これは "ものづくり(製造)" に限らないことだと思われるが、飛躍的なイノベーションの進展とインターネットの普及とにより、"誰もが" これまで専門的分野と見なされてきたさまざまなことが "できる" 、そんな環境となった。
すでに、"ソフトウェア" のジャンルでは、高性能の "ITデバイス" と高性能かつ安価な "アプリ・ソフト" の登場、"オープンソース" の潮流、"プログラム" の "シェア" など、至れり尽くせりな環境となり、簡単なシステムであれば "誰もが" ソフト・システムを操れる時代となった。もはや、"プログラマ" や "ソフト業者" などは不要(?)とさえ感じられるほどの環境変化だ。
そんな変化が、"ものづくり(製造)" のジャンルにも出現しつつあるとするのが、この間注目してきた "3D(三次元)プリンター" に象徴される "21世紀型のものづくり" とでも言うべきテーマである。
そして、このテーマに脚光を浴びせたのがクリス・アンダーソン氏(『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』)であることは、昨日のエントリー( "MAKERS"/クリス・アンダーソン氏来日講演/session! "共創"が日本の製造業の課題か?!( 当誌 2012.11.20 ) )でも取り上げた。
今日は、そのクリス・アンダーソン氏のインタビューの模様を伝える記事( 誰もが「作り手」になれる時代、エンジニアの存在価値とは?~『MAKERS』著者クリス・アンダーソンに聞く【キーパーソンインタビュー】/ET エンジニア type/2012.11.12 )を取り上げることにした。
内容のその骨子は、以下の5つ節の表題に集約されている。
<■プロのエンジニアは「コミュニティの指南役」としての価値を持つように
■Square創業秘話に見る、オープンイノベーションで問われる資質
■「シェア」は新しい創作を生み出す原動力
■「意識的な実験」が、メイカーズの働き方を変える
■すべてのビジネス&クリエイティブのソースは好奇心である>
"ものづくり(製造)" に関し "誰もができる" 時代が到来しつつあるというわけだから、当然関心が持たれて良いのは、では、"ものづくり" のプロであるエンジニア(製造業者)たちはどうなるのか? であるに違いない。
したがって、より注目すべき部分は、表題にある<誰もが「作り手」になれる時代、エンジニアの存在価値とは?>に見合った第一節、第二節となる。
第一節では、先ず、<プロフェッショナルなエンジニアは何をやっているか。一言で言えば、コミュニティに参加するアマチュアの指南役です。/ プロとして学んできた開発のベストプラクティスをアマチュアエンジニアに教えたり、自分たちが研究した改善方法をコミュニティ内に発信したりするのです。>と語っている。
ただし、本命は次の点にあるとされる点に注意したい。
<プロフェッショナルなエンジニアが考えるべき問題は、イノベーションを「生む」フェーズにはない。むしろ求められているのは、さまざまなところで語られているイノベーションのアイデアを、「商品」に変えていくためのプロセスづくりだ>
ここから、全体の "山場" とも言える第二節の<■Square創業秘話に見る、オープンイノベーションで問われる資質>という課題が活きてくるわけだ。
<これからのモノづくり=オープンイノベーション=コミュニティ内で共創(コ・クリエイト)>において、"プロフェッショナルなエンジニア" は "指南役" を果たして行くことになるのだが、<求められるのは、やはりマネジメントスキルだ/ プロとしてやっていくには先ほども話したようにコミュニティ内のオーガナイザーとしてメイカーズを導くことが問われる>と強調される。
そして、<コミュニケーションスキルやリーダーシップ、コミュニティを活性化させる材料をきちんと準備する、といったようなソーシャルスキル>が、より強く求められるようになる、と。
さらに続けて、以下のように鋭く、言明される。
<21世紀型のイノベーションモデル~つまりオープンイノベーション~では、チームワーク、コミュニケーション、ソーシャル(=人とのつながり、かかわり)から新しいモノが生み出されていくので、自分の殻に閉じこもったままのギークは、今後チャンスが限定されていくと思います>
これらの洞察は非常に適切だと思える。というのは、"ものづくり" 以前に、すでに "ソフトウェア開発" のジャンルでは、ベテランのソフトウェア・エンジニアたちに、こうした資質( "ソーシャルスキル" )が求められてやまない現実に直面し続けているからなのである......。
誰もが「作り手」になれる時代、エンジニアの存在価値とは?~『MAKERS』著者クリス・アンダーソンに聞く【キーパーソンインタビュー】/ET エンジニア type/2012.11.12
―― 今日は来日したばかりでご多忙のところ、貴重なお時間をありがとうございます。
いえ、とんでもない。
―― アンダーソンさんの新著『MAKERS』を読ませていただきました。これまでの著作である『ロングテール』や『フリー』で語られてきた「ビットの世界での変化」が、いよいよ「アトムの世界(物質社会)」にも革命を起こすという内容は、とても刺激的でした。......
