久々に、ホームセンターで "道具" に類するものを買った。そんなことをあえて書くのは、本来、本当に必要だからではなく、 "自己満足" で買ったからだ。
少しばかりデザインの良い、サイズ調整可能な "スパナ" なのである。一般的には、柄を含めると長さが20センチくらいはあるものだが、こいつはまともな強度を持っていそうでありながら、柄の部分が合成樹脂の短いグリップとなっており、全体で10センチというコンパクトなサイズなのだ。それが実にスマートで "魅力的" なデザインと見えたものだった。
いかに、 "道具マニア" といえども、当面何の使用目的もないものに目が向くわけもない。今日はたまたま、水洗トイレのタンク周りの不調を家族から指摘されていて、その修理部品を探しに来ていたのだった。
自分は、今までにも、数多の日曜大工道具類を買いあさって(?)いた。それらをここでラインアップしてみるのは、考えるだけでうんざりしてしまうほど多岐にわたる。しかも、その中には、同種類のものも "重複" しているはずであろう。
なぜそんな "重複" まであるのかというと、ほんのわずかでも "新しい工夫" が凝らされていて使い勝手が良さそうだと納得させられると、それを入手しないではいられなくなってしまうからなのである。一体、どういう了見なのか自分でもよくはわからない。
とは言っても、いずれも何百円かの小物道具類の話である。時々は、何千円もするものを長く躊躇した挙句にショッピング・カートに入れるものもあるにはある。
思うに、ホームセンターなどで、気の利いた道具類を入手するというのは、自身の何らかの能力がその道具類によって上乗せされるかのような錯覚を伴い、それが心地よいということなのであろうか。
最近の新製品市場では、この手の販売アプローチの商品が少なくないようにも思える。これが最も多いかと思えるが、洗浄力抜群と銘打った汚れ落とし剤であったり、あるいは、万能接着と銘打った接着剤であったり......。
こうした、ユーザ側の "操作万能感" を刺激するかのような販売アプローチもさることながら、 "グッドデザイン" 志向というのか、商品のデザイン性を売りにするものも着目に値しそうだ。いや、こんなことは言い古されたことのようにも思えるが、自分が着目しているのは、実質機能優先であるはずの日曜大工道具類や工具類にまで、この視点が広がっていそうだという点なのである。
たとえば、最近のこの種の販売コーナーを覗くと、ドライバーにしても、スケールにしても、ペンチ類にしても、非常にカラフルで華やかになっているのだ。そして、ちょっとしたアイディアも付加されていて、思わず手に取ってみたくなったりもする。
確かに、プロの職人たちが使う伝統的で燻し銀のような道具類は、実用一点張りの路線が踏襲されていてさほどの変化は見受けられない。
要するに、家庭でも使われたり、日曜大工でも使われたりするであろう道具類が、メーカーの戦略によって一般人の好感度を高めるべく、いろいろとデザインが施されるようになって来たということなのだ。
今日、自分が購入した "スパナ" はまさにその典型ではないかと思われる。本来ならば、クルマ整備の汚れた黒いオイルが付着して、無骨に道具箱に放り込まれているはずの "スパナ" なのであるが、こいつは、キッチンのテーブルや、書斎のデスクの上に置かれていたとしても十分に絵になるようなそんな斬新なデザインなのである。だからそれがどうしたと言われれば返答に窮するが、とにかくどこか妙に魅力的であることは間違いないような気がする。
一体、メーカーの製作・販売の意図はどこにあるのだろうか。まともに、 "スパナ" としての実直な機能が求められるTPO向けだけに、素面(しらふ)で提供しようとしているとは思えないのだ。本来の "スパナ" の機能とは関係なく、生活の中の "飾り" としてテーブルの上などに転がるイメージを、メーカー側の誰かが密かに抱いていたとするならば、それはリスキーではあるが、ちょいとおもしろいことだと思うのである。
と言うのも、今時、こんなものは売れっこない、と思われるようなものも、 "一種のデザイン" として一考するならば思わぬ歓迎を受ける場合もあるのかもしれない、と類推するからなのである...... (2008.03.09)
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