"電子書籍" と "電子書籍端末" が売れるための条件は種々考えられるが、何と言ってもその基本条件は、(1)"電子書籍" の "品揃え" 、(2)"電子書籍" の "低価格" であるに違いない。
もちろん、"電子書籍端末" のハードとしての性能も重要視されるが、視野を "電子書籍" ジャンルに絞るならば、ターゲットである "電子書籍" コンテンツ自体のあり様に左右されることは目に見えている。そして、これらはその "入手環境( "アンビエントな環境" )" と密接に結びついている点も見過ごせない。
こうした原点としての視点に立つならば、アマゾンが "Kindle(キンドル)" の日本発売と、同時にオープンした日本版「キンドルストア」によって、日本での電子書籍事業へと本格的に参入した目論みと今後の推移は一体どう読み取れるのであろうか?
この推移は、"Kindle(キンドル)" という "電子書籍端末" の売れ行き云々という問題だけにとどまらず、日本における "電子書籍" の普及とまさにひとつの事柄として考えられそうなだけに興味がそそられるテーマだと思える。
下記引用サイト記事:キンドルが売れないこれだけの理由 日本は電子書籍の「墓場」だ/山田 順 :ジャーナリスト - 東洋経済 ONLINE/2012.11.14 は、このテーマに関して十分な検討を加えつつ、"Kindle(キンドル)" の売れ行き云々という問題を超えて、日本における "電子書籍" 普及の前途に慎重な(悲観的な ?)サジェスチョンを提示している。
先ずは、<楽天が発売したカナダ発の「Kobo(コボ)」>に至るまでの日本におけるこれまでの "電子書籍端末" と "電子書籍" についてのかなり痛烈な評価から書き起こしている。
<売れたものは何もない/買ってがっかり、使ってがっかり> と。
そして、<では、キンドルには、日本で大ブレークする力があるのだろうか?> と問うて行く。
ここで、上記二つの "基本条件" が検討のための視点として据えられる。
(1)"電子書籍" の "品揃え" 、(2)"電子書籍" の "低価格" という視点である。
ただ、ここでこれらの "基本条件" に絡めて<日本で電子出版が進まない「壁」/日本の電子出版には「超えられない壁」がいくつか存在>という点が注意深く取り上げられることとなる。
詳細は措くとして、この<日本で電子出版が進まない「壁」>によって、要するにアマゾンをもってしても<中規模書店にも劣る品揃え>しかできない事態がもたらされる、と。
また、"価格面" においても、<日本で電子出版が進まない「壁」>によって、<キンドルでも電子書籍は安くならない>という結果に引き込まれてしまう、というわけなのである。
おまけに、これぞ<日本の電子書籍市場の特殊性>と見なされる<日本の電子出版市場の8割が漫画>という実態にも眼が向けられている。そうであれば、<キンドルは漫画を読む端末としては優れていない>という点が判断材料として浮上してくる。
つまり、<漫画を制しなければ、日本の出版市場は制覇できないのだ。現時点では、電子書籍の漫画を読むならスマホで十分こと足りる/若いユーザーはスマホを購入するだけで手いっぱい>というのである。
前述したように、"Kindle(キンドル)" という "電子書籍端末" の売れ行き云々だけがもちろん問題なのではなかった。
むしろ、アマゾンという "電子書籍事業の雄" をもってしても奏功しづらいとなると<日本で電子出版が進まない「壁」>の存在こそが何とも疎ましく思えるわけなのである......。
キンドルが売れないこれだけの理由 日本は電子書籍の「墓場」だ/山田 順 :ジャーナリスト - 東洋経済 ONLINE/2012.11.14
「日本は電子書籍専用端末の墓場だ!」という説が、今日までずっと言われ続けている。といっても、その説を唱えてきたのは私一人だけだが、この説に私はかなりの自信を持っている。
というのも、私自身がここ2年あまりで買い求めた電子書籍専用端末をまったく使っていないうえ、私の周囲の人間も同じように、まったく使っていないからだ。10月24日、とうとう、アマゾンが「Kindle(キンドル)」の日本発売を発表した。ほぼ同時に日本版「キンドルストア」もオープンし、日本での電子書籍事業に本格的に乗り出すことになった。......
しかし、キンドル上陸によって、これまで続いてきた日本の「電子書籍ガラパゴス」が、そう簡単に変わるだろうか■ 売れたものは何もない
......