―― そこで今日伺いたいのは、ズバリ、どうすればあなたのようになれるのか? ということです。......
―― アンダーソンさんは"メイカーズ"として、すでにご自身で立ち上げた3D Robotics社で事業を始め、数億ドル企業に成長させています。どうすれば日本の読者もメイカーズになれるのか、体験談を通じてアドバイスをいただければ幸いです。分かりました。『エンジニアtype』の読者はエンジニアということなので前置きをしておくと、今起こっているメイカームーブメントは、エンジニアたちの世界にもこれまでと異なるパラダイムシフトを引き起こすと考えています。
なぜなら、このメイカームーブメントは「スキルを持たない人たち」にモノを生み出すチャンスをもたらすからです。
エンジニアとは「スキルを持っている人たち」ですから、現時点でもうメイカーズです。それが、3DプリンタやCNC装置、レーザーカッターといったデジタル工作機械を安く簡単に使えるようになったことで、専門スキルを持たないわたしのような人でもメイカーズになれる時代が来ました。
例えばつい最近、無償の3次元CAD『Autodesk 123D』が出ましたが、このソフトを使えば子どもでもiPadを使ってCADデザインができます。皆さんにとっての重要な変化は、まさにこの部分にあるといえるでしょう。......
■プロのエンジニアは「コミュニティの指南役」としての価値を持つように―― そうなると、これまで製造業でエンジニアをやってきた人たちは、スキルを持っているだけでは職業的な価値を生み出せなくなります。「メイカーズの時代」が来ても価値を持ち続けるエンジニアと、そうでないエンジニアの差はどこで生まれるのでしょう?
......プロフェッショナルなエンジニアは何をやっているか。一言で言えば、コミュニティに参加するアマチュアの指南役です。
この役割はとても大切で、プロとして学んできた開発のベストプラクティスをアマチュアエンジニアに教えたり、自分たちが研究した改善方法をコミュニティ内に発信したりするのです。
―― つまり、メイカーズとしてコミュニティに参加する人たちを「教え導く」のがプロの仕事になると?
ええ、そうなっていくと思います。
―― その際に問われる「ベストプラクティス」というのは、個々人の経験則によって生み出されるものだと思うのですが、自らの経験則を使ってイノベーションを生み出せる人と、単なるチームマネジメントに終始してしまう人の差は何だと思いますか?
その質問は答えづらいですね......。そもそも論として、わたしは今の世の中がすでに"Too much innovation"だと思っているからです。...... つまり、イノベーションはすでに数多く生まれているのです。
だから、プロフェッショナルなエンジニアが考えるべき問題は、イノベーションを「生む」フェーズにはない。むしろ求められているのは、さまざまなところで語られているイノベーションのアイデアを、「商品」に変えていくためのプロセスづくりだと思います。
■Square創業秘話に見る、オープンイノベーションで問われる資質―― ではそのプロセスづくりに関連して、質問の切り口を変えてもいいですか?
ええ、どうぞ。
―― 『MAKERS』の中で、これからのモノづくりにおけるオープンイノベーションの重要性を語っていましたが、異なるバックボーンを持つ人たちが入り交じるコミュニティ内で共創(コ・クリエイト)していく際に大切な要素とは何なのでしょう?
