現代は、 "レバレッジ[てこ(lever)の作用]" の時代だと言われる。その典型のひとつは、 "金融活動" の領域で色濃い姿を表しており、<投資において信用取引や金融派生商品などを用いることにより、手持ちの資金よりも多い金額を動かす>という "lever" が駆使された現象なのであろう。
"サブプライム問題" とて、この文脈の中で発生したものと見なせるのだろうが、この問題に撹乱されている昨今の株式市場の動向も、凄まじい様相で無数の "lever" が暗躍して、株価の動きは方向性すら失っているようである。株価が毎日3%,4%も変動することを、<株価のボラティリティー(変動幅)が著しい>と言うのだそうだが、やはり異常な雰囲気を感じる。
今日あたりの動きに関してある金融筋の人間は、<「決算を材料にしてカラ売りなどを仕掛ける短期筋のマネーばかりが市場に出入りし、ロングの投資家や個人投資家が手を出せない状況となっている。......」>(2008/02/07 ロイター日本語ニュース)と述べていた。
確かに、決算を控えたこの時期なので、収益の "下方修正" をした企業銘柄などが、それを口実にされて、海外勢のヘッジファンドなどによって激しく叩き売られ(カラ売りされ)ているような露骨な空気なのである。日中のチャートの動きを、自分なんぞが垣間見ても、これはこれは......、というような異様な感じであった。600円台の下げ幅を記録した昨日はもちろんであったが、その反発があって当然とも言える今日でさえ、こうした "lever" を掛けての "売り圧力" は衰えていない雰囲気であった。
妙な表現をするならば、瀕死の重傷を負った者( "サブプライム問題" 被害ファンド?)が、なりふりかまわず、カラ売りという最後のカードに身を託し、いわば "地獄への道連れ" 作りに狂乱しているかのような異様さを禁じえなかったのだ。
いや、何が書きたいのかといって、別に、手玉に取られているかのような "東京市場" の惨憺たる状況でもないのである。多分、こうした海外勢による "lever" の掛かったカラ売り旋風がしばらくの間は続くのだろうと思う。それは、波状攻撃のように現れ、日経株価平均の水準がやや回復し、多少の安堵感が広がるたびに展開されるのではなかろうかと、不吉な予感を持ったりする。
"レバレッジ[てこ(lever)の作用]" を、ひとつの鮮やかな特徴とする現代は今、金融領域において、いわばその "裏目" を被っているわけだが、 "レバレッジ" という点でもっと単刀直入に現代人が思い起こすべきは、いうまでもなく "IT(科学技術)" ということのはずであろう。そもそもが、金融領域での動向にしても、本を正せば "IT" の爆発的発展があったればこそだったはずである。金融関係の数式にせよ、その計算にせよ、圧倒的な "lever" の掛かったパワーで処理をするコンピュータが介在しなかったならば不可能であったに違いなかろう。また、急速、かつ飛躍的に発展を遂げたインターネット環境がなかったならば成立しなかったはずである。
こうした事情は、何もグローバルな金融領域での出来事だけではなく、現時点で世界中で起きている社会現象、その良いことも悪いことも、言ってみれば "IT(科学技術)" による "レバレッジ" で結果しているわけなのであろう。
ところで、こうした "IT(科学技術)" の "バクハツ" (芸術はバクハツだぁ~! どころの水準ではない)的展開に対して、その賛美はもちろんのことであろうが、そのほかにもいろいろなことが評されていそうだ。特に、 "遺伝子工学" などの分野については、シリアスな問題点も指摘されたりしているようだ。
こんなマクロな問題領域について、自分なんぞが口を差し挟む筋合いではなさそうであるが、ひとつ気になり続けているのは、次の点なのである。
上述したように、 "IT(科学技術)" の成果が、人間世界にもたらしていることを一言で言うならば、これまでにない規模での "レバレッジ環境" を人間たちに提供した、ということのように思えるのである。
そして、それはそれとした事実認識をしたとしても、巨大な規模での "レバレッジ環境" のただ中で生きる人間たち、もっと言及するならば人間たちの "脳" は、それをそれとしてまともに了解できているのだろうか、という点なのである。
ここ何日か、 "生の体験" というキーワードにこだわっているわけであるが、もし、脳化学者たちが言うように、 "脳" の働きというものが、もっともフィットするのが人間における "生の体験" であるとするならば、現代における生活環境は、いろいろな意味合いにおいて "非・生の体験" 的世界環境となっており、しかも、その在り様は、 "生の体験" からただただ遠ざかる方向に向けて "lever" が効いた "レバレッジ環境" となっているだろうからなのである。
どう考えればいいのかという視点の問題も含めて、関心を寄せて行きたい問題である...... (2008.02.07)
コメントする