。

いくつかの国で国家による価格と市場参入の統制がいまだに競争を大幅に制限し、新しい技術の導入を遅らせることにより生産性の向上を少なからず遅延させている。これらの障害を除去することは依然として課題である。

大きく安定的な企業や十分確立した産業の物理的な資産の蓄積のためだけに貢献したりしないように、多くの国の金融市場及び制度は再適応しなければならない。

構造変化により影響を受ける労働者が新しい仕事を見つけ、再訓練を受けるのに必要な支援ときっかけとを受けられることを確実にするには労働市場制度が鍵となる。

・成長による便益はすべての国民により共有されなければならない。これを実現する最もよい手段の一つは労働市場への参加を促進することである。‥‥英国の労働家族控除税制のような労働賃金政策は、潜在的労働者を労働市場に参加させ生産性と成長に貢献する。要するにうまく設計された社会保護は不公平を是正するだけでなく、成長にも資するということである。

 
★ 結  論
 
・情報通信技術(ITC)は経済社会活動を変革する潜在能力を持つ鍵となる技術として登場し、マクロ経済の安定のための条件の整った国にさらに早い成長をもたらした。‥‥政府はそれに適応し社会コストを低く抑えるための手を打たなければならない。

・しかし、ITCだけが成長の格差を説明する要素ではないし、これらの技術を支援する政策が高度成長へとその国を導いてくれるわけでもない。実際のところ成長は単一の政策や制度の制定の成果ではなく、将来の変革と革新を実現するための条件を整える一連の包括的な取組みの成果である。このことは、人的資源の質の向上と、職場及びより広い社会での要求の変化への対応に、かつてなく依存している。

・政策決定者達は時間と政治的な資源をかけてこれらの課題に取り組み覚悟が必要である。

変革は素早いかもしれないが、それが実現するようなダイナミックな環境を作ること、さらにはその結果を見ることには数年掛かるかもしれないということである。

主要政策提言
具体的政策優先度は国によって異なろうが、「ニューエコノミー:熱狂を超えて」は以下の目的を達成するために包括的成長戦略を採用することを推奨する。

1.経済社会の基礎条件を強化する  マクロ経済の安定、開放度の向上、市場及び制度的機能の向上および所得分配への対応を通じて。

2.ITCの普及を促進する  通信産業及び技術での競争の強化、技能の向上、ITCへの信頼の確立と、電子政府への優先度強化により。

3.技術革新を支援する  基礎的研究の優先度アップ、公的研究開発資金の効率の向上、科学と産業界間の知識の移転の促進により。

4.人的資本に投資する  教育訓練を強化し、教職の魅力を増し、教育と労働市場の関連を高めるとともに、変化する労働形態に労働市場、及びその制度を適合させることにより。

5.企業創出を刺激する  ハイリスクの資金を確保し行政的手続きを簡素化し、企業化精神への前向きな姿勢を養うことにより。

 
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