米国大統領選挙の予備選で、民主党のオバマ氏が次第に優勢を示しはじめているのは、何となく心地よい。たぶん、人種問題の壁に果敢に挑んでいる点がとにかく応援してみたくなるひとつの理由なのであろう。
オバマ氏が米国大統領になれば何がどう変わるのかは、未だ定かに推定できないところではある。だが、ワーストと思しき現職大統領を頂く米国民にとっては、また深まる格差社会に喘ぐ米国庶民や若い世代にとっては、 "ケネディの再来" と受けとめたい期待があるのだと思われる。あるいは、 "破格の改革者" を期待したいのであろう。それらは十分に共感できそうであり、米国民の少なくない部分が、エスタブリッシュメントに対して、もういい加減にしてくれ、と憤りたい気分が鬱積しているのかもしれない。
現状の米国民の少なからぬ部分は、あの "サブプライムローン" での被害者となっているのかもしれない。せっかく入手できたマイホームを、手放さざるを得ず、その上借金だけを背負わされた低所得者層の絶望感は、想像以上に傷が深いのかもしれない。そしてここは、とにかく "救世主" 的存在を期待したいと望んだとしても不思議ではない。
そのオバマ氏に関して二点ほど書きたいが、そのひとつは、 "明" の部分。以下のように掲げた同氏の "経済政策" は、極めて妥当性がありそうでなお一層の共感を呼ぶのではなかろうかと思われる。
<オバマ氏、22兆円の経済対策発表・700万人の雇用創出
【ワシントン=丸谷浩史】米大統領選で民主党のトップに立ったオバマ上院議員は13日、景気不安に対応するため総額2100億ドル(約22兆6000億円)の経済対策を発表した。環境事業などで新規雇用を700万人創出することが柱で、経済政策での政権担当能力を誇示する狙いがある。......
オバマ氏はウィスコンシン州の演説で、今後10年間で実施する対策の概要を明らかにした。環境関連事業に1500億ドルを投じ、500万人の雇用を生み出す。同時に高速道路や橋、空港などの公共事業に600億ドル拠出し、200万人を雇用するとの内容だ。
「変革」を掲げて波に乗るオバマ氏は上院議員を一期しか務めていないため、経験不足との評がつきまとう。緊急景気対策法が成立した日に経済対策を発表したのは、もう一段の経済テコ入れの必要性を強調するとともに、こうした懸念を払拭(ふっしょく)する狙いがある。>( NIKKEI NET 2008/02/14 )
この<雇用創出>という言葉ほど、米国のみならずこの日本においても "魅力的" な言葉はなさそうだ。しかも、そのターゲットが<環境関連事業>だというのだから、より共感を呼ぶものだと推測できる。
同じ "緊急経済対策" にしても、現職大統領が打ち出した、高所得者層に有利だとされる減税政策に比べて、波及効果の持続性が大きいのではないかと思える。
たぶん、こうした政策立案は、オバマ氏の(若い)ブレーンたちが担ったのではないかとも思えるが、そこにも新しい米国の一面が垣間見えるような気がする。
もうひとつは、オバマ氏をめぐる "暗" の部分である。これも、以下の報道を引用しておく。
<オバマ氏、当選すれば暗殺される=英ノーベル賞作家のレッシング
【ストックホルム9日AFP=時事】2007年のノーベル文学賞受賞者の英女性作家ドリス・レッシングさん(88)はスウェーデン紙とのインタビューで、米大統領選挙で民主党のオバマ上院議員(写真)が大統領に選ばれれば、きっと暗殺されるだろうと述べた。
レッシングさんは9日付のターゲンス・ニュヘテルに掲載されたインタビューで、米国史上初の黒人大統領を目指すオバマ氏について、「黒人の大統領はきっと長くは続かない。彼は暗殺されるだろう」と語った。
レッシングさんはその上で、オバマ氏と民主党の大統領候補指名を争っているヒラリー・クリントン上院議員が米国初の女性大統領に就任した方がいいのではないかと思うと語った。レッシングさんは、「ヒラリーは非常にシャープな女性だ。オバマではなく、彼女が勝った方が事態はより穏やかだろう」と述べている。 〔AFP=時事〕>
これは、オバマ氏を "ケネディの再来" と感じる者が同時に背負わされてしまう不吉な予感であるのかもしれない。
米国には、いつも、色濃い "明" と "暗" の空気が漂ってきたことを振り返れば、楽観的には見過ごせない懸念でもあるのだろう。
しかし、もしそんな "テロ" があるとすれば、世界の "テロ" 撲滅を大義名分としている米国の威信のすべてが、国際社会から侮蔑されることになる...... (2008.02.14)
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