日本で「電子書籍元年」と言われたのは、2010年である。前年からアメリカでキンドルが売れ出し、この年の5月にアップルのタブレット端末「iPad」が発売されると、メディアやファンの間で電子書籍フィーバーが起こった。......誰もが「これからは電子書籍の時代になる」と思った。日本の電機メーカーも ...... 以降、次々と電子書籍専用端末やタブレット端末を発売してきた。
しかし、これまで「売れた」と言えるものはあっただろうか?
...... そうしてみていま言えるのは、どの端末も中途半端、結局、これで本を読む気はしないということだ。
たとえば、ソニーの「リーダー」は、当初、通信機能がなかった。...... 当然、こんなものを買うユーザーはほとんどいなくて、......
私が買った旧「リーダー」は、いまやほこりを被って机の下に埋もれている。......■ 買ってがっかり、使ってがっかり
もっと悲惨だったのはシャープの「ガラパゴス」だろう。前宣伝も派手で、そのネーミングからして話題を呼んだが、本当にガラパゴスだったから驚いた。......
シャープと同じく、いまや世界の「負け組」電機産業となったパナソニックも2011年8月に、楽天と組んで「UT-PB1」という7型カラー端末を発売した。...... だが私は、業界関係者以外でそれらを持っている人間を見たことがない。こうした端末は、単に 持っているだけで通信料金がかかるうえ、アクセス先の電子書店にある電子書籍のタイトル数は、わずか数万点といったところだ。これでは、「買ってがっかり、使ってがっかり」だ。......
そんなこともあって、2012年夏に楽天が発売したカナダ発の「Kobo(コボ)」には、大いに期待した。...... しかし、すでに明らかなように、発売直後からコボは迷走を続け、いまやユーザーは見向きもしなくなった。
「ギター譜1曲も電子書籍1冊」「画像1枚が1冊」「Wikipediaも1冊」としてまでタイトル数を増やしていく姿勢自体に、大きな疑問符がついた。...... では、キンドルには、日本で大ブレークする力があるのだろうか?
キンドルが、これまで日本で発売された電子書籍専用端末と決定的に違うのは、3G回線が無料で利用できることと、ネット通販の会員を大量に持っていることの2点だろう。それ以外、たとえば、日本語書籍のタイトル数、価格などは、これまでの日本の電子書店とほぼ変わらない。......
■ 中規模書店にも劣る品揃え
しかし、だからといって、キンドルがそれほど売れるとは思えない。というのは、アマゾンですら、日本で電子出版が進まない「壁」を越えられていないからだ。
日本の電子出版には「超えられない壁」がいくつか存在する。...... 最大の壁は、タイトル数の少なさだ。 ......
たとえば、最大手の講談社は、今回のキンドルにも大量のコンテンツを提供している。...... それでも、電子化は毎月平均100冊という。
となると、集英社、小学館、角川、文藝春秋、新潮社など有力出版社が毎月提供できるコンテンツは、現状では合計して1000タイトルに満たないだろう。つまり、新刊に関しては、アマゾンに限らず、どの電子書店も今後、劇的にタイトル数を増やしていくことはほぼ不可能である。
実際、今回のアマゾンのタイトル数も5万点越えがやっとだった。
その中には、名作などの無料の日本語書籍1万タイトル以上が含まれ、合計1万5000を超える漫画タイトルも入っている。これでは、中規模のリアル書店にも品ぞろえで負けてしまう。アマゾンは、当初、日本の大手出版社と交渉すれば、タイトル数は集まると考えていたようだ。アマゾンの契約書は、電子書籍の「送信可能化権」を「出版社がアマゾンに許諾する」という内容になっていたからだ。
しかし、日本の著作権法では、この送信可能化権を出版社は持っていないのである。
アメリカの場合、出版社は紙も電子も含めて、著者とは包括的な契約(エージェント契約)をしているので、アマゾンは出版社とだけ契約すればよかった。ところが、日本の出版社は著作者から権利使用の「許諾」を受けているに過ぎず、著作者の了解を得ずに配信業者であるアマゾンに電子書籍のデータを渡せない。
...... アマゾンは、英米流(欧米流ではない)の小売り側が価格を設定できるホールセールモデルを日本でも導入できると考えていた。
だが、日本の有力出版社は、この点だけは譲らなかった。価格決定権を失えば、電子出版市場の拡大とともに、紙での収益が決定的に激減するからだ。楽天はこの点を理解し、出版社側に価格決定権があるエージェンシーモデルで契約した。その結果、アマゾンもエージェンシーモデルでの契約に追随せざるをえなくなったのだ。■ キンドルでも電子書籍は安くならない
こうして、一部のコンテンツをのぞいて小売価格をアマゾンが決めることができなくなった。アメリカでキンドルが売れたのは、なによりも電子版が紙版(ハードカバー)より圧倒的に安かったからだ。25ドル以上するハードカバーが9.99ドルまでに値下げされた。これが、日本では起こらないことになった。......