とても良い質問ですね。どうすればオープンイノベーションがうまくいくのか? については、わたしたちのコミュニティでも何度も議論してきました。
その経験から言うと、これからプロフェッショナルなエンジニアに求められるのは、やはりマネジメントスキルだと思うんですね。
エンジニアとして自分でモノを作れるのは「当たり前のこと」として、プロとしてやっていくには先ほども話したようにコミュニティ内のオーガナイザーとしてメイカーズを導くことが問われるようになっていきます。
コミュニケーションスキルやリーダーシップ、コミュニティを活性化させる材料をきちんと準備する、といったようなソーシャルスキルが、より強く求められるようになるでしょう。
そして、さらに大切なのは、こうした能力を通じて自分のかかわるコミュニティからベストなソリューションを引き出し、商品として形にしていくことです。ここまでの流れを生み出すことが、プロのエンジニアの役割になります。
―― 本著に記されている「ジャック・ドーシーのSquare創業秘話」にもありましたが、いわゆるギークな人たちにとっては、このソーシャルスキルを身に付けることが鬼門になったりしませんか?
(編集部注:『MAKERS』によると、Squareの共同創業者となったドーシーとジム・マッケルビーが初めて待ち合わせをした時、仕事中だったマッケルビーに遠慮してか、青年ドーシーは目の前にいながら30分間一言も発せず棒立ちで待っていたという)そうかもしれません。ギークな人ほどソーシャルスキルが低いというのは、いわば彼らの欠点、課題でしょう。
21世紀型のイノベーションモデル~つまりオープンイノベーション~では、チームワーク、コミュニケーション、ソーシャル(=人とのつながり、かかわり)から新しいモノが生み出されていくので、自分の殻に閉じこもったままのギークは、今後チャンスが限定されていくと思います。
もちろん、「ギークはコミュニケーションが下手」というのは一般論であって、これに当てはまらないエンジニアが数多くいることも知っていますが。
―― アンダーソンさんが『DIY ドローンズ』でコミュニティ活動をしてきた中でも、一部のギークたちとの間で共創がうまくいかなかったことはありますか?
ええ、よくあります。ネガティブな発言が多かったり、コミュニティに参加する他人を批判したり、問題を自分で大げさにしてパニックになったり、人より面白くありたいと思うがゆえに突飛なことばかり言ったり......。
でも、ギークコミュニティの中で何かを共創していく過程では、こうした事態は「起こるべくして起こるもの」。だからこそ必要性を増すのが、モデレーターのできるギーク、コーチングができるギークなのです。
彼らが一緒になってコミュニティ内のルール、例えば「人の悪口は言わない」といった簡単なものからモノづくりに関する事項までを作ってくれることで、誰もが安心して参加できるコミュニティが形成されていきます。
■「シェア」は新しい創作を生み出す原動力―― 「モデレーターのできるギーク」は確かに重要性を増しそうですね。
とはいえ、わたしはこの記事を読んでいるエンジニアの皆さんが、「モデレーターになろう」、「コーチングができる人になろう」と変に気負う必要もないと思っています。
そういう役割のできるギークが重要になる、というのは事実ですが、『MAKERS』における最も大切なレッスンは、「アイデアをデジタルワールドにシェアすれば、モノづくりにも革命が起きる」ということ。
シェアすることで議論が起こり、新しいイノベーションが形になるきっかけとなるかもしれないからです。
「コミュニティに貢献する」という意味でのソーシャルスキルは、場を作り、取り仕切ることだけではありません。
何か気付いたことをWeb上に投稿してみる、作ったモノを動画に撮ってYouTubeにアップする、ブログを書く、紙に書いたものを写真に撮ってアップする。何でもいいんです。
「シェアする」というアクションを取るだけで、そこから新たなコミュニティが誕生する可能性だってあるわけですから、どんどん自分のアイデアをオンライン上で発信するべきだと思います。
―― 今おっしゃったようなシェアの集積が、「個人が経済を動かす時代」に生きるメイカーズたちのパワーになる、という考え方ですね?
まったくその通りです。
―― そこで次に伺いたいのは、企業の中にいるエンジニアがメイカーズとして活動していくためのコツです。日本的な「雇用」の考え方をベースにして言うと、企業側も、企業に属するエンジニアも、社外のコミュニティで積極的に活動を行うという習慣はまだ一般的なものとして根付いていません。その慣習を破るためのアドバイスがあればお願いします。
この話は「21世紀型の働き方」というテーマにもかかわってくると思いますが、わたしが作ったコミュニティ『DIY ドローンズ』の中には、先ほど話したように日中は正規の仕事をしながら夜や休日にコミュニティ活動を行う人がたくさんいます。......
