"全能感"、"有能感" ！　その前提にある "無能感" ！ ......

　そんな時、冷静に客観的に思考を巡らせ、結果を出しているのは、自分の能力というよりも、 "道具" が秘めたパワーなのだとは思わないから面白い。そして、優れた可能性を秘めた "道具" 自体を賞賛するのではなく、姑息にも "手柄横取り" をして自画自賛に及ぶことが常となる。多少、醒めた眼で見ることがあったとしても、それにしてもそうした優れた "道具" を操ったのは自分自身なのであり、だからやっぱり、オレって、スゴイじゃん！　となってしまう。
　こうした "短絡" 的感覚に滑り込んでしまうのは、それはそれなりに事情がありそうな気もする。つまり、現代という厳しい時代環境に生きるわれわれは、というか自分自身は、日頃、やるせないほどに "無能感" の汚水に浸りっ放しとさせられていないか、と思うからなのである。そんな感覚を払拭したいと思うそばから、新たな "無能感" を接木(つぎき)させられてしまい、ただただ、 "リベンジ" への衝動ばかりが募って行く......。
　こんな常態的な惨めな事情が横たわっているがゆえに、一度(ひとたび)、優れた "道具" 使用の甲斐あって、そこそこの結果が出せてしまうと、まさに "短絡" 的に、オレって、スゴイじゃん！　ということになり、 "有能感" どころか "全能感" に充たされて天空へと舞い上がってしまうに違いない。

　おそらく、こうした "マジック" のような役割を果たす "道具" 類を "商品化" しているメーカーやベンダーは、この "マジック" 部分の効能を虎視眈々とマークしているのかもしれない。
　ひょっとしたら、極端に言えば、当該の "道具" が "具体的に何を為し得るか" という側面よりも、これを利用するユーザーに "如何なる全能感が提供できるか" という側面の方に強い関心を寄せていないとも限らない。もちろん、後者は前者を大前提とするわけだから、空疎な "マジック" を展開するわけには行かないだろうが......。
　しかし、当該の "道具" 自体を購入してくれる者は、 "道具" がもたらす結果に対価を支払うエンドユーザーというよりも、先ずは "道具" を直接使うユーザーであろうから、やはり "使用感" の効能に最大限こだわらざるを得ないのではなかろうかと思える。

　しばしば、こうした "錯覚" と同種な問題では、巨大組織に所属する者が、その組織のネームバリューが事を促進しているにもかかわらず、オレって、スゴイじゃん！　と "全能感" に浸ってしまう例が挙げられたりする。
　こうした "錯覚" のままでいる者は悲惨なことになりそうであるが、上記のような優れものの "道具" が持ち込んだ "全能感" などの "錯覚" を含めて、この時代環境は人々を "錯覚尽くめ" へと追い込む、そんなワナを張り巡らせているのかもしれない......　(2010.03.23）