一昨日、<不況のIT業界/当面ソフトの時代衰退,クラウド中心のサービス型ビジネスが主流?>と、"クラウド" の上昇機運について書いたばかりだ。が、米アップルは、そんなこと先刻承知! とばかりに鮮やかに "クラウド" へと舵を切っていたというニュースなのである。
<Apple、「iCloud」を発表、音楽/アプリ/電子書籍などクラウドで管理
米Appleは米国時間2011年6月6日、クラウドコンピューティングを利用して音楽や写真、アプリケーション、文書ファイルなどを保存、管理できる無料のサービス「iCloud」を今秋から始めると発表した。
「iPhone」「iPad」「iPod touch」「Macintosh(Mac)」やWindowsパソコンのアプリケーションと連動し、ユーザーのコンテンツを自動で同社のデータセンターに保存するというサービスで、すべての機器でデータを最新の状態に保てるとしている。
iCloudは、これまで同社が提供していたオンラインサービス「MobileMe」や、アプリケーション配信サービス「App Store」、電子書籍配信の「iBookstore」なども組み合わせた包括的なサービスとなり、これらに加え新たに、iOS端末のコンテンツをバックアップする「iCloud Backup」、文書ファイルを保存する「iCloud Storage」、写真を一時的に保管する「Photo Stream」、音楽配信サービスと連動する「iTunes in the Cloud」を用意する。
このうち、iTunes in the Cloudでは「iTunes Match」と呼ぶ、年間24.99ドルの有料サービスを米国で始める予定。iTunes in the Cloudでは、ユーザーがAppleの音楽配信サービス「iTunes Store」で過去に購入した楽曲ファイルを追加料金なしでiOS端末に再ダウンロードできるようになる。iTunes Matchでは、iTunes Store以外で入手した楽曲について、Appleが配信権利を持つ約1800万曲と照合し、合致したものをAAC形式(256kbps)で提供する。これによりユーザーは、「照合できない残りのごく一部の楽曲だけをアップロードすればよく、音楽ライブラリ全体をアップロードする必要がなくなる」とAppleは説明している。
このほか、文書ファイルを保存するiCloud Storageでは、同サービスのAPIを使って作成した書類をクラウド上に保存し、それらを自動的に各機器にプッシュ配信する。このサービスでは、5Gバイトまでのストレージ容量を無料で提供する。Appleで購入する音楽やアプリケーション、電子書籍と、写真保管サービスで必要となるストレージ容量はこの5Gバイトの制限外となる。また、ストレージ容量の追加購入オプションも用意する予定で、料金については後日明らかにするとしている。
Appleは同日から、iCloudのベータ版とCloud Storage APIの提供をiOSとMacの開発者プログラムで始めた。このほか、iTunes Match機能を搭載しないiTunes in the Cloudベータ版を米国で始めた。iCloudの正式版は今秋、iOSの新版「iOS 5」のリリースに合わせて提供する予定。(小久保 重信=ニューズフロント)>(<Apple、「iCloud」を発表、音楽/アプリ/電子書籍などクラウドで管理/ITpro/2011/06/07>)
では、クラウドへと舵を切るアップルの戦略的意図はどこにあるのだろうか? 以下の記事がズバリとそれを伝えている。
<■ iCloudがもたらす2つの変化
筆者には、今回の基調講演はアップルにとって大きな意味がある転換点のように感じられた。その意味はスティーブ・ジョブズ最高経営責任者(CEO)の次の発言に集約されている。
「10年前、コンピューターがデジタル生活のハブになっていくと思っていた。Macがその役目を担ってきたが、この数年でそれも変化を遂げている。なぜなら、デバイスが進化したからだ。iPhoneやiPadは音楽、写真、動画のすべてに対応する。それらをいちいち1台のMacと同期するのは間違いだ」
そこで登場するのがiCloudだ。
......
もう一つの変化は、iPhone/iPadがMacやWindowsなどのパソコンがなくても使えるようになったという点だ。iOS5ではパソコンとの接続が不要となり、端末単独でアップデートなどの作業ができるようになった。
これまでiPhone/iPadは、購入後にパソコンに接続して「アクティベーション」作業をする必要があった。さらにデータのバックアップやOSをアップデートするには必ずケーブルでパソコンに接続して、管理ソフト「iTunes」を起動させる必要があった。
■ もはやMacが主役にならない時代に
無料でユーザーのデータを預かり、複数のデバイスと同期し、さらにパソコンとの接続が不要というのは、米グーグルのOS「アンドロイド」が得意としてきたことだ。これまでアンドロイドと比べたiPhoneの弱点は「パソコンが必要不可欠」という点に尽きた。
パソコンが得意でない年配層がiPadに興味を持った場合、アップルストアなどでその場で作業をしてくれるとはいっても、パソコンにつないでアクティベーションをしなくてはならないことが障壁となっていた。
これまでiOSは何度も進化を遂げてきたが、iPhone/iPadは「パソコンの周辺機器」という位置づけからは脱していなかった。かつての社名「アップル・コンピュータ」から「コンピュータ」を外しても、「Macがメインビジネス」であり、そのスタンスに変わりはなかった。
今回の基調講演ではジョブズCEO自身が、もはやMacが主役にはならないことを認めた。世界に2億台あるとされるiOS搭載端末を普及させ、ユーザーがiPhoneとiPadなど複数のデバイスを使い分けることが当たり前になってきたことで、主役は「クラウド」に変わろうとしてるのだ。>(<クラウドに舵を切るアップル 新OSで「総取り」狙う Macは"脇役"に ジャーナリスト 石川 温/日本経済新聞 電子版/2011/6/7 15:23>)
さらに、ここに来てのクラウド参入には、iPhoneを追い上げてくる "アンドロイド" 端末への反転攻勢の対抗戦術という事情もあるとされる。
< これまでのは「グーグルのサービスを最も使いやすいスマートフォン」という位置づけもあった。
iPhoneは、「Gmail」や「カレンダー」など、クラウドに預けた個人のデータを引き出す最適なモバイル端末としてビジネスマンに受け入れられた。この先、アンドロイドを使ってデザイン性に優れ、使い勝手のよいユーザーインターフェースを作り上げた端末が出てくれば、データはクラウドに預けたままで、iPhoneからアンドロイドに乗り換えるユーザも出てくるだろう。
ユーザーにとって最も重要で、毎日携帯しなくてはいけないアプリは何か。それは、これまでに蓄積してきた膨大なメールやスケジュール、連絡先などの「個人データ」だ。グーグルは使いやすいWebサービスを用意して世界中から個人データを集め、クラウドに置いた。彼らは次のステップとして、データを引き出しやすい端末をアンドロイドによって普及させようとしている。
アップルは「使いやすい端末」を普及させられたが、最強のアプリともいえる「個人データ」をうまく蓄積できているとは言えない。iTunesで全世界で2億2500万もの個人のクレジットカード口座番号を把握していても、メールやスケジュール、連絡先ではグーグルに及ばない。
これまでアップルは、グーグルが得意とするクラウド分野を果敢に攻めてきた。この先もモバイルで勝ち続けるには、「いかにユーザーが必要とするデータを囲い込むか」が重要であり、クラウドへの展開は避けて通れない選択だったのだ。>(同上サイト)
<他社の「いいとこ取り」で穴を埋め>つつ、<まさに今回のバージョンアップは、ジョブズCEOが「iPhoneには、ほかのスマートフォンと比べて見劣りする点がひとつもない」と言いそうな進化>、それが、米アップルのしたたかさなのだと見ざるを得ない...... (2011.06.08)
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