いずれの場合にせよ、オープンイノベーションによって個人がパワーを持つ時代になればなるほど、勤め先以外のコミュニティに属するのは自然な働き方になっていくと思うのです。
■「意識的な実験」が、メイカーズの働き方を変える―― アンダーソンさんは、お子さんとのレクレーションの一環でロボット工作を始め、そこからDIYコミュニティや製造ソーシングの可能性を見いだしたそうですね。メイカーズとして商機を見いだす上で、こういったある種の偶然性をどう引き寄せればよいのでしょう?
3D Roboticsの起業話は、傍から見ると「偶然が呼び込んだチャンス」と映るかもしれません。が、わたしはすべてが意識的な実験によって生まれたものだと考えています。......
これは決して偶然ではありません。わたしが意識的に動いた結果見つけた、新しいイノベーションプラットフォームの可能性だったのです。
メイカームーブメントで何が新しいのかと言えば、テクノロジーが過去のどの時代よりも近い存在となったことで、「やってみる」、「意識的に試してみる」という行為が巨大産業をも変えてしまうという点です。Web上でワンクリックするだけで、誰もがモノを作れてしまうのですから。......
―― これからの時代の働き方としても、いかに「意識的な実験」をやり続けられるかが重要になるということですね。
そうです。そしてこれは、われわれの子どもたちにこそ知っておいてほしい事実だと思います。
■すべてのビジネス&クリエイティブのソースは好奇心である――日本人はとかくワーカホリックだと言われています。そのような人たちが、仕事と趣味の両面で「意識的な実験」をしていくのはなかなか難しいと考えているのですが、何か良いアドバイスはありますか? アンダーソンさんご自身も、『WIRED』の編集長をやりながら『DIY ドローンズ』での活動を行うなど、超多忙な毎日を過ごしていらっしゃると思うのですが......。
わたしはTVを観ません。アドバイスはこれですね(笑)。マジメな話、時間は有限ですから。
それと、常に好奇心を持ち続けてほしいということです。わたしはちょっとでも時間があれば、必ず「好奇心を満たす学び」に使おうと意識しています。どこかに旅に出る、会ったことのない人に会いに行くのも学びです。
そして、学ぶことでアイデアが生まれ、形にしてみようと思うわけです。
今の時代、こうして生まれたアイデアやモノをオンライン上にシェアすれば、コミュニティができ上がります。コミュニティができると、それがビジネスになることだって起こり得ます。
つまり、すべてのビジネス、あらゆるクリエイティブのソースは好奇心だということです。
―― なるほど。今日は短い時間で貴重なコメントをありがとうございました。最後になりますが、『DIY ドローンズ』の中に日本人の参加者はどのくらいいるのですか?
ちょっと調べてみましょう。......コミュニティに参加する人たちが総勢で約3万5000名いる中で、だいたい100名くらいですね。......
ちなみに、同じアジアでもシンガポールから参加している人は260名くらいですから、日本のコミュニティメンバーは少ない方だと思います。
もしわたしたちのやっている活動に興味を持ってくれる方がいれば、ぜひコミュニティに参加してメイカーズの仲間入りをしてほしいですね。
取材・文/伊藤健吾(編集部) 撮影/竹井俊晴 通訳/関谷英里子(プレミア・リンクス)
取材協力/コンデナスト・ジャパン&『WIRED』編集部( ※引用者注 ―― 文意を損なわないよう留意して割愛しています。)
記事中にあった<いわゆるギークな人たちにとっては、このソーシャルスキルを身に付けることが鬼門になったりしませんか?>という懸念には、かねてより、私自身もこだわり続けてきた。
"ソフトウェア" と "ものづくり" というジャンルの違いを超えて、"ソーシャルスキル" という課題に真っ向から目を据えるべき時なのである。ここに、"SNS" 普及などが指し示す "ソーシャル時代" の一つの重要な課題が横たわっているはず...... (2012.11.21)
コメントする