寝室の窓を開けた途端、子猫がベランダに跳び出したのでしばらく様子を見ながら遊ばせることにした。暖かい陽気であったため、寒さを心配する必要はなく、ただ、手すりのそばに寄って跳び出すことだけを警戒していた。
このところ、家人がいない時には子猫を二階の寝室で遊ばせている。居間を本拠地とする内猫二匹と一緒にすると、神経質な一匹の方が "フゥー" と脅しをかけるため、しばらくは子猫を隔離しておこうとの配慮からであった。
ただ、子猫一匹だけだとこれまた心配なので、特に警戒心を持たない方の内猫一匹、ルルを "保母さん" 代わりに一緒にして面倒を見させる格好としている。
このルルであるが、初対面の時から何ら違和感を抱かず、子猫の方からの "乱暴" なじゃれつきも上手に往なしている。もともとルルは人懐っこく、知らないお客が居間に来ても、いつの間にか膝に乗っていくようなタイプなのである。
また、もう一匹の神経質で偏屈な内猫、リンに対してもことさら気遣うふうでもなく、淡々と付き合っている。リンにしてみれば、ルルは "愛想が良い" という以上に "能天気で横柄" な奴だと感じている向きもありそうだ。
自分はそんなルルを、冗談で "水商売" 向きの猫だと称したりしている。と言うのも、一番最初にわが家に訪れて、このお家で飼ってください、とせがんだ時のアピールの様子をいまだに良く覚えているからかもしれない。もうありったけの媚びを売り、気に入られようとするその "リクルート" の様子にはとうとう根負けをしてしまったのであった。
そんなルルであるから、新参者の子猫には一向に警戒心など持たず、何ら境界線を引くわけでもないようなのだ。お前も転がり込んで来たわけだね、という察しがついているのかもしれないし、その上、自分の "模様" と比較的よく似ていることもあってか何となく "親近感" を寄せているのかもしれない。
子猫の方も、まるで親猫にじゃれつくように気を許し、寝る時にはぴったりと寄り添って寝て、事情を知らなければ親子猫で通ってしまうだろう。
そんなことだから、家人が留守の間は、あたかも "保母さん" か "ベビー・シッター" かのように面倒を見ているようである。まあ、特に何かをしてやるというほどでもなさそうであるが、子猫が寂しがらずに済んでいそうなことは事実であろう。
ひょっとしたら "しょうがない" という気持ちがホンネなのかもしれず、夜に子猫を寝かせるべくケージに入れる段になると、ルルは、じゃあアタシの役目はこれでいいですね、と言わぬばかりに階下へと走り去って行くのである。一日ご苦労さん、と声を掛けてやりたい健気さなのである。
冒頭の、ベランダに出た子猫の様子に戻るが、やはり、そこから見たり聞いたりする外の様子が非常に気になってしょうがない、というふうであった。
大きな声で話す裏の家のおばさんの姿を遠目に見ながら、興味心と警戒心がありありと伺えるような耳の動かし方をしているのがとても可愛く思えたものだ。遠くから聞こえるバイクのエンジン音にもその耳を反応させており、戸外のありとあらゆる事柄に関心と興味を寄せる姿は、 "幼い生きもの" というものはこんなふうなんだなぁ、とつくづく思わせて余りあるものだった。
確かに、この家で拾われた時も戸外にいたのではあったが、まだまだ何が何だかわけがわからなかったのであろう。もっとも、この子猫を助けることになった家内の話では、当時、両目は泣きじゃくっていたからなのか "目やに" のためにまぶたがろくに開いていなかったともいう。
そんなことで、今朝、ベランダから眺望した明るい陽射しの光景こそが、子猫にとってのお初の "外界風景" だったということなのかもしれない...... (2009.01.04)
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