"ビジネスモデル" というタームがジワジワと現実味を帯び始めているのかもしれぬ。つまり、もはや<過去から連綿と続くビジネスモデルの微調整的な対応だけでは、ネットという破壊的な津波は乗り切れない>(引用先後述)のではないかという不安を伴った予感のことなのである。
おそらく、経済市場全体が一様にこうした様相を呈しているわけではなかろう。経済市場はとてつもなく広く、様々なジャンルで構成されており、多種多様なジャンルでの展開を全体として見れば、非常に "跛行(はこう)的" な状態のはずであろう。
そんな中には、相変わらず<過去から連綿と続くビジネスモデル>で、生きた化石 "シーラカンス" のごとく生きながらえているケースもあろう。さしずめ、アナクロニズムが権力的に温存されているような官僚たちの天下り企業なぞは、時を超越したスーパー・ビジネスモデルとでも言うべきか。
それはさておき、先手必勝的に最前線の動向をいち早く捉えることが決め手となりがちなビジネスにあっては、時代環境が紡(つむ)ぎ出し、先駆者が定式化する "ビジネスモデル" というべきものが益々注目されるべきなのであろう。もちろん、時代環境の主要な内実がネット環境にあることは否めまい。
現状は、ネットビジネスのジャンルはともかく "ビジネスモデル" がどうこうと言うほどではないと観察するのか、いや、環境に現れた兆しを先読みすべきなのだと考えるのかが、重要な分岐であり、選択だと思われる。
<「コンテンツは無料」の時代にいかに稼ぐかを考える>(岸 博幸/インターネット-最新ニュース/IT-PLUS 2008/04/28 )の筆者は、既に、ネット環境によって "ビジネスモデル" の改変が迫られている米国の音楽業界を見つめ、<最近米国で2つの面白い動きがあった>としていた。
つまり、<1つは、世界最大のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)であるMySpace(マイスペース)が大手レコード会社と共同で音楽配信サービスを始めたことであり、もう1つはロングテール理論で一躍有名になったクリス・アンダーセン(雑誌Wiredの編集人)が「Free! Why $0.00 is the future of business」という論文を発表したことである。この2つは、日本のネットビジネスに重要な示唆を含んでおり、見過ごしてはならない>と述べている。
前者に関しては、<ネットの普及に伴って音楽CDの売り上げが毎年10%以上も急減>、<「音楽自体は関連ビジネス(コンサート、グッズ、ファンクラブなど)で収益を得るための広告でしかない」>とかだそうで、<ネットの破壊力はすさまじく、音楽業界はビジネスモデルを根本から変えようと試行錯誤している>らしい。
また後者については次のように述べている。
<まず、情報に関する限界コストがどんどん低減する(ゼロになることはないだろうが)ことが既存産業に破壊的な影響をもたらすという事実認識が正しいことは、音楽産業の例からも明らかである。個人的には、それに加えてデジタル化で情報の複製と共有が容易になり、情報の価値が軽くなってしまった(平たく言えばタダが当たり前になった)ことも大きいと考えている。これら2つの地殻変動を避けられない以上、情報を商品とするコンテンツ、メディアなどの産業は、ビジネスモデルをドラスティックに変えない限り繁栄を続けられないことは明確である。>
そして、<コアビジネスの価値がデジタル化とネットワーク化で大きく低下したときに、その周辺や延長のビジネスでも稼ぐことにより「合わせ技一本」で収益を生み出す>というような "ビジネスモデル" の見直しは避けられないだろうと指摘している。
<日本のコンテンツ産業やメディア産業はビジネスモデルの抜本的な転換という構造改革に取り組まなくてはならないのである。現状のような、過去から連綿と続くビジネスモデルの微調整的な対応だけでは、ネットという破壊的な津波は乗り切れない。>という状況認識は、心して受け止めるべきだろうと思う。また、この種の動向を見る視点は、<コンテンツ産業やメディア産業>のみに限定するのではなく、自分たちが関与している業界にも援用してみるべきではなかろうかと感じている...... (2008.04.28)
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