結局、現状では、キンドルストアの電子書籍の価格は、出版社側の希望で紙の本の7割までしか安くならず、ほかの電子書店とほぼ横並びだ。つまり、キンドルストアは、価格に関してはなんの目新しさもない。アマゾンのジェフ・ベゾスCEOは、キンドルの日本発売に際し、日本のメディアのインタビューに対して、ホールセールモデル(出版社から書籍を卸してもらってアマゾン側が小売店として価格を決める形式)とエージェンシーモデル(アマゾンが代理店役となって出版社が価格を決める形式)の 2種類の取引形態に対応したと明かしている。
つまり、当初、予定していたホールセールモデルによる大手出版社との契約はうまくいかず、2通りの契約形態になったということだ。しかも、エージェンシーモデルにおいても価格は自由にできない。ベゾス氏は以前から一貫して「電子書籍はサービスである」と言ってきた。しかし日本では、アマゾンといえども満足なサービスができないままの始動となったのは明白だ。なぜなら、ベゾス氏が言うサービスとは、これまでのアマゾンの動きを見るかぎり、徹底した「価格破壊」だからだ。
これでは、キンドルがアメリカのように売れるとは言い難い。
■ マンガ抜きに、電子書籍は制覇できない
おそらく、ベゾス氏が期待しているのは、出版社提供の電子書籍の売り上げからマージンを得るビジネスではない。本命は、アメリカで成功した「キンドル・ダイレクト・パブリッシング」だろう。すでに、アメリカではここからミリオンセラーを出す作家が誕生している。
もし、キンドルが売れれば、出版社経由のコンテンツ販売よりも、アマゾンの電子出版ビジネスはこちらのほうが主力になるはずだ。さらに、キンドルがそれほど売れない理由として、日本の電子書籍市場の特殊性が挙げられる。
インプレスR&Dによると、日本の電子書籍市場は、昨年時点で629億円。そのうちの約8割がエロ系漫画を中心とした漫画コンテンツだ。この市場は日本独特のガラケーによってできあがったものだが、キンドルは漫画を読む端末としては優れていない。
ベゾス氏は、キンドルのフォーマットが日本語の縦書きに対応したことをアピールしている。しかし、彼はまさか日本の電子出版市場の8割が漫画だということを、夢にも考えなかっただろう。また、紙の出版市場の3割以上が漫画だという点も理解していないだろう。
つまり、漫画を制しなければ、日本の出版市場は制覇できないのだ。現時点では、電子書籍の漫画を読むならスマホで十分こと足りる。キンドルがそれほど売れないだろうと思う理由はまだある。それは、いまはガラケーからスマホへの転換期で、若いユーザーはスマホを購入するだけで手いっぱいだということだ。そんな若者たちが、電子書籍を読むだけのために、さらにもう1台のデジタル端末を買うだろうか?
いまの若い世代は、クルマはもとより、テレビもPCも買わないという。たしかに「iPhone」は売れても「iPad」はそれほど売れていない。スマホでも電子書籍は購入できるし、テレビも見られるし、映画も見られる。若いユーザーにとっては、スマホ1台あれば、ほかのデジタル端末は必要ないのだ。アマゾンは秘密主義に徹した会社だから、売れようと売れまいとキンドルの販売台数は発表しないだろう。アメリカでさえそうだから、日本となれば発表はまったくないと思っていい。しかしそれでも、キンドル日本上陸の結果は、年内にある程度わかる。日本もいよいよ電子書籍の時代になるのか。私の墓場説がまたもや的中するのか。その答えが出る日は近い。
( ※引用者注 ―― 文意を損なわないよう留意して割愛しています。)
こうした観点で "電子書籍" というジャンルを俯瞰(ふかん)してみるならば、"電子書籍" という存在は、単なる "IT の一産物" という以上に、何か "その社会の文化全体が凝縮されたもの" のように見えてきたりする...... (2012.11.17)
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