新聞記事で以下のコラムに目がとまった。
<――日本が世界で果たす役割は。
「日本経済も、グローバル化の中での重心の低い自律経済を志向し、戦略的な基盤を確立することが大切だろう。たとえば蓄積した技術を食の分野に投入して自給率を高め、海外からの輸送エネルギーを削減するという案もある」>(金融危機インタビュー 寺島実郎さん/自律経済で足元固めよ/朝日新聞 2008.12.16 )
関心を向けたのは、<蓄積した技術を食の分野に投入して自給率を高め、海外からの輸送エネルギーを削減するという案もある>という箇所である。
が、その前に、寺島氏へのインタビューでの回答にはほかにも目を引くものがあったので触れておきたい。たとえば、
<――金融危機が実体経済に波及しています。
「金融危機が実体経済に波及するという認識は正しくない。米国では骨の髄まで産業の金融化が進んでいる。ゼネラル・モーターズ(GM)はわずか1、2年前には利益の半分以上、ゼネラル・エリクトリック(GE)の利益の大半も金融部門が支えていた。そこで金融バブルがはじけた」>(同上)
という指摘である。この<認識>がないと、現在、のた打ち回っているところの "金融危機" の深さが見えてこないだろうし、米国経済の今後の姿も推測し難いのではないかと思えた。
さて、冒頭で引用した箇所についてである。興味深く思えたのは、 "食糧自給" の向上が "輸送エネルギーの削減" に結びつけられている点なのである。この指摘は種々の点において卓越している。
現在、われわれを襲っている "危機" は、 "金融危機" や "経済危機" だけではなく、 "地球温暖化危機" もあれば、 "世界同時食糧危機" もある。また、 "世界同時食糧危機" に関する日本の状況はといえば、 "自給率" が4割という低水準だというのであるから緊急性が高い。
そこで、先ず食糧の "自給率" の向上が主要なターゲットとされることは実に当を得ているはずである。さらに、<海外からの輸送エネルギーを削減する>という、 "地球温暖化危機" の課題を抱えた現代ならではの視点が活かされている点に注目したい。
従来であれば、より安い産品の輸入であるとか、国際貿易の活性化というような経済的視点だけで事が論じられてそれで済んでいたはずだろうが、現在は事情が異なっている。より "複眼的" に考えることが必要となっていそうである。
つまり、 "地球温暖化危機" の課題もあれば、 "世界同時食糧危機" の課題もあるという "複合的危機" の時代にあっては、 "複眼的" 視点からの最適解が求められるべきだと思われる。
さらに、 "自給率" の向上とか、<海外からの輸送エネルギーを削減する>という条件に注目してみる時、やや極論になるかもしれないが、いわゆる "グローバリズム" という経済趨勢自体を捉え返す必要もありそうに思えてきたりするのである。
少なくとも、<冷戦後の20年、私たちは米資本主義の世界化をグローバル化と呼んできた>(同上)ところの "グローバリズム" は、結局、100年に一度という未曾有の "金融危機" に帰結したわけである。賞賛できる趨勢だったとはとても言えないし、まして自然現象だったはずもない。
グローバルな広がりの中での各国、各地域の人々が "持続" してサバイバルし続けられる "様式" というものは、もっと別なかたちであり得るのではなかろうか...... (2008.12.18